【ロンドン=板東和正】世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスの感染拡大後、「パンデミック(世界的な大流行)」をすぐに表明しなかったのは、感染を制御できない状態を意味するパンデミックを認めることで、感染の封じ込めを諦める国が出てくると懸念したためだ。しかし、先延ばしにすれば予防対策などが後手にまわると危惧し、パンデミック認定を決意したとみられる。
「パンデミックという言葉は、理不尽な恐れや(ウイルスとの)戦いが終わったという根拠のない考えを伝える可能性のある言葉だ」
WHOのテドロス事務局長は11日の記者会見で、これまでパンデミックの表現の使用を避け続けた理由をそう説明した。
新型コロナウイルスをめぐってテドロス氏は2月28日に世界全域の危険性評価を「高い」から最高レベルの「非常に高い」に引き上げた。この評価はウイルスの発生源である中国と世界全体の危険性を同等にして世界的な流行を事実上認めた形だった。ウイルス疾患などを研究する米専門家、レッドリーナー氏は同日、「(感染状況は)パンデミックと呼ばれるべきだ」と米メディアに指摘していたが、テドロス氏はパンデミックと断言することを拒み続けてきた。
パンデミックの認定は感染症の流行を「制御不能」とみなし、ウイルスの封じ込めから、影響を緩和する対策に移ることを各国に示す意味があるとされる。感染症を研究する英専門家は「誤って伝わると、感染症の拡大を止めることはできないと絶望する政府関係者もいるだろう」と指摘する。
WHOで緊急事態への対応を統括するライアン氏もこれまで「パンデミックという言葉に対する世界の反応がどうなるか心配している」と話し、世界の恐怖感を過度にあおることを不安視していた。
テドロス氏がそれでもパンデミックの認定に踏み切ったのは、予防策や治療法の開発が遅れている背景があるためとみられる。
WHOによると、現在、新型コロナウイルスに対する2つの治療薬の臨床試験とともにワクチンの研究開発が同時進行で行われている。ただ、現時点で効果的な進展は報告されておらず、パンデミックの認定には研究を急がせる狙いがあるとの見方もある。