【外信コラム】上海余話
「中国市場で日系メーカーの競争力は数年のうちに失われるのではないか」
こう言って苦悩の色をみせたのは上海に工場を構える機械部品メーカー現地法人の社長だ。日本の本社工場から最先端の技術を持ち込み、対中進出している外資系企業に売り込んできたが、「どの顧客も最先端の技術より、何世代も前の低い性能の部品を安く求めるようになった」からだ。
日米欧への輸出基地として価値を生んだ「世界の工場」から、13億人の消費者をターゲットとする「世界の市場」に変貌(へんぼう)しつつある中国。一部の高価な製品を除けば、日本が誇った高い技術は顧客から逆に「過剰品質」とみなされ、敬遠されるようになってきた。
この部品メーカーの社長の不満は本社の技術部門に対する“硬直性”に向けられていた。顧客が求めた10年前の製品を中国で作ろうとしたところ、本社工場から「技術的に不可能」と拒否された。最先端を長年求め続けてきたあまり、性能的に後戻りする製品の生産技術が社内から失われていたというのだ。
良いモノさえ作れば売れる、と信じて前だけを見て走ってきた日本企業。このメーカーに限らず、ニッポンを世界に押し上げた価値観が、世界の主戦場となった中国市場では、皮肉にも足を引っ張る要因になり始めている。(河崎真澄)