新入社員に優しい「ホワイト企業」トップ300 最新版「新卒3年後定着率」ランキング

いよいよ新年度がやって来る。今年も大半の企業では、4月に新入社員を迎える。だがせっかく希望に燃えて入って来ても、会社は楽しいことばかりではない。遅かれ早かれ結果を求められる。つらいことも多い。仕事があわないと思う人も出てくる。新人は、最初は我慢して働いていても、時間がたつにつれて徐々に自ら「方向転換」を決め、辞めていくケースがどうしても出てくる。
■805社のデータで「ホワイト企業」をランキング
もちろん、甘い気持ちで働いていたり、就職活動中に自分の適性を十分考えなかったなど、働く側に問題がある場合も多い。だが、短期間に多くの新入社員が辞める職場なら、企業側に問題がある可能性が高い。
こうした問題企業を見つけるためによく使われるのが、新卒者が3年後にどれだけ在籍しているかを見る「新卒3年後定着率」だ。労働法規スレスレで社員をこき使うなど、さまざまな問題を抱える「ブラック企業」と対比する意味で、定着率が高い企業を「ホワイト企業」と呼ぶことも多い。
東洋経済CSR調査では、学歴にかかわらず、すべての2010年4月の新入社員が3年後の13年4月に何人在籍しているかを聞いている(一部前年度になっている場合あり)。『CSR企業総覧』2014年版掲載1210社のうち、男女それぞれの人数を回答している805社(非上場企業を含む)のデータを使い、「定着率の個別企業ランキング」と「業種別集計」を作成した。
早速、805社の中から「3人以上入社した企業」を対象に、定着率の高い順に並べた「ホワイト企業ランキング」を紹介しよう。トップである、「3年間誰も辞めていない、定着率100%」の会社は125社(2~3ページの両ページで掲載)。「3年間の定着100%」の企業は、昨年版(2013年)の92社から、33社増加した。
■東ソーは、高卒含め122人全員が入社3年後も在籍
1位タイの企業は、10年4月の入社者が多い順に表示している。定着率100%企業の中で、入社した社員数がもっとも多かったのは東ソーの122人だ。男性114人、女性8人が10年に入社し、3年後の13年4月時点では、全員在籍している。
学歴別の内訳を見ると、大卒48人、短・専門卒9人、高卒・他65人。一般的に「入社後3年で5割辞める」といわれる高卒も含めて、100%を達成している。
同社は「会社が指定する資格を取得した際に奨励金支給」や「年間数人を海外語学留学に派遣」といった自己啓発制度で社員の能力開発を推進。働きやすさの面でもコアタイム(10:30~15:05)のフレックスタイム制度、育児・介護・私傷病の短時間勤務制度などの各種制度が充実している。
東ソーに次いで、1位タイ企業で採用が多い企業は、東邦ガスの74人(男性64人、女性10人)。会社指定の資格取得での奨励金等支給、授業料等会社負担での国内留学・海外留学制度、発明等の報奨制度、など充実した制度で従業員の能力アップを行う。さらにフレックスタイム制度、在宅勤務制度、一部職種での裁量労働制度も導入している。
両社ともこうした恵まれた制度や高い定着率から、満足している若手社員は多いと予想される。
他に愛知製鋼55人(男性52人、女性3人)、国際石油開発帝石52人(男性40人、女性12人)、アズビル49人(男性38人、女性11人)、栗田工業46人(男性39人、女性7人)などの人数が多かった。
昨年、トップ300に1社しかなかった銀行でも、高知銀行が42人(男性21人、女性21人)で100%。さらに、定着率が低いといわれる小売業でもヤマナカ17人(男性15人、女性2人)、井筒屋12人(男性7人、女性5人)などが100%だった(次ページも、1位タイの他の企業を掲載)。
ここまでが、「新卒3年後定着率100%」1位タイの125社。次ページ以降では100%未満の126位以下の企業を見ていこう。
■サントリーやJR東日本など、大量採用組も「健闘」
