新卒「争奪戦」で内定辞退増加、オワハラ防止の動きも 人材確保課題に

新卒採用が争奪戦の様相を呈している。複数の内定を獲得する学生が増え、内定辞退も続出しており、企業は人材の確保が大きな課題となっている。企業が就活を終えるよう強要する「オワハラ」を防止する動きも進むなか、いかに内定者をつなぎとめるか、企業努力が試されている。 【表】「4人家族で1カ月に必要な金額」京都総評の試算と内訳 ◆内定辞退は33・1% リクルートの調査では、2024年卒業の新卒採用で、今年4月1日時点の大学生の就職内定率は48・4%と前年同日より10・3ポイント上昇した。 リクルートの研究機関、就職みらい研究所の栗田貴祥所長は、企業は非常に高い求人意欲があると指摘し、「労働力人口の減少という問題が目の前にある中で、新型コロナウイルス禍からの回復局面に乗り遅れたくないとの意図もある」と推察する。就職活動のオンライン化が進んで応募しやすくなり、選考の効率化が進んだことも選考の早期化につながっているという。 複数の内定を獲得する学生が増え、1人が内定を取得した企業数も2社以上が47・5%で前年より2・8ポイント増加。さらに、1社以上内定を辞退した学生は33・1%と前年同月より4・2ポイント増えた。 23年卒業の大学生の新卒採用に関する調査では、「採用予定数を充足できた」と答えた企業が40・4%と前年より11・8ポイント減少し、同調査を開始した12年以来、過去最低となった。栗田所長は、「学生による選考辞退や内定辞退によって、企業の採用計画での歩留まり(各選考に進む人の割合)が想定以上に低下する企業が多かった」と分析する。 ◆給与アップ、サポートを手厚く こうした中、賃金の見直しなどで人材確保に取り組む企業が増えている。ソフトウエアの開発などを行うシーキングベストウェイ(東京都豊島区)では、23年入社の新卒採用は2人で、例年の半分以下となった。原元樹代表は「どの会社も採用の枠を広げているので、学生の取り合いになっている感じはある」と危機感を募らせる。 同社は、人材確保のため、学歴や経験不問で、新卒や中途も含めた通年採用を行うが、昨年採用できたのは、例年の半数の15人ほどだった。原代表は「ワードやエクセルを知らないレベルでも、やる気や人柄を重視し、ITエンジニアの候補生として採用し、他社との差別化を図ってきたが、応募が減ってきている」と話す。 このため、5月から初任給を1万円アップ。不公平感をなくすため、既存の社員も給与を1万円アップした。ハローワークでも求人を出し、ツイッターやインスタグラムでも応募を呼びかけるなど人材確保に奔走している。 滋賀県高島市の総合建設会社、澤村は、今年4月入社の新卒採用は11人だった。内定辞退率は26%で、前年の約40%より改善した。その要因として、若手社員らによる内定者らへのサポート体制が大きいという。 入社前の学生の不安などを解消するため、入社1~3年目の社員を中心とした「採用委員会」が中心となり、説明会から内定後のフォローを行っている。採用担当によると、「年齢の近い社員が学生に寄り添い、会社の理解を深めるためのサポートや、就職活動での不安や悩みについてアドバイスするなど、フォローを行っている」という。 ◆内定承諾書の認識も変化 新卒採用は、広報活動が大学3年の3月から、採用選考の開始は大学4年の6月から、内定は10月からとルールが決められている。 政府は10日、26年以降の卒業生から、専門性の高い人材が2週間以上のインターンシップを経た場合、大学3年の3月から選考を開始できるようルールを見直した。 同時に政府は企業が内々定者を囲い込むため、就活を終えるよう強要する「オワハラ」の防止を徹底するよう経団連と日本商工会議所に要請。正式な内定前に入社意思を確認する内定承諾書や誓約書の提出を要求したり、内々定と引き換えに他社への就職活動を取りやめるよう強要したり、大学などの推薦状の提出を求めたり、憲法に定められた「職業選択の自由」に反する行為を行わないように求めた。 内定を承諾し、企業に入社意思を示す内定承諾書は、法的拘束力はないが、内定辞退を防ぐ目的や、慣例的に提出させる企業も少なくない。 ただ、内定承諾書については、学生の意識も変化しており、文化放送キャリアパートナーズ(東京都港区)が24年卒業の学生に行った調査によると、内定承諾書を企業に提出する際、どのくらいの意思を持つべきかについて、「必ず入社しなければならない」と回答した人は16・3%と前年より5・4ポイント減少。「断る可能性も視野に入れて承諾できればいい」と答えた人は、33・9%で前年より10ポイント増加した。就職サイト「ブンナビ」の間宮康之編集長は、「行き過ぎた書類の提出は大学側も問題視し、学生側にも職業選択の自由に関する認識が広がりつつある」と指摘する。 ◆学生は今後も「引く手あまた」 就職みらい研究所の栗田所長は、今後も企業の人材獲得競争は過熱するとみており、「学生は引く手あまたになる可能性は高い」と予想する。 企業は内定を出したから大丈夫と安心せず、1人1人に向き合い、コミュニケーションをとることが重要だとし、「なぜ会社がその人を必要としているのか、どのようにその会社で輝けるのか、リアリティーをもった形で伝えることが大切」と強調する。 また、学生に対しては、「就職活動は大変だが、対話を通じて自分がやりたいことや自分が生かせることを再発見しながら磨き上げることができる」と就職活動の意義を強調した上で、「仕事は苦しく大変なときもあるが、頑張れる環境か、一緒に励まし合える仲間がいるのかどうか、しっかりと見つめながら、ベストな会社を見つけてほしい」と呼びかけた。(本江希望)

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