数学の望月理論「人類初、数百年に1度の偉業」 加藤文元氏に聞く

数学の超難問とされてきたABC予想を証明した望月新一京都大教授の論文の正しさが、権威ある専門誌に認められた。証明の前提となった「宇宙際タイヒミューラー理論」は極めて難解だが、長期的には社会を変える大きな可能性を秘めている。望月氏と親交が深く、新理論に関する著作もある東京工業大の加藤文元(ふみはる)教授(数論幾何)に論文掲載の意義を聞いた。(科学部 小野晋史)

 --今回の決定をどう見る

 「率直に言ってよかったと思う。とても長い論文で内容が難解かつ斬新だったこともあり、ここまでに長い時間がかかったが、掲載決定は一つの到達点だと思う。(掲載される専門誌の)『PRIMS(プリムス)』は世界的に見ても非常に信頼性が高く、一定のお墨付きであることは間違いない。私自身は望月さんの理論が正しいものだと思っていたので、この日が必ず来ると考えていた」

 --ABC予想はなぜ、重要な未解決問題とされてきたのか

 「これは数について、非常に根本的な性質を暴き出す予想だ。整数や素数についての深い問題を突き詰めると、足し算と掛け算の関係に行きつく。そういう非常に根本的なところにABC予想があるので、証明には波及効果があるし、破壊力もある。その意味で今回の証明は、とてつもない進展だ」

 --宇宙際タイヒミューラー理論とは

 「この理論は、既存の数学の言葉で書くことができるが、発想としては非常に斬新なもの。特に望月さんが『舞台』と呼ぶ、数学一式ができる世界を複数考えるという、その発想に新しさがある。その世界と世界を完全に共有できない形で行き来することにより、今までになかった柔軟性を導ける。ABC予想も、一つの数学の世界だけで考えると証明が非常に難しかった。この発想は、望月さん以前のいかなる人類もしなかったと思う。われわれが気づかなかったような未知の方法、発想によって全く新しい数学のやり方を創造した。数百年に一度の偉業と言ってよく、ノーベル賞何個分にも相当するだろう」

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