新入生に「性的な一発芸」を強要する“東京藝大のヤバさ”「露出の多い衣装、亀甲縛りも」「ショックでした」

「今はコロナで中止されていますが、それまでは毎年ありました。それがすごいテリブルで……」

【画像あり】露出度の高いレオタードやスクール水着のような露出度の高い衣装も

 東京藝大の美術学部彫刻科に入学した新入生の上原真理恵さん(仮名)。創作活動への没頭を夢見る彼女を裏切った「新入生歓迎会」とは、どんなものだったのか?

 弁護士ドットムニュース記者の猪谷千香氏の新刊『ギャラリーストーカー 美術業界を蝕む女性差別と性被害』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)


名門・東京芸術大学で行われた「新入生を苦しめる行事」とはいったい? 写真:アフロ

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美術業界の歪な構造

 ここまで、美術業界で権力を握る美術家やキュレーター、学芸員による、女性作家に対する壮絶なセクハラや性暴力の実態を見てきた。優位な立場や業界内の権力にものを言わせて、弱い立場の女性を意のままにしようとする男性たち。女性作家たちの話からは、狭い世界での出来事なので、多くの場合、立場が弱い若手作家が泣き寝入りして終わりになっている実態が浮かびあがった。加害者たちは何の反省もなく、同じような行為をずっと繰り返していることもうかがえる。

 さらに、私が気になったのは、そうした作家たちの中には、学生時代から同じ大学の先輩や教員らからハラスメントを受けているケースも少なくないということだ。美術業界に人材を輩出してきた芸術大学や美術大学と呼ばれる専門の教育機関において、である。

 美術の教育現場のハラスメントを掘り下げていくと、根底には極端に偏ったジェンダーバランスがあり、それゆえに延々と男性にとって都合がいい価値観が再生産され続けてきたのではないかと疑われる、歪な構造も浮かび上がるのだ。

名門・東京藝大に裏切られた彼女の告白

 日本最難関といわれる東京藝術大学。中でも美術学部絵画科油画専攻の2022年の入試倍率は17.3倍と、難関大学の最高峰を誇る。一浪や二浪は当たり前、三浪という人も珍しくはない。

「東大に受かるより難しい」といわれるゆえんだ。

 毎年4月になると、東京・上野にある東京藝大のキャンパスには、そんな過酷な入試を突破してきた芸術家の卵たちが期待を胸に集まってくる。美術学部彫刻科に入学した上原真理恵さん(仮名)もそうした新入生の1人だった。

 厳しい受験を勝ち抜き、これからは国内随一の大学、素晴らしい環境で彫刻に没頭できる。上原さんは大学生活を楽しみにしていた。しかし、その期待はスタートから裏切られる。

 東京国立博物館をはじめ、国立西洋美術館や東京都美術館、上野の森美術館など、錚々たるミュージアムが集積する上野の一角に、東京藝大のキャンパスがある。日本近代洋画の巨匠と呼ばれ、東京藝大の前身である東京美術学校の指導者でもあった黒田清輝の記念館に近接しており、道を挟んだ両側に、美術学部と音楽学部がそれぞれ位置している。

 美術学部構内の最奥にあるのが、「彫刻棟」と呼ばれる彫刻科の建物。彫刻科では毎年20人の1年生を迎えるが、学科を挙げての恒例行事としておこなわれているのが、新入生歓迎会だ。

「今はコロナで中止されていますが、それまでは毎年ありました。それがすごいテリブルで……」

 上原さんは取材時、まだ20代。たった数年前の新歓で新入生だった上原さんの心を打ち砕いた「テリブル」(酷い)なこととは何だったのだろうか。

 彫刻棟にはアトリエが備えられており、体育館のように天井が高く、大型の彫刻でも設置できるようなスペースになっている。普段は仕切りがあるが、新歓のときはそれを取っ払い、学生らが全員入れるように空間がセットされる。

