救世主は「ハンバーガー」!? 松屋、鳥貴族、ロイホが続々と参入するワケ

 コロナ禍において、大手・中堅の外食が続々とハンバーガーに進出している。  2020年11月、「焼肉ライク」がヒット中のダイニングイノベーションが、東京・中目黒に「ブルースターバーガー」を出店。また、「ロイヤルホスト」「天丼 てんや」のロイヤルホールディングス(HD)は、5月29日にチキンバーガーが主力の「ラッキーロッキーチキン」を、東京・武蔵小山にオープンした。鳥貴族も、8月にチキンバーガー専門店「トリキバーガー」の出店を予定している。松屋フーズも、デリバリー専門でライスバーガー「米(my)バーガー/こめ松」を4月にオープンした。 【画像】各社のハンバーガー  その背景として、ハンバーガーは外食の中でもテークアウト比率が6~7割と高いことが挙げられる。また、業界1位「マクドナルド」、2位「モスバーガー」の既存店売上高が、緊急事態やまん防(まん延防止等重点措置)の時に、跳ね上がる傾向がある。そして、デリバリーの人気も高い。両チェーンとも、1~4月の全ての月で、既存店売上高が前年を上回る好調ぶりだ。  また、フライドチキンのテークアウトとデリバリーの需要もハンバーガーと同等以上に高く、「ケンタッキーフライドチキン」の21年3月期における既存店売上高は前年比で113.6%と2桁増だった。ハンバーガーとフライドチキンが、コロナ禍でも好調に推移しているため、チキンバーガーへの期待が高まっている。  3回目の緊急事態宣言が発出され、適用地域も拡大している。飲食店の規制強化により、午後8時までの営業時間短縮に加えて、酒類の提供が禁止されている。  店内で飲食を楽しむ機会が縮小し、フルサービスのレストランは、焼き肉のような換気の良いイメージがある業態を除き、厳しい。特にお酒がメインとなる、居酒屋やバーのような業態は、休業するか業態変更するしか、打つ手がない状況だ。  感染拡大の場と疑われて目の敵にされ、瀬戸際まで追い込まれた外食企業が、ラストリゾートとして、ハンバーガーにこぞって参入している感もなきにしもあらずだ。  外食各社のハンバーガー市場への新規参入の動きをまとめた。

ロイヤルHDはバターミルクフライドチキン

 ロイヤルHDが提案する、バターミルクフライドチキン専門店「ラッキーロッキーチキン」1号店が、東京都品川区にオープンした。  メインとなるのが、バターミルクフライドチキンとフレッシュキャベツのビネグレットドレッシングサラダを、バンズで挟んだチキンバーガーだ。パクチーとハラペーニョが入っている。経営は傘下のロイヤルフードサービスだ。  店舗は、アーケードの長さ日本一の「武蔵小山商店街パルム」にある。昔ながらの生活感あふれるエリアだ。一方、東急目黒線が地下化して以来、一帯は再開発が進んでタワーマンションが建ち、新しいライフスタイルを持った住民も増えている。多様性のある立地だ。  顧客単価は675円を想定。メインターゲットは大学生や高校生だ。また、テレワークをする人のランチ需要、夕飯のおかず、お酒のおつまみとして購入してもらうシーンも考えている。購入の75%はテークアウトで、デリバリー15%、店内飲食10%という想定だ。  バターミルクフライドチキンは、米国で親しまれている家庭料理、コンフォートフード(懐かしさを感じる食品)だ。スパイスなどを加えたバターミルク液に国産鶏むね肉を一晩漬け込み、やわらかくしっとりさせて、12種類のスパイスが入った衣をまとわせ、スパイシーでザクザクの食感に仕上げた。  また、9種類のスパイスと3種類のかんきつ類などでつくる、オリジナルのクラフトコーラも売りだ。  5月28日に開催されたオンライン記者会見では、「日本でフライドチキンバーガー専門店は思い浮かばない。首都圏のさまざまな立地で検証し、今年は最大で10店を出店する」(ロイヤルフードサービス担当部長・石川敦氏)と差別化された業態に自信をのぞかせた。  価格は、「バターミルクフライドチキンバーガー」のオリジナルが500円、フライドポテトとドリンクRが付いたセットがプラス300円。「バターミルクフライドチキン」が1ピースで300円、「オリジナルクラフトコーラ」(R280円/L320円)なども用意した。  同社の20年12月期決算は、売上高が843億400万円(前期比40%減)、最終損益は275億3200万円の赤字(前期は19億2300万円の黒字)と苦戦した。外食よりも、ホテルや機内食の部門が落ち込んだのが響いた。そこで新しい柱を打ち出すため、持ち帰り需要が多いハンバーガーやフライドチキンを狙ってきた。

