学校内に残る日本による朝鮮半島統治時代の痕跡を「日帝残滓(ざんし)」(日本帝国主義の残りかす)と称して清算しようという条例案が韓国南部、済州島(チェジュド)で全国で初めて可決されたことが分かった。文在寅(ムン・ジェイン)大統領が「親日」の清算を掲げる中、親日派がつくったとされる校歌の変更などの動きが進むが、済州島では条例で各校のシンボルとして親しまれてきた木まで切り倒されるのではないかとの混乱を生んだ。(済州 桜井紀雄)
条例は「日帝強占期植民残滓清算に関する条例案」として、与党「共に民主党」議員らが済州道議会に提出。6月20日の本会議で満場一致で可決、成立した。
道教育庁によると、日本統治からの独立を目指した三・一運動から今年100年を迎えたのに合わせた取り組みで、校名や校歌、日本時代の日本人校長らの写真や銅像に加え、朝礼や敬礼といった日本時代から続く習慣や用語が残っていないかを調査し、場合によってはなくすための法的根拠となるものだ。
その対象に、多くの学校で「校木」に指定され、シンボルとして親しまれてきた常緑針葉樹、カイヅカイブキが含まれることが波紋を呼んだ。韓国でこの木は、1910年の韓国併合と前後して日本から持ち込まれた「朝鮮侵奪の象徴」と信じられてきた。今年2月には南東部、慶尚南道(キョンサンナムド)の教育庁の玄関にあった木が引き抜かれ、別の木に植え替えられた。ソウルや中部の大田(テジョン)にあり、戦没者らを埋葬した国立顕忠院や、国会周辺の一部でも植え替えが進められてきた。
済州島では、校木に指定している小中高校が21校あり、計2153本も植えられている。条例化に先立ち、韓国最大手紙の朝鮮日報が「一斉伐採の危機」と報じたことで、学校現場に不安や反発が広がった。
教育庁幹部は「環境の一部でもあり、絶対なくせという趣旨ではない」と火消しに努めている。条例に基づき設置され、専門家らからなる残滓清算委員会は方向性を示すだけで、別の木に植え替えるか、そのまま残すかは各校の判断に委ねられるとも説明する。
文氏は3月の三・一運動を記念した演説で「親日残滓の清算は先延ばしされてきた宿題だ」と述べ、「国家の義務」であり、「正義」だと強調した。国のトップが清算の旗振り役なだけに、判断を丸投げされた形の教育現場では、しばらく混乱が続きそうだ。