「コロナとの共生」を掲げた“ワクチン先進国”イギリスで、感染者が突如、増えだした。そこには新たな変異株がかかわっている恐れがあるという。海外の情勢を分析すれば日本の未来も見えてきた──。
「カンパーイ!!」。東京、大阪、神奈川など5都府県が飲食店に要請していた営業時間短縮が10月25日に解除された。全国的に酒類の提供制限などがほぼなくなり、各地の夜の街で祝杯のかけ声が響いている。今回の制限解除は、新型コロナウイルス感染者の激減を受けてのものだ。東京の新規感染者が連日50人を下回るなど新型コロナの収束傾向は明らかで、専門家はワクチン接種の進展や行動変容の効果を指摘する。
だが国内はやっと一息つけたものの、世界では早くも「再流行」が始まっている。顕著なのはロシアだ。10月21日、ロシア全土の1日の感染者は3万6000人を超え、1036人が死亡した。いずれも過去最多を更新し、感染拡大に歯止めがかからない。緊急事態に首都モスクワは約1年半ぶりのロックダウンに踏み切り、10月28日から11月7日まで、スーパーマーケットや薬局などを除く店舗や娯楽施設を一斉休業すると発表した。
「1日の新規感染者が10万人に達する恐れがある」
そう警鐘を鳴らすのは、イギリスのジャビド保健相だ。昨年12月、世界に先駆けて接種を始めた“ワクチン先進国”イギリスも感染拡大で10月21日に1日の感染者が5万人を上回り、死者が増加傾向にある。イギリスは新型コロナ関連の制限解除を進めてきたが、感染の再拡大に英国医師会は、「現実は、感染率も死亡率も許容できないレベルだ」としてマスク着用などの規制復活を要求した。
ロシア、イギリスにある1つの懸念点──それは新たな変異だ。その名も「ニューデルタプラス」。世界各国で猛威を振るったデルタ株の亜種にあたる。昭和大学客員教授(感染症)の二木芳人さんの説明。
「デルタ株から派生した『デルタプラス』と呼ばれる変異株のたんぱく質に、さらなる変異が加わって『ニューデルタプラス』が生まれました。わかりやすく言えば、デルタ株の変異版です」
アメリカ食品医薬品局(FDA)の元長官、スコット・ゴットリーブ博士は10月18日、ツイッターでニューデルタプラスについてこう注意を呼びかけた。
《この変異株がより感染しやすいのか、部分的に免疫回避ができるのかを解明するために、早急な研究が必要だ》
二木さんが言う。
「そもそもウイルスは2週間に1回は変異を起こし、ウイルスが生き残るのにより効率のよい状態に変わっていきます。それはデルタ株も同じ。詳しいことはまだわかっていませんが、ニューデルタプラスは従来のデルタ株よりも感染力が10%ほど強いといわれています。すでにイギリスの症例の7~8%を占めるとされます」
この先、日本にもニューデルタプラスが流入する恐れがある。国際医療福祉大学病院内科学予防医学センター教授の一石英一郎さんの指摘。
「海外との往来が増え始めた現在、これまでの国内の過去の事例からも、ニューデルタプラスが日本に流入する可能性は充分にあります。ワクチン接種が進んだ日本も決して油断はできません」
第5波で日本を窮地に陥れたデルタ株より強力なウイルスが国内に流入したら、悪夢の再来は免れない。
遠出するならこの3か月
注目したいのは、感染拡大の背後に特定のサイクルが見え隠れすることだ。「強力な変異株」が出現するごとに感染者が急増しているように見える。たとえばイギリスは、昨年12月にアルファ株の感染拡大で1日8万人の感染者を出したのち、ワクチン接種が進んで徐々に感染者が減少した。だがその後、感染が再拡大し、今年7月に感染者が1日5万人を超えた。
「デルタ株のせいで感染者が増えているのは確かだ」
当時、ジョンソン首相はそう変異株の脅威を認めた。それから3か月が経過した現在、ニューデルタプラスの登場とともにイギリスは感染者が激増。ロシアもイギリスと同じサイクルを辿り、昨年12月にピークを迎えた後、いったん落ち着き、7月に再び山場を迎えた。そしてこの10月に感染爆発している。ウイルスの変異と感染拡大の関係について、医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが指摘する。
「ウイルスは、遺伝子の突然変異でウイルスたんぱく質が変化して病原性や感染力が変わります。ワクチンなどで人類に感染が広がらない『壁』ができると、ウイルスは変異して病原性や感染力などを強めて、その壁を打ち破ろうとします。つまり、ウイルスの変異はコロナの流行につながるのです」
一石さんが続ける。
「ウイルスは弱肉強食で、弱いものが淘汰されて強いものが蔓延します。なので、いったん感染拡大が止まっても、より強力なウイルスが出現して感染が広がる可能性がある。この先、日本に流入するかもしれないニューデルタプラスも同様です。イギリスと同じ変異株ではなく感染を繰り返し、さらに強力に鍛えられた『スーパーニューデルタプラス』となって日本にやってくるかもしれません」
肝心の日本の今年の感染状況をみると、1月、5月、8月に感染者が山場を迎えた。どうやら3~4か月の周期で波が来ているようだ。ということは、第6波がやってくるのは11~12月になるのだろうか──。一石さんはこう言う。
「周期性を考えると、寒さが厳しくなる12月から1月にかけて注意が必要です。ワクチン接種が進んだとはいえ、3割が未接種である『7割の壁』が存在し、国内でも感染が再拡大する恐れがあります。特に年末年始は忘年会や新年会が多いシーズンで人流が激しくなるので、変異株対策が急務です」
室井さんは「年明け」に着目する。
「アルファ株は昨年の秋口にイギリスで流行し、日本で話題になったのは年明けでした。今後、ニューデルタプラスが日本で蔓延していくのも、アルファ株同様に来年の年明けになる可能性があります」
血液内科医の中村幸嗣さんは「あと3か月は大丈夫ではないか」と指摘する。
「日本はイギリスから3か月以上遅れてワクチン接種を始めました。さらに第5波で大量の感染者が出たので、いまは国民の7~8割が免疫を持っている状態と言えます。なので、よほど強い変異株が登場しない限り、あと3か月は抗体を維持することができると考えられ、感染拡大の可能性は少ないはずです」
そのうえで中村さんは「動くならいま」と呼びかける。
「いまが最も安全な時期で、『遊びにいくならいま』と言っていい。むろん完全に無防備でいいのではなく、マスクや手洗いなどの感染対策をしっかりすることが欠かせませんが、年内の忘年会や食事会、旅行などは問題ないと考えられます。ゼロリスクではないけれど、きちんと配慮すれば自由に行動しても大丈夫でしょう」
規制が解除されたいまこそ、コロナを過剰に恐れるのではなく、敵の正体を見極めて賢く行動することが求められる。
※女性セブン2021年11月11日・18日号