文句を言う人はリーダーに向いている (ITmedia)

 「どんな人をリーダーにすべきですか?」と聞かれることがけっこうあります。そんなとき、わたしは「とにかく、文句を言うヤツをリーダーにするべきだ」と答えます。冗談でも、詭弁でもなく、本気でそう思っています。なぜなら、文句は問題意識の表れです。日常の仕事でも、問題意識のない人は「ここを直したほうがいい」「あそこは良くない」などと文句を言ったりはしません。これは社長や会社に対しても同じです。
 文句を言う人は、いつもどこかで「こうしたほうがいい」「この部分を変えなければいけない」という気付きを持っています。さらに、それを口にすることは、「何かしら良くしよう」と思っています。誤解のないように言っておきますが、「社員の文句をなんでもかんでも受け入れろ」ということではありません。中には素晴らしい意見もあるが、ロクでもない文句もたくさんあります。
 といって、社内に蔓延する文句を放っておくわけにもいきません。そのままにしておいたら、社内の雰囲気は悪くなり、結束力やモチベーションが下がります。社長や幹部が、頭を悩ませるところです。そんなときに役立ついい方法があります。
 文句を言っている人を集めて、そのメンバーに改善をさせることです。
 要するに、文句を言う人たちは、社長のやり方、社内の制度、仕事の進め方などに不満を感じている。そこで彼らに話し合わせ、改善案を出させます。もちろん、それで終わりではありません。
 改善案を出したからには、責任を持って実施させる。案は、実際に体を使って行動し、効果をあげてこそ意味があります。全社員に周知し、徹底するまでのすべてを彼らに任せます。いざ実施する段になると、別の社員や部下から、さらなる文句が上がってきますが、
 もともと、全員が満足する最善の方法なんて、そう簡単に見つかるものではありません。改善チーム(最初に文句を言ったメンバー)が「これからは、こんなやり方をします」と言った瞬間から、新たな非難の雨にさらされる。そうやって彼らは自分で自分の首を絞める結果になる。そんな経験をすると、「やっぱり、元のやり方のほうがいいか……」と思うようになります。
 文句を言う人には、文句を言われる立場にするのが一番です。文句を言われながらも、新しいことを推し進めることができる人はそれこそ真のリーダーになれるし、文句の雨にさらされ、引き下がった人にだって、そこから学ぶことは多いはずです。
 自分の立場だけで文句を言っていた人も、文句を言われる立場になれば、嫌でも周囲のことを考えるようにななりリーダーとして必要な能力が身に付きます。いずれにしても最初から何も言わない人より、正しいにしろ、間違っているにしろ「ああだ、こうだ」と文句を言う人のほうがリーダーに向いています。
●能力が同じなら、酒が飲める人をリーダーにする
 リーダーを選ぶ時にはコミュニケーション能力を重視します。仕事には、個人の力で成果をあげるものとチームで成果をあげるものがあります。チームで仕事をする場合、リーダーの役割として部下とのコミュニケーションが不可欠です。そのため、他の能力が同じならば、わたしは酒が飲めるほうをリーダーに選びます。
 それだけでコミュニケーション手段が確実に1つ増えるからです。「情」は回数によって培われます。何度も部下と面談したり、飲みに行ったりするうちに信頼関係が生まれ、仕事にも生きてきます。
 わたしはよく「社員には嫌な思いをさせろ」と言います。それぞれの社員やりたいことをやっていては、会社は成り立ちません。嫌だろうが、つらかろうが、営業へ行かせることもありますし、大変な量の仕事を課すこともあります。
 環境整備の徹底も、「嫌なことをさせる」の1つです。職場の整理整頓や徹底的に掃除をするなど、すべての社員は嫌に決まっています。朝の勉強会にしたって、「来たくない」と思うのがまともな人です。しかし、嫌なことをさせていくうちに、まずは物事の形が揃いその後で徐々に社員の心も揃ってきます。
 「社員の自主性を重んじる」とか「社員には好きなことをさせる」など、聞こえのいいことばかりを言う会社に限って、社員はバラバラの方向を向いていることが多いと感じます。そんな状況では、「社長が決定し、社員がそれを実施する」という基本構造はあっという間に崩れます。だから、わたしは積極的に社員に良いことを強制しています。悪いことは教えなくても覚えますから。
 同じように、上司は部下に良いことをさせなければなりません。最初は反発もあるが、無理矢理に良いことをさせているうちに、チームとしての統率がとれるようになり、少しずつ気持ちも1つになっていきます。まずは形を整えることです。そうすれば、心は後からついてきます。しかし、無理矢理に良いことをさせるだけでは人間関係は悪くなる一方です。そこで必要なのが、コミュニケーション能力です。
 「良いことをさせる」という行為は同じでも、上司と部下の間に人間的なつながりがあれば、その意味合いは大きく違ってきます。
 仕事のうえで上司が部下を気遣い、頻繁に声をかけることも必要ですし、仕事を離れて飲みに連れて行くことも大事です。上司のポケットマネーでうまい酒をおごってもらえば、それだけでも多少は見る目が変わるものです。
●リーダーなら賞与の額を改ざんしろ!
 上司が部下を飲みに連れて行くという話が出たので、ちょっとユニークな評価の仕方も紹介しておきます。武蔵野では賞与は現金払いなのですが、実際に手渡しをする賞与の袋とは別に、まったく同じ袋を社内で販売しています。なぜだか分かるでしょうか。
 たいてい賞与をもらったら、その袋を家に持ち帰り、それを奥さんへ手渡すものです。「お勤めご苦労さま」くらいのねぎらいの言葉をもらって、賞与は丸ごと奥さんの手中に収まってしまう。そこからわずかな小遣いをもらい、なけなしのお金で安酒を飲むというサラリーマンも多いでしょう。
 しかし、それでは部下におごるお金がありません。上司は部下におごることも必要と述べたばかりなのに、経済的な理由でそれができないです。その対策の一つとして、賞与の金額を改ざんし、本当の賞与袋から数万円を抜き取れるように、別の袋を会社が販売している。
 そんなことまでやっている会社はまずないでしょうが、ニセの賞与袋を買い、金額を改ざんしてまで部下に褒美を与える人をわたしは評価する。賞与の改ざんもせず、部下に褒美を与えるお金もないような人はリーダー失格です。それがわたしの考えです。【小山 昇】
(ITmedia エグゼクティブ)

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