食品中の放射性物質が健康に及ぼす影響について、現在の「暫定基準値」から“暫定”を外す新たな基準値作りが動き出す。食品安全委員会が来週にも、正式に「評価書案」を厚生労働省に答申する。小宮山洋子厚労相は新しい基準値について「(暫定基準値より)厳しくなる」との見通しを示している。ただ、食安委は食品の基準の明確な線引きを出しておらず、基準設定は今後の議論の“さじ加減”次第。食の安全に対する関心が依然高い中、厚労省は微妙なかじ取りを迫られそうだ。
■「できるだけ早く…」
現在の暫定基準値は、東京電力福島第1原発事故を受け、食安委の評価を経ずに急遽(きゅうきょ)決められたもの。そのため、厚労省は3月20日、食安委に食品中の放射性物質が健康に及ぼす影響の検討を改めて行うよう諮問した。
7月に食安委がまとめた「自然放射線や医療被曝(ひばく)を除き、内部被曝と外部被曝を合わせた生涯の累積線量は100ミリシーベルトを限度にすべきだ」などとする評価書案は、この諮問を受け作られた。
食安委は今月27日にも正式答申を厚労省に行う見込みで、厚労省は31日に薬事・食品衛生審議会の分科会を開き、新しい基準値作りにむけた議論を始める方針。厚労省幹部は「できるだけ早い時期に結論を出したい」という。
■安心確保へ厳しく
ただ、食安委の評価書案にはパブリックコメント(意見公募)が1カ月に3千件超も寄せられるなど、基準値に対する国民の関心は高い。どのような基準値なら国民が納得できるかは依然不透明だ。
現在の暫定基準値は放射性セシウムなら食事で1年間に5ミリシーベルトまで取っても健康に問題ないと設定。5つの食品群に1ミリシーベルトずつ振り分け、日本人の年間摂取量などを勘案して定められている。
小宮山厚労相は21日、5ミリシーベルトの設定について「現在の状況を踏まえ、さらに食品の安全性を確保する必要がある。安全性の確保は(基準値を)厳しくすること」と、数値引き下げが必要との見通しを示した。
しかし、食安委の評価書は、どの程度の被曝量なら安全かについて、明確な線引きをしていない。
小宮山厚労相は「国際的な基準に照らし、専門家の意見も伺う」としているが、暫定基準値も国際放射線防護委員会(ICRP)が勧告した放射線防護の基準を基に作られ、政府も「相当の安全を見込んだ」としてきた数字だ。
一方で、品数は少なくなったとはいえ、依然として暫定基準値を超える食品が後を絶たず、子供を持つ親を中心に、食の安全に対して厳しい視線が向けられている。安易な基準変更は混乱を生む可能性もある。
【用語解説】食品安全委員会…平成15年に設置された内閣府の機関。規制や指導などを通じて食品のリスク管理を行う厚生労働、農林水産省などの行政機関から独立し、消費者庁も切り離されている。食品を摂取することによる健康への悪影響について、科学的知見に基づき客観的かつ中立公正にリスク評価を行う。北米産牛肉のBSE(牛海綿状脳症、狂牛病)などのリスク評価も手がけた。