鳥貴族はチキンバーガー専門店を出店予定

 鳥貴族HDは8月中に、チキンバーガー専門店「TORIKI BURGER(トリキバーガー)」1号店を出店する予定だ。場所は、東京23区内の見込み。  朝食からディナーまでの営業とし、イートインのみならずテークアウト、ドライブスルー、デリバリーを想定。鳥貴族のDNAを受け継ぎ、国産鶏で均一価格による、低価格・高価値の商品構成を予定している。  同社は24年までに「TORIKI BURGER」に20億円を投資して、10~20店を目指す。将来的には鳥貴族と並ぶ主力業態に育成する意向。  鳥貴族はコロナ禍の居酒屋では好調なほうで、20年4月は緊急事態下の休業のため、既存店売上高が前年同月比3.9%にまで激減したが、10月には「Go To イート」の効果などもあり93.1%にまで回復した。  しかし、その後の緊急事態やまん防で、例年の3~5割程度の売り上げに落ち込んでしまっている。居酒屋業態としては、時短と禁酒のダブルパンチは余りにも痛すぎる。鳥貴族はコロナ禍が終われば復活する可能性が高いものの、今後も新しい疫病に襲われるリスクを考えれば、テークアウトやデリバリーに強いハンバーガーで、ポートフォリオを組みたいところだ。

米国ではチキンバーガーが大人気

 米国では、チキンバーガーは大きな市場を形成している。鶏肉のヘルシーなイメージもあって、近年は牛肉のハンバーガーより人気が高い。最大手の「チックフィレイ」は、「ケンタッキーフライドチキン」を凌ぐ売り上げ規模を持ち、北米に約2400店もの店舗を有する。  「ポパイズ・ルイジアナ・キッチン」というチェーンも、チキンバーガーが大人気。19年11月にはメリーランド州で、チキンバーガーを購入するための行列への割り込みを巡って殺人事件まで起きている。今、米国のチキンバーガーはそこまで熱いのだ。同チェーンは、世界25の国と地域で3000店以上を展開している。  函館を中心として南北海道に17店を展開する「ラッキーピエロ」で最も売れているのは、油淋鶏のようなソースが掛かった「チャイニーズチキンバーガー」という商品だ。チキンバーガーには、かなりの潜在的需要がありそうだ。

非接触のオペレーションを徹底

 ブルースターバーガーは、焼き肉のファストフード「焼肉ライク」の提案で名を上げた、ダイニングイノベーションの新業態。テークアウト専門で、キャッシュレス決済が特徴だ。  ブルースターバーガージャパンという会社を設立して、20年11月10日、東京・中目黒に1号店をオープン。フードテックを活用して、高品質で低価格を実現した内容が反響を呼び、16坪の店舗面積で月商800万~850万円の売り上げを誇る。今後はFC(フランチャイズ)で、店舗をスピーディーに広げ、国内2000店の出店を目指す。  同店では、コロナ禍に対応した非接触のオペレーションを徹底。注文から会計まで、店内のタブレットやモバイルオーダーの専用アプリで完結。並ぶことなく、商品のピックアップが可能だ。決済は、各種のクレジットカードや電子マネーなどに対応する。  人件費の削減も可能となり、良質な原料を仕入れても利益が出せるようになった。メニューはなるべく簡素化。売り切りの販売とし、材料が切れたら早目に閉店する日もある。一般的な外食の原価率が30%前後なのに対して、原価率68%を実現する商品もある。  品質のこだわりとして、パティは冷凍していない牛肉を100%使用。注文を受けてから店内で焼き上げる。レモネードのレモンには瀬戸内レモン、コーヒーはオーガニックの豆を使う。  メニューは、「Jr.バーガー」(187円)、「 Jr.チーズバーガー」(205円)、「ブルースターチーズバーガー」(421円)、「2×2ブルースターチーズバーガー」(583円)など。  「フライドポテト」(313円)と、「レモネード」や「コーヒー」(いずれも162円)とのセットも提供する。セット価格は「2×2ブルースターチーズバーガーセット」で799円となり、216円が加算される。  西山知義会長は、中国の深センで「ラッキンコーヒー」を訪れた際、これからのファストフードはキャッシュレスでテークアウトが主流になると確信。一方で、米国の西部や西南部で300店ほど展開する「イン・アンド・アウト バーガー」がメニューを絞り、生のパティをお店で焼くなど新鮮な食材を使いながらも低価格を実現して、人気を博しているのを見て、プチグルメバーガーのヒントを得たという。  焼き肉のファストフードを開拓した焼肉ライクに続き、ブルースターバーガーでプチグルメバーガーを確立できるか、注目される。ちなみに、同社ではチキンバーガーの事業化も検討中だ。

