新型コロナ 鎌倉市の感染防止対策“裏目” 観光客減、商店関係者ら沈痛

 新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、県内有数の観光名所である鎌倉市が揺れている。

 行政機能の大幅縮小など、感染防止に向けた前向きな取り組みが“裏目”となって作用し、観光業が打撃を受けたとみられているためだ。鶴岡八幡宮や商店街の「小町通り」などJR鎌倉駅周辺の観光名所では、遠のく客足と先の見えない影響に、商店主らが不安の色をのぞかせている。市は感染拡大防止と商業活動の下支えを同時に進めるという難しいかじ取りを迫られている。

 「まちを歩く観光客の数が休日は3分の1、平日は5分の1程度にまで減ってしまっている」。同市観光協会の大津定博専務理事はこう嘆く。小町通りや鶴岡八幡宮の参道について、「普段は歩くのもままならないが、いまでは時折、遠くまで見渡せるほどに人影がまばらになることもある」といい、「なお、日を追うごとに観光客が減り続けている」として焦りを募らせている。

 ◆行政機能を縮小

 小町通りを中心に約250店舗が加盟する鎌倉小町商店会の高橋令和(のりかず)会長も、観光客の激減を指摘している。「出歩いているのは若年層が中心。偏りが見られるようになった」と話し、もともと多かった高年齢層や外国人観光客が姿を消したことで、客単価の低下などによる売り上げ減少を危惧している。

 また、「店を開けていても人が来ないから臨時休業している店舗もある」とも話し、「この状況が長く続けば、市外から進出してきている企業の、撤退の動きも出てくるのではないか」と不安を募らせている。

 実は市内では、市が新型コロナウイルスに関する話題で注目されたことが、観光客減少に拍車をかけたとみる向きが大勢を占めている。国が2月25日に新型コロナウイルスに関する対策基本方針を示したことを受け、市は職員約110人を休暇とし、窓口業務などの行政機能を大幅に縮小。同時に、子供らが休校で自宅待機となる職員など約140人を休暇措置とするなどの方針を打ち出した。

 ◆誤解が生まれ

 そこに折悪く感染拡大が懸念される“事例”が持ち上がる。鎌倉市では、ある女性感染者が陽性判明直前に市内のホットヨガを受講していたことが分かり、その後、同じ教室に複数の市職員らが通っていたことも判明。そのうちの職員1人に発熱の症状が見られた(後日に陰性と判明)。

 市は本人か家族が教室に通っていた19人と、発熱した職員と接触のあった34人の計53人の職員を自宅待機に。結果として、当初予定していた感染対策と合わせて300人規模の職員が自宅待機となったが、市担当者は「話が一緒くたとなり、まるで感染が原因で行政機能に影響が出たような印象を与えたようだ」と分析。「少なからず誤解が生まれたことは否定できない」と話し、肩を落とした。

 一方、市関係者の一人は「もともと魅力のあるまち。一刻も早い感染の沈静化とイメージの回復を望んでいる」と話しつつ、感染対策と商業活動が相反するもどかしさに唇をかむ。

 松尾崇市長は記者会見で「経営者からは、前年比で半分程度の売り上げに落ち込んでいるという話も多く聞いている。一方で新型コロナウイルスは防がなければならない」と苦しい立場を吐露。その上で「まちの声を聞きながら経済支援策を打ち出すなど経済活動が継続していけるよう努力していく」と力を込めた。

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 ◆小町通り

 鶴岡八幡宮の参道と並行し、JR鎌倉駅東口から鶴岡八幡宮まで続く商店街。みやげ物店や食堂、カフェが並び、ショッピングや食事、喫茶が楽しめることで観光客の人気を集めている。以前は瀬戸小路(せとこみち)と呼ばれていたという。

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