政府が「地方創生」失敗を認めた…多くの人が知らない「東京一極集中」の本当の現実

政府が、地方創生について失敗を認めた。

取り組み開始から10年の節目となったことを受けて報告書をまとめたが、一定の成果を強調しつつも、「人口減少や東京圏への一極集中などの大きな流れを変えるには至っておらず、地方が厳しい状況にあることを重く受け止める必要がある」と総括したのだ。

日本全体として激減していくというのに、各地方自治体の人口減少歯止めを地方創生の目標として掲げたことには無理があった。だが、東京一極集中 の是正については、改善の余地があっただけに掛け声倒れに終わったということだ。

数字が厳しい現実を伝えている。

総務省の「住民基本台帳人口移動報告」によれば、コロナ禍前の2019年に8万2982人だった東京都の転入超過は、2021年には5433人にまで減った。だが、これは政策効果ではなくコロナ禍の影響だ。しかも、結局はコロナ禍にあっても、東京都は一度も転出超 過とはならず地方から人口を集め続けたのである。

感染が落ち着いた2023年は6万8285人となり、2019年の82.3%の水準まで回復した。こうした現実に、人口がすでに激減し始 めている県の知事などからは「政府が一極集中是正に向けて、もっと本腰を入れるべきだ」といった意見が相次いでいる。

誰が東京に来ているのか?

だが、東京一極集中に関してはイメージ先行の部分が少なくない。本質を見ずに本腰を入れても成果は上がらない。

東京一極集中と言うと、「東京」が全国各地から大規模に人口を吸い上げているかのように語られることが多いが、実際には全国各地から一律均等に集めているわけではない。

2023年の東京都の転入超過数を都道府県別(隣接する神奈川、埼玉、千葉の3県は除く)でみてみると、1位は大阪府の7836人、2位が愛知県の7731人だ。この両府県だけで全体の20.2%を占めている。

これに続くのが政令指定都市を抱える兵庫県、福岡県、静岡県、北海道、宮城県、広島県、新潟県で、これら7道県を合計すると全体の33.5%にあたる2万5814人となる。大阪府と愛知県を含めた9道府県だけで過半数の53.7%となっているのだ。

対象を「東京圏」に置き換えても、これら9道府県で51.9%と同様の傾向を示す。いまや東京一極集中は、「東京」対「地方」というより、「東京」対「政令指定都市」の問題として捉えたほうが分かりやすい。

それでも、「東京」対「地方」という構図で見られがちなのは、「地方」を一括りにして計算するからである。地方自治体を個々でみればそれほど大きな人数ではない。

これを別の角度からとらえれば、人口規模の少ない県は「東京」へと流出する人口までが少なくなっているということである。それは、やがて兵庫など7道県が、最終的には愛知県や大阪府も同じ運命をたどるということである。

むろん、人口がすでに激減している県にしてみれば、東京に流出する人数が9道府県ほどの規模でないとはいえ、県内人口が少ないので「大問題」ということだ。これに対して、人口の多い大阪府や愛知県は東京に流出している人が全国1、2位だと言ってもその数は微々た るものということだろう。

だが、大阪府や愛知県はそう安穏ともしていられない。リニア中央新幹線が完成すればストロー現象が起きかねないからだ。

すでに「東京」と「政令指定都市」の間の問題となっていることを考えれば、地方県よりむしろ大都市部を抱える道府県の知事のほうが危機感を強めたほうがよいかもしれない。

「地方からの大学進学」の間違い

「東京一極集中が進むのは、地方から多くの若者が東京圏の大学に進学するためだ」というのもイメージ先行だ。

文部科学省の資料で、東京都に所在する大学に進学した人を出身高校の所在地別でみてみると、2023年度は72.3%が東京圏(1都3県)の高校出身者であった。大学の所在地を「東京圏」に拡大しても70.9%は東京圏の高校からの進学だ。

1都3県以外で東京都の大学に進学した人は4万2094人である。東京圏の大学で計算し直しても7万3381人である。その大半は政令指定都市の出身者とみられる。人口減少が著しい県では「18歳人口」自体が少なくなってしまっているためだ。

それでも「地方の大学進学者が東京一極集中の大きな要因」のように語られるのは、東京の大学に進学する人の絶対数の問題というより、大学卒業後に戻ってこない人が多く、そのことが過疎化の原因になっているからであろう。

だが、ここにも事実誤認が紛れ込んでいる。10代後半から20代の若者が故郷を離れるのは、東京の大学に進学した人とは限らない。実は、地元大学を含め、東京以外の大学に進学した人も就職時に東京圏に移り住んでいるのである。

これについては国交省が興味深い資料を紹介している。東京圏以外にキャンパスを構える大学の卒業生の就職先をみると、京阪神や北海道、東北、北関東にキャンバスのある大学の卒業者は25%以上が東京圏で就職しているのだ。九州は約20%、四国を除くその他の地域も15%以上である。東京圏の大学に進学してそのまま東京圏で就職する人に加え、就職時に東京圏へと移る若者が東京一極集中を加速させているということである。

政府は2018年に一極集中是正策として東京23区内にある大学の定員増を原則認めないことにした。これについては、当時から政策効果が期待できない「愚策」との批判が強かったが、こうした数字を見る限り批判は妥当だと言えよう。

さらに、多くの県は地元私立大学の公立化を進めてきた。地元大学への進学率を高めることで地域への定着率を高めようという地方創生策の一環だが、国交省の資料を見る限りこれも効果は限定的だといえそうである。

移住は大きな流れになっていない

一方、東京一極集中をめぐっては「地方移住」を希望する人の増加が取り上げられることが多い。これも現実を正しく捉えているわけではない。

確かに、移住する人は増加傾向にはあるが、地方移住者が大きな流れになっているかといえばそうではない。

国土交通省の首都圏白書によれば、東京都の30代~40代は2019年には転入超過だったのが2023年には転出超過へと転じたという。だが、30代の転出先を確認すると、さいたま市(埼玉県)、茅ヶ崎市(神奈川県)、横浜市(同)、流山市(千葉県)、町田市(東京都)といった東京圏に位置するベッドタウンが上位を占めているのだ。

東京23区の住宅価格が高騰したため、購入できる物件を求めて郊外に移り住んだということだろう。転出者が増えても東京圏の中を移動しているのでは一極集中の是正にはつながらない。

政府が東京一極集中の是正を強化するならば、まずは全体の過半数を占める9道県の中に位置する政令指定都市の梃入れから始めることだ。すべての「地方」に東京圏からの人の流れをつくることは理想ではあるが、かなりの労力と時間を要し現実的ではない。人口減少のスピードの速さを考えれば、メリハリを付けざるを得ない。

それぞれの地域の「人口の受け皿」となるよう都市機能のバージョンアップを図るのである。人々を惹きつける魅力ある大都市となるには、人口が減っても成長を続けられるよう産業基盤を質的成長モデルへと再構築することが不可避だ。そもそも成長を見込める企業が乏しく雇用の少ないところに人は集まらない。

産業基盤を再構築することによって、これらの政令指定都市においても男女を問わず「希望する仕事が見つかる」という状況をつくることができれば、「過密な東京に就職しなくて済む」という人が増えよう。それどころか、各地からこうした政令指定都市を目指す人の流れもできるかもしれない。

人口減少社会に対応し得る政令指定都市を各地に存在させることは、その周辺都市を含めた「エリア全体」の活性化策を展開できるようになるということでもある。

いたずらに東京一極集中の是正を唱え続けて行っても、状況は何ら変わらない。そうこうしているうちに、日本全体の人口が激減して打つ手を無くしてしまう。地方創生を成功に導くには、「地方」がどこを指すのか早急に整理するところから始めることである。

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