新型コロナ危機が「EU崩壊」を引き起こしかねないワケ そもそも繁栄する国家は人口が少ない

ジョンソン英首相に拍手を送りたい

昨年は、日本でも大いに話題になったブリグジット(英国のEUからの離脱)だが、今年は新型肺炎騒動でかき消された感がある。

しかし、かなり強引な手法も用いたが大きな反対勢力に屈することなく、1月31日に英国がEUから離脱するよう導いたジョンソン氏の功績は歴史に残ると思う。

新型肺炎そのものは、すでに昨年12月30日には武漢中心医院の眼科医・李文亮氏がSNSでその感染状況を報告したのに、「治安管理処罰法」に違反しているとして武漢市公安当局によって処罰され、その情報は隠ぺいされた。

実際に世界の多くの人々が、新型肺炎の事実を知るようになったのは、習近平氏が対策を指示した1月20日以降のことである(後になって、1月7日に指示を出したと強弁しているが証拠はない)。

まさにブリグジットは、新型肺炎が欧州を含む世界でパンデミックになる直前に「間一髪」で敢行されたのだ。もちろん、今後の事務的交渉はEU側の混乱でかなり難しくなるであろうが、とにもかくにも離脱を成功させたその手腕と「強運」には拍手を送りたい。<3月27日に、不幸にもジョンソン氏が新型コロナウイルスの陽性反応を示したと首相官邸の報道官が発表したが、英国だけでは無く世界のためにも早期の回復を祈る。>

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11月8日の記事「ブレグジットが『前進』するウラで、次はEUが『崩壊』してきたワケ」など、多数の記事で問題点をしてきたEUであるが、本記事では新型肺炎という「泣きっ面にハチ」の脅威にさらされているEUの行方を考えてみたい。

判官びいきは危険

そもそも、EUを創設するという考え方自体が時代遅れで問題アリなのだ。

太平洋戦争当時、日本の技術の粋を集めて建造された「戦艦大和」は確かに傑作だ。1974年に放送された松本零士氏原作の「宇宙戦艦ヤマト」がいまだに国民的人気を誇ることからも、「戦艦大和」がどれほど日本人に愛されているかが分かる。

建造後その素晴らしい能力を生かすチャンスに恵まれなかった上に、新たに台頭してきた上空をハエのように飛び回る航空機に対抗できず沈没してしまった「戦艦大和」がなぜこれほど人気があるのか?

それは日本人の判官(ほうがん。源義経=九郎判官という役職名が語源)びいきの心情によるものだと思う。

高い潜在能力を持ちながらも、運命のいたずらで非業な最期を遂げた人々に対する共感は日本人共通のものであるし、「桜は散ってしまうから美しい」という感性もその1つだといえよう。

しかし、その心情も、日本が記録に残るだけでも1300年もの歴史を誇る安定的な国だから生まれるのだ。

巨艦主義という誤った方向に突進し、「桜の花びらが散ろうとしている」EU各国はそれどころではない。

そもそも、EUという組織が戦艦大和のような優れた性能や桜の花びらのような美しさを備えているかさえ疑問である。

巨艦主義は非効率

山本直純氏の「大きいことはいいことだ」という森永製菓「エールチョコレート」のCMソングを覚えている読者は私と同年代以上では無いかと思う。このとっくの昔に消えたはずの「大きいことはいいことだ」信仰がいまだに根を張っている。

EUも、当初のドイツ・フランスを軸にした「欧州先進国連合」のこじんまりした状態を維持していれば、まだ何とかなったかもしれない。しかし、拡大路線に走り出した欧州は、東欧諸国をはじめ先進国ではない国々を取り込み続け、(英国を含めて)28ヵ国の大所帯になった。

投資の神様バフェットは、企業経営者の拡大志向に対し、

「企業経営者にコンサルタントが『M&Aを検討されてはいかがですか?』と進言するのは、ティーンエイジャーの男の子に父親が『お前もそろそろ一人前の性生活を楽しんだらどうだ?』と声をかけるのと同じだ」

と強烈な皮肉を述べている。

経営者の、組織を拡大して自らの権力を増大しようという強烈な欲求は、常に合理的な判断を惑わせて企業に大きな損失を与える(実際M&Aの失敗事例は数え切れない)が、リーダーや幹部が権力欲の塊であるのはEUも同じだ。