 アトリエの前方にはステージが用意され、教授陣には「観覧席」が設けられ、学生たちはステージと教授たちの間に置かれた低いテーブルの前に座るというスタイルがお決まりなのだという。

あまりに性的で、ありえない新入生歓迎会

 新入生を迎えるための会に、なぜステージがあるのか。

「彫刻科の新歓では毎年、新入生は全員、一発芸をしないといけないんです。一発芸は大体、セクシャルなもので、それも男性が喜ぶようなものです。たとえば、男子学生が音楽に合わせて一枚ずつ着ている服を脱いでいくのですが、服の下に何枚もパンツを履いてたり……。女子学生はレオタードやスクール水着など、できるだけ身体が露出するような衣装を身につけたり、亀甲縛りをした女子学生もいました。ショックでした」

 大学生の新歓にふさわしくないワードが飛び出して驚き、思わず「亀甲縛りとは、SMプレイでみるあれですか」と確認してしまった。

「はい。SMのあれです。私たちのときは、グループで一発芸をすることは許されなくて、1人ずつやらされました」

 上原さんも、身体のラインがはっきり出るような衣装を着て、モノマネの一発芸を披露させられた。ショックを受ける上原さんに、さらに追い討ちをかけたのは、一発芸のあと、司会をしていた3年の男子学生から、胸のサイズを聞かれたことだった。すでにお酒が入り、酔っていた男子学生の言葉に、多くの学生が笑っていた。

 大きな杯で酒を飲まされたことも、上原さんにはつらい記憶だ。当時、一発芸を披露した新入生全員が飲み干さなければならないという「決まり」だった。血縁関係にない者同士が結束を固めるために、「親子杯」や「兄弟杯」をかわすという風習を想起させる。

 しかし、そこは教育の場である。強制参加の新歓で、全員が杯をかわす必要は本当にあるのだろうか。

 上原さんはその時、未成年だったためあらかじめ水にしてほしいと言ったが、先輩の学生たちが酔っていたため、杯には酒が混じってしまっていた。上原さんは口をつけてから気づいたものの、途中で止めさせてもらえず、我慢して飲み干さなければならなかった。

「とにかく、先生や先輩の前で盛り上げようというマインドしかないんです。今思い出しても、本当に嫌でした」と首を横に振る。

一発芸を断れない理由は「美大特有の空気」

 事前に一発芸を断ることはできなかったのだろうか、と疑問を持つが、それも難しかったという。

「藝大や美大を受験するための予備校大手は3つしかありません。浪人生も多いので、学生の間には、入学前から予備校時代にできた上下関係があります。新歓の時には、予備校時代の先輩たちから、こういうのやりなよ、と一発芸の指示が飛んできます。私にも1学年上の先輩から指示がありました。もちろん嬉々としてやる学生もいますが、多くの新入生が雰囲気に飲まれて、『やりたくないです』と言える空気ではありませんでした。先輩たちは新入生のノリをみて、『あいつら使えるかどうか』という判断をします。それで、その後の評価が決まってしまうので、嫌とは言えないのです」

 美術業界の特殊性は、予備校時代からの人間関係が大学でも続き、場合によっては卒業後の作家活動にも影響することにある。作家たちは自由に創作活動をおこない、作品だけで勝負しているというイメージが強いが、実は予備校や大学時代からの人脈で仕事をする場面が少なくない。

 特に彫刻は、石材や木材など1人では運べない素材を使うことも多く、学科内では教員や先輩の助けを借りて作業する必要がある。ましてや、彫刻科は一学年20人しかいない。必然的にコミュニケーションは密になってしまう。

「100人とか200人いるような学科であれば、1人欠席しようが誰も気にしないと思うのですが、20人の中の1人だと、『あの子いなかったよね』と言われて、目をつけられてしまいます」

 一発芸を断ることで、先輩や同級生たちとの人間関係を壊したり、教授をはじめ学科全員が集まる場を白けさせてしまったりすることを、入学したばかりの新入生がどうしてできるだろうか。

(猪谷 千香/Webオリジナル(外部転載))

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