数百万のヒトデが溶ける、北米西海岸

ここ1年半の間に、北米西海岸の広い範囲で数百万匹のヒトデが死に、海底が白い屍に覆われるという事態が起こっている。
 11月17日付けで「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌に掲載された報告書によると、大量死の原因はパルボウイルス科のウイルスであるという。
 ヒトデは海の生態系にとって無くてはならない存在だ。ヒトデがいなくなると、ムラサキガイが異常繁殖し、藻類やイソギンチャクなどの海洋生物が激減する恐れがある。
「隔離することもできなければ、ヒトデを効率よく取り出して、ワクチンを打つこともできない」と、ニューヨーク州イサカにあるコーネル大学の海洋生態学者ドゥルー・ハーベル(Drew Harvell)氏は述べる。研究者らは、病気の流行が治まった後、個体数が復活することを強く願っている。
◆溶けるヒトデ
 このウイルスに感染すると、ヒトデは弱り、細菌に感染しやすくなると、コーネル大学の微生物学者で筆頭著者のイアン・ヒューソン(Ian Hewson)氏は語る。
 感染から約8~17日後、白い病斑が現れて、ヒトデは動かなくなる。時には腕だけが自然と引きちぎれて、どこかへ行ってしまうそうだ。最終的には白いどろどろの塊と化して、ヒトデは消える。
 病気にかかった海洋生物からビブリオ属のバクテリアが多く検出されるとハーベル氏は説明する。ヒトデが溶ける現象に、このバクテリアが関係している可能性はあるが、今のところ確証はない。
 また、ヒトデに関連したデンソウイルスも多く確認されており、溶ける要因の1つと推測される。
 1940年代の博物館の標本はデンソウイルスの陽性反応を示しており、通常は海底の堆積物や海水に潜み、ウニやナマコといったヒトデの類縁からも検出されている。
 ウニやナマコはウイルスによる悪影響をこれまで受けてこなかった。しかし、ここ数週間の間に、太平洋北西部の海岸で死んでいるのが報告されるようになったとヒューソン氏は言う。
◆謎めいた引き金
 広く存在しているウイルスが、突如として数百万の生物を死に至らしめるのはなぜか。原因はまだ解明されていない。「病気が流行したことは、以前もあった」と、カリフォルニア大学サンタクルーズ校の海洋生態学者ピート・ライモンディ(Pete Raimondi)氏は話す。
 今回の流行はアラスカ南部からカナダを下り、米国西海岸からバハカリフォルニアに至る広範囲の地域で発生している。以前の発生では1種か2種の感染に留まったが、今回は20種がウイルスの影響を受けている。
 1つのウイルスがこれほど多くの種類に感染するのは珍しい。だが、カプシドと呼ばれるウイルスの核酸を囲むタンパク質の殻が突然変異を起こすことで、感染が拡大しているのではないかと研究著者らは記している。
 ヒトデの個体群密度が高い場所では、カプシドが突然変異を起こす確率が高くなり、したがって複数の種に広がっていくと考えられる。
 太平洋北西部でヒトデが大繁殖したことが、北米西海岸一帯にウイルスが急速に広がる一因になったとヒューソン氏は述べている。
◆犯人の追跡
 ウイルスはこの先どのように活動してゆくか。真犯人を突き止めた今、ヒューソン氏率いる研究チームは、まだ感染が確認されていない世界中の海域にウイルスが広がった場合、どんな事態になるか予測を立てている。また、ウニやナマコについても研究を進め、同じウイルスが原因であるかどうか明らかにする予定だ。
 研究者らが今回の流行から学んだことを活かし、次の発生を防止する手立てを見つけることをハーベル氏は期待している。
Jane J. Lee, National Geographic News

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