<国が認めた借金救済制度><借金が大幅に減った!>。インターネットの誇大広告を通して、一部の弁護士事務所などが不適切な債務整理をするトラブルが全国で相次ぐ。生活状況を詳しく聞き取らないまま手続きを進め、逆に生活再建を妨げるケースなどで、仙台市内の被害者からは憤りの声が上がる。消費者問題に詳しい弁護士は「新たな貧困ビジネスだ」として問題視する。(編集部・石川遥一朗)
[債務整理]多重債務者らの借金額を減らしたり、支払いを猶予したりする手続き。当事者間の話し合いで、長期の分割払いなどにして毎月の返済を抑える「任意整理」、裁判所を介して収入などに応じて借金を減らす「個人再生」、裁判所の決定で返済を免除する「自己破産」がある。
事務職員が「任意整理」を勧める
「わらにもすがる思いだったのに、許せない」。仙台市内に住む40代女性は怒りを隠さない。
約20年前、娘2人が幼い頃に離婚した。元夫からの養育費は6年ほどで途絶えた。毎月の給料の手取りは20万円に満たなかった。生活費や教育費を賄うには足りず、借り入れを重ねた。
学資ローンなども重なり、借金は一時400万円を超えた。うち200万円は消費者金融5社から借りた。返済に困り果てたとき、ネットで見つけたのが「借金が大幅減額」とうたう東京の弁護士事務所の広告だった。
2022年1月、電話をすると任意整理を勧められた。対応したのは事務所職員。年収の2倍近い借金で、本来は自己破産すべき状況だったが、破産の話は一切出なかった。弁護士とは契約を結ぶ段階になって電話で話しただけだった。
毎月の返済額は8万円から6万円に減った。だが、任意整理をしたことで、新規の借り入れができなくなった。当然、返済に再度行き詰まった。半年後、仙台市内の弁護士事務所に駆け込み、自己破産した。
女性は「当時は返済に毎日悩み、精神的な余裕がなかった。法律の専門家である弁護士の事務所だから最善の解決策を示してくれると思っていたし、疑うのは難しかった」と嘆く。
相談前より生活苦になるケースも
日弁連の規定では、債務整理は原則、弁護士の直接面談が義務付けられている。収入や生活の実態を詳細に把握した上で、実現可能な返済計画を立てるためだ。
女性のケースでは面談しなかっただけでなく、契約書には面談したという趣旨の虚偽の記載もあった。弁護士費用の返還を求め、全額の25万円を取り戻した。
債務問題に取り組む弁護士らでつくる「みやぎ青葉の会」(仙台市)によると、不適切な債務整理は直接面談をせず、任意整理に誘導する例が多い。キャッチーな大量の広告で集客し、破産に比べて手間が少ない任意整理で機械的に処理して報酬を得る「ビジネスモデル」だという。
同会会長の佐藤靖祥弁護士(仙台弁護士会)は「日弁連の規定違反だけでなく、相談者に適切な選択肢を示さずに自己決定権を侵害している」と批判する。
事態を重くみた全国の弁護士ら有志が3月、対策会議を結成した。寄せられた相談は2カ月で約60件に上る。弁護士費用が高額で相談前より生活が苦しくなったケースもあったという。
会議事務局長の三上理弁護士(東京弁護士会)は「返済ができないのは自分の責任と感じて被害を認識していないケースも多い。直接面談のない債務整理は不審に思ってもらいたい」と呼びかける。
みやぎ青葉の会は月、水、金曜午後1~4時に借金問題などの相談を受け付けている。連絡先は同会022(711)6225。