“新たな常識”の誕生、日本はどう変わるべきか――日経ビジネス・山川編集長 (ITmedia)

「東日本大震災を受けて、これまで常識とされてきたことが非常識となり、新たな常識、いわゆる“ニューノーマル”がさまざまな分野で生まれてきている」――。こう語るのは、経済誌「日経ビジネス」の山川龍雄編集長だ。
 ニューノーマルとは、世界的な資産運用会社・米PIMCOのモハメド・エラリアンCEO(最高経営責任者)が提唱した概念で、リーマン・ショックから世界経済が立ち直ったとき、危機以前に戻るのではなく、まったく別の姿になるというものである。いよいよ日本でもニューノーマルが本格化してきたと山川氏は述べる。
 例えば、住宅不動産において、これまでは海に近い湾岸埋め立て地の高層マンションに人気が集まっていたが、震災後に買い手の常識が変わり、地盤の強固な台地で、マンションは低層への志向が強くなっているという。
 サプライチェーンに対する企業の考え方も大きく変わった。従来は、製造拠点や調達先などを1カ所に集中する、あるいは各地に分散する形態が一般的だったものの、前者は、経営効率は高いが不測の事態に弱く、後者は、不測の事態には強いが経営効率は低いという長短があった。このたびの震災でサプライチェーンに大打撃を受けた製造業などの経験を生かし、「今後、日本企業は不測の事態に強く経営効率も高い、“強い分散経営”を目指すべきだ」と山川氏は力を込める。実際にこれを体現しているのがコマツだ。主力であるブルドーザーやショベルなど重機の心臓ともいうべきエンジンは、基本的に国内で製造しているほか、生産の上流工程も同社にとって高い価値があると考え国内拠点でカバーしている。一方で、組み立てなどの工程はどんどん海外に分散している。
 このように、常識を覆してしまうような危機が発生したとき、企業で必要となるのは何か。山川氏は「現場対応力のあるリーダー」を挙げる。
「震災以降の企業動向を見ると、経営トップからの指示を待たないと動かない企業はビジネスに苦戦する一方で、現場の判断で被災地への救援物資輸送に取り組んだヤマト運輸のように、対応力のあるリーダーを育てていた企業は大きな成果を出している」(山川氏)
●元通りでは駄目
 震災発生から4カ月が過ぎ、その間に日本のビジネス環境は一変した。従来の常識が通用しなくなり、今まで以上に企業の経営環境は目まぐるしく変化している。そうした中で企業に問われるのは、「何が重要な変化かを読み解く力であり、そのための情報を整理、分析することが不可欠だ」と山川氏は力説する。
 目の前で起きている事象が、長期的なトレンドなのか、一過性のものなのか。あるいは、国内や地域に限定されるのか、グローバルでの潮流なのか――。変化に対応するために正しい情報をつかむことが肝要なのである。
 繰り返しになるが、ニューノーマルは、以前の形に戻るのではなく、まったく別の姿になるというものである。「現在の状況において、日本がニューノーマルを生み出せず、結局、従来の形に“復元”してしまうようだと、この先々も厳しい時代が続くのは避けられない」と山川氏は強調した。
 ※本記事は、2011年7月28日に日本IBMが開催した「Information On Demand Conference Japan 2011」での講演を基に作成。

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