新型コロナウイルスで持ち家信仰の復活

■呆気なく衰退した「賃貸優位論」

 少し前まで、地震等の天災で自宅が損壊するようなことがあると、「家は賃貸に限る」と言われていた。不動産としての家を買うと、文字通り“動けなくなる”という意味でも賃貸の方が有利とする意見も聞かれた。
 先の見えない不安定な時代に自宅を購入して35年間もローンを組んで支払い続けるのはリスキーだという意見も多かった。

 しかし、新型コロナウイルス問題が生じると、「家賃が払えない」という意見があちらこちらで出てくるようになった。もちろん、その多くは住宅の家賃ではなく、店舗の家賃だが、毎月の決まった仕事と収入が有るという前提で成り立っていた賃貸優位論は呆気なく衰退してしまった。

■蓄えが無い(足りない)というリスクの顕在化

 しかし、ここで重要なことは、“家賃が支払えないこと”ではなく、“蓄えが無い(足りない)こと”だと言える。
 家賃にしてもローンにしても、ある程度の蓄え(ストック)があれば支払い続けることは可能となるが、生活費を除いた収入のほとんど全てを家賃やローンで支払い続ける返済モデルは極めてリスクが高いものであることが表面化してしまったということができると思う。

 こうなると、賃貸よりも持ち家が有利だとなるかもしれないが、先にも述べた通り、持ち家でもローンがあれば賃貸と変わらない。賃貸なら契約を解除して更に安い物件に引っ越すことも可能だが、持ち家の場合はそれができず、家が売れなければローンを支払い続けなければならない(できなければ自己破産)という意味で余計にリスクが高くなる。

 最もリスクが無くて安全なのは、ローンの支払いが発生しない持ち家、つまり、支払いが完了した持ち家となる。その場合でも固定資産税は支払う必要があるが、余程大きな土地でない限り、家賃ほど高額というわけではない。

■ゴーストタウンの新生

 「持ち家が簡単に手に入るわけがないじゃないか」と言う人もいるかもしれない。しかし、中古物件なら安価で販売されているケースもある。
 ゼロ金利やマイナス金利だということで、無理をして新築の家を購入して頭金も無しに35年間ものローンを組むよりも、短期ローンか一括で購入できる安価な中古住宅を購入した方が良い場合もある。

 ローンが無ければ、浮いた余剰資金を投資に回して、もう1つの収入源を得ることもできるかもしれない。
 「投資で儲かるかどうかなんて分からないじゃないか」と言う人がいるかもしれないが、その通り。しかし、それを言うなら「35年間もローンを支払い続けれるかどうか分からないじゃないか」とも思わなければいけない。

 一頃、ゴーストタウン化した住宅や空き家が多くなったと騒がれ、2030年には全体の30%が空き家になるという試算も発表されていたが、アフターコロナの世界では、そういう不要になっていた住宅が息を吹き返すようになるかもしれない。少しリフォームをして安価で売りに出せば購入したいという人は出てくると思う。

■新しい「持ち家信仰」の復活

 巣篭もりや自宅待機やテレワークが日常化すると、人の多い都心の狭い家よりも人の少ない郊外の広い家に住みたいと思う人も増えると思う。
 独り暮らしの人でも、これまでは、ほとんど自宅におらず外に出ているので、「ワンルームでも充分」というような人が多かったと思うが、1日中、ワンルームに閉じこもるというのは結構なストレスになるので、そういった“家は寝るだけの空間”という認識も改めざるを得なくなるかもしれない。

 いずれにしても、家賃を極力支払わずにストレスなく住める家が欲しいという人は増えていくだろう。
 あるいは、いっそのこと両親が住む家に出戻るというケースも増えるかもしれない。核家族化が問題になっていた日本社会が、昔のサザエさんスタイルに戻ることになるかもしれない。

 月々の収入という不安定なフローに頼った賃貸ではなく、ストックとしての持ち家が重宝される社会。そういう意味での「持ち家信仰」の復活であれば、決して悪いことではないのかもしれない。

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