EUが拡大してきたのは、EU加盟国の市民のためではなく、EU幹部たちの権力拡大のためであったのだ。だから、多くの加盟国の市民がEUからの離脱を望む。

繁栄する国家は人口が少ない

たしかに、国家が巨大になれば軍事力などの点で有利になる傾向がある。しかし、国民1人あたりの豊かさにおいては、小さな国の方が健闘している。

歴史を遡れば、カルタゴがまずあげられるであろう。強大なローマ帝国の軍事力に最終的には敗れたが、商業都市として空前の繁栄を謳歌しローマを長年苦しめた。

また、ベネチアも有名だ。このちっぽけな海上都市が驚くほど裕福で、世界に多大な影響を与えたことはよく知られている。

さらに現代でも、マレー半島の先端の小国シンガポールの1人あたりGDPは約6万5000ドル(世界第8位)で、約3万9000ドル(26位)で低迷している日本はもちろんのこと、約6万3000ドル(9位)の米国の上に位置する。

さらに上位10ヵ国には、ルクセンブルク、スイス、マカオ、ノルウェー、アイルランド、アイスランド、カタール、デンマークなどいわゆる小国(地域)がランクインしている。

このように眺めると、人口が少ない国の方が、国民は豊かになる傾向があるように思われる。

日本でも少子高齢化が騒がれているが、「高齢化問題」はともかく、「人口減少」そのものは必ずしもマイナスとは言えない。

マルサスは、「人口論」で、「人口はネズミ算式に増えるが、食料生産は折れ線グラフ的にしか増えない」ことを指摘している。

事実、欧州は度重なる感染症や戦乱などでなかなか人口が増えなかったことが繁栄につながったと考えられるし、すばらしい衛生環境と260年以上にわたる平和な時代=江戸時代の日本は、世界1人口が多かった都市とされる江戸を含む多数の人口のおかげで、(文化は発展したにせよ)国民は貧しかった。

繋がったシステムは弱い 

3月28日公開の「武漢肺炎ショックでわかった『日本の弱さ』とこれから本当に起きること」で述べた様に、世界中に張りめぐらされたインターネットやIoTなどの通信網の発達や交通機関の進化などであらゆるものがつながることは便利だが、つながることによってリスクも増大する。

典型例は、直通運転などでJRや各種私鉄がつながった都市交通網である。直通運転は非常に便利であるが、直通運転区間が伸びることで、1ヵ所の不具合が全体に影響を及ぼす頻度と被害が大きくなった。

EUは、まさに個別に独自の運営をしていた国々を「直通運転」でつないだシステムであり、1ヵ所の不具合が全体に及ぼす悪影響も増大する。

新型肺炎は、その欠点を暴きだし「人とモノの自由な往来」をなし崩しにしてしまった。新型肺炎そのものは自然災害ではあるが、その自然災害が欧州全体に広まってしまったのは、EUという巨艦主義にも大きな原因があると思われる。

欧州のリーマンショック処理はこれからだ

さらに問題なのは、欧州におけるリーマンショックの処理がまだほとんど終わっていないことである。リーマンショックは、2007年のサブプライムショックに続いて2008年に起こっているので12年も前の話だが、欧州ではこれまで問題が先送りにされてきた。

経済的には最も良好な状態にあると言われる国のドイツ銀行の経営危機がささやかれ続けているのがその証拠だ。

日本のバブル処理は、少なくとも1990年から2003年のりそなショックまで相当な時間をかけて行われた。だが、苦労があったにせよ処理はおおむね完了した。

しかし、欧州ではイタリア、スペインさらにはギリシャなどの債務問題はほとんど何も解決されず、先送りされているだけである。イタリアが「一帯一路」で共産主義中国に近づいたのも、債務・経済問題で追い詰められているからに他ならない。

米国や日本だけでは無く、欧州でも「財政出動」の話が出ているが、リーマンショックの処理が行われていない中で、大規模財政出動が行われればどのようになるのかは火を見るよりも明らかである。

ドイツの第1次世界大戦後のハイパーインフレは、いまだに語り継がれているが、各国の財政破たんによってユーロが紙切れになるというシナリオも、決して絵空事とは言えなくなってきた。

中国とEUがともに崩壊?

EUだけではなく、共産主義中国に関する問題についても3月21日の記事「武漢肺炎危機が『致命傷』と化す中国、『道連れ』になる韓国・北朝鮮」などで繰り返し述べてきたが、両者が同時崩壊というシナリオもあり得る。

新型肺炎の流行そのものは、日本ではかなり抑制されているのは事実