日本の大手企業が、海外事業で多数の人命被害を伴う大事故を起こしたら…その企業、日本政府はどんな対応をするだろうか。韓国のSK建設が手掛けていたラオス南部のダム決壊による大惨事で、SK建設や韓国政府が見せた姿勢は、日本人が想定するところとはまったく違う。まさに、韓国マインドの発露だ。
惨事が発生したものの、まだその報が韓国に届いていなかったとき、韓国の通信社「ニュース1」は、このダム建設に関する広報記事を配信した。掲載した新聞社にはSK建設から掲載御礼が出る記事だ。
「世界最強のSK建設だったから可能だった」「世界最高の地下空間工法・神工法で工期短縮」という見出しだけで、内容は想像できよう。工期短縮で約22億円の報奨金を得たことも、ここに出てくる。
惨事が起きなかったなら、韓国民は「わが国の技術力」にウハウハになっていただろう。
2012年10月23日の朝鮮日報は「海外で発電所受注ラッシュ」との見出しで、SK建設のラオス・ダム建設の受注を伝えた。総事業費の7割がSK建設の取り分(施工費)であると。
その朝鮮日報は惨事が発生するや、「ダムを建設する合弁会社にはSK建設も参加している」(18年7月24日)と報じた。事業そのものが韓国主導であり、施工はSK建設の独占なのに、「SK建設も参加」とは脇役に逃す企図ではないのか。
聯合ニュースは「ラオスの野心がもたらした災害」(18年7月25日、韓国語サイト)と“悪いのはラオス政府”と言わんばかりの記事を配信した。日本のTBSのトーク番組(同年7月29日)も、そんなトーンだったが…。
しかし、聯合ニュースの報道後、ダム事業の合弁パートナー(完工後の発電所運営会社)である韓国西部発電の社長が国会で報告する。(1)7月20日にダムが11センチ沈下したが、措置を取らず(2)22日、10カ所で沈下し、復旧工事を手配(3)23日、1メートルほど沈下し、州政府に協力を要請-と、基礎工事に問題があり、措置も遅れたことをうかがわせる内容だ。
その結果、多数のラオス国民が行方不明と伝えられるが、SK建設社員は全員逃げて無事だ。李承晩のソウル放棄、三豊百貨店崩落、セウォル号沈没と続く、「責任者の先逃げ」の伝統は健在だった。
SK財閥総帥は7月27日になって、ソウルのラオス大使を訪ねた。脱税と横領で“塀の中”にいたが、恩赦により出てきた人物だ。彼は「慰労の意」を伝え、工期短縮で得た報奨金の半額ほどを寄付すると述べたという。が、どの記事を見ても「謝罪」はない。
文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、救援隊を派遣したが、現地語が分からない30人弱の救援隊に何ができるのか。格好だけの実績づくりだ。
しかし、韓国には希望がある。東南アジア諸国は賄賂に弱い公務員であふれている。韓国が“特技”を発揮すれば、「惨事は手抜き工事ではなく自然災害による」と認定されるかもしれない。
■室谷克実(むろたに・かつみ) 1949年、東京都生まれ。慶応大学法学部卒。時事通信入社、政治部記者、ソウル特派員、「時事解説」編集長、外交知識普及会常務理事などを経て、評論活動に。著書・共著に『悪韓論』(新潮新書)、『崩韓論』(飛鳥新社)、『韓国リスク』(産経新聞出版)など多数。