ここでは、126位~183位までの企業を見ていこう。126位にはサントリーホルディングス(99.6%)で、わずかに100%を割り込んだ。同社の内訳を見ると、男性は169人全員残っているが、女性が28人のうち1人辞めたため、100%にならなかった。ランキングでは126位になっているが、ほぼ100%。サントリーは入社3年目までの社員にとっては、働きやすい会社といえそうだ。
人数が多いところでは、155位の東日本旅客鉄道(97.9%)が、特筆される。入社1439人に対して、1409人が在籍。男性は1131人から1111人に、女性も308人から298人と、多くの新入社員が残っている。
■メガバンクでは、三菱UFJが唯一のランクイン
189位には三菱UFJフィナンシャル・グループが96.8%(男性119人から118人、女性131人から124人)で、メガバンクとしては唯一「トップ300」にランクインした。
200位台に入っても、93~96%と水準は高い。表では下位のように見えるが、11年秋から12年春にかけて「巨額の損失隠し」が明らかになったオリンパスも、239位の95.3%と高い数字。10年4月に64人入社して13年4月に61人が残る。同社にとっては激動の時期だったが、その中でも高い定着率となった。
■女性の採用が多い、東京海上HDも高い定着率
女性最多は259位の東京海上ホールディングス(94.8%)。女性が547人入社し、3年後に519人が残っている。男性も112人入社で106人在籍と、保険業で唯一300位入りとなった。また、男女あわせて、700人以上を採用した日立製作所(290位)の定着率は、94%だった。
■海運などに安定感、証券や小売などは約3割が辞める
最後に、805社を対象にした、業種別の集計結果を見ていこう。
まず全体の定着率の平均は86.6%。男性88.0%、女性83.4%だった。これは東ソーのように高卒も含む数字。男女差も小さく、CSRに力を入れている会社がそろっているため、高い定着率となっている。
対象社数が2社以上の業種のなかで、定着率がもっとも高かったのは海運業の100%(5社)。
商船三井(男性40人、女性5人)、日本郵船(同27人、同8人)、川崎汽船(同15人、同6人)など5社がすべて100%。大手企業ばかりだが海運業はかなりの優良業種といえる。
他では、電気・ガス業97.9%(11社)、ガラス・土石製品97.5%(9社)、石油・石炭製品95.6%(3社)、化学92.8%(66社)、非鉄金属92.3%(10社)なども高い。
一方、低い業種は、証券・商品先物66.4%(5社)、小売業70.8%(51社)、サービス業72.6%(48社)となった。
土日の勤務が多い小売業やサービス業は有給休暇取得率なども低い。休暇を取りにくいことも退職者が多い要因かもしれない。今回のランキングでは昨年に引き続き、製造業が多くランクインした。
こうした企業には高卒などの大卒者以外の新卒者も多数存在する。
一部の幹部候補だけでなく全体で高い定着率を誇る職場は働きやすさの面で「よい会社」と考えてよさそうだ。
さて、一般的に就職活動でいわれる「ホワイト企業」はこの3年後定着率や福利厚生などで判断されることが多い。
だが、「社会全体に対するホワイト企業」を考えると、働きやすさだけでなく、事業活動で発生する負の面を改善する、法律などのルールを守る、不公正な取引を行わない、海外等の取引先での児童労働を防止する、国内外の各地域とよい関係を築く、といった、いわゆるCSR面での対応も含まれるべきだ。
こうした点に注意していないと海外のNGOや政府などから批判や制裁を受けたりして、事業活動に影響が出てくることもある。
一般的に従業員の定着率が高い会社はCSR面に配慮して経営しているところが多いが、中には職場は「ゆるい環境」で働きやすいものの規律などに問題がある会社もある。
よい会社を見つけるために「3年後定着率」の数字は重要ポイントになるが、それだけを鵜呑みにすることがないよう注意した方がよいだろう。

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