ドムドムや松屋も

 日本初のハンバーガーチェーン「ドムドムハンバーガー」を展開する、ドムドムフードサービスも、7月には東京・新橋に新業態の「TREE&TREE’s(ツリーアンドツリーズ)」を出店。店内で手切りした和牛100%のパティを米粉のバンズで挟んだ、プレミアムバーガーを販売する。  朝の時間帯にはスペシャルカレーなどが登場。昼はプレミアムバーガーを中心とした商品構成。夜はハンバーガーと共にビールやワインなどのお酒に合ったメニューも提供する。  また、オーダーシステムはキャシュレス専用とし、店舗に備え付けられたタブレットより顧客自身がオーダーから精算までを行う。  詳細は後日発表されるが、小麦粉を使わないグルテンフリーや非接触性が高いキャッシュレスを取り入れ、ポストコロナを見据えた、日本発らしいユニークなハンバーガーショップを目指しているようだ。

松屋フーズのこめ松

 ライスバーガーに進出したのは松屋フーズだ。4月13日に「松屋三鷹店」(東京都武蔵野市)内と「松屋青葉台店」(横浜市)内に、店舗を試験的にオープン。デリバリー専門の「こめ松」が提供する「マイバーガー」は、6月1日から松屋の店舗とコラボして22店にまで一挙に拡大する。注文は「出前館」サイトから行う。  商品の「ライスバンズ」は、国内産の白米と五穀米の2種類がある。パティは、松屋で人気の「牛めし」「牛焼肉」「カルビ焼肉」「ビビン丼」の4種から選択可能とした。タレ(生姜、ビビン)とソース(タルタル、サウザン)も2種類ずつ用意。豚汁とサラダ付きのセットにも対応する。  同社は、主力の牛めし・松屋における21年3月期の既存店売上高が、前年比86.4%と2桁減の苦戦。都心部立地の店が多いのが特徴で、テレワークの普及などにより、都市部に出勤するビジネスパーソンが減少したのが響いた。  なお、直近の牛丼3社の業績は、郊外に強い順に、すき家、吉野家、松屋の並びとなっている。  このような状況なので、新しい事業の柱となり得る新業態としてライスバーガーに注目した。

業態開発の巧者がチャレンジ

 マクドナルドは、20年2月に期間限定で発売したバンズをライスに変更した「ごはんバーガー」が反響を呼び、同月の既存店売上高が前年比14.7%増となった。その後も何度か再登場していることから分かる通り、ライスバーガーの需要は高い。  こめ松は既存の松屋のキッチンやメニューを活用しての出店なので、ローコストかつローリスクでの運営ができる強みがある。  以上のように、ハンバーガー市場には、チキンバーガー、プチグルメバーガー、ライスバーガーなど、既存のチェーンとは差別化したアプローチで、新しい専門店が登場している。しかも、多くは他の外食分野で成功した、業態開発の巧者がチャレンジしているのが特徴だ。  コロナ禍が長引く状況で、店内飲食よりテークアウト、デリバリーといった風潮を追い風に、どこまで伸びるだろうか。期待してみたい。 (長浜淳之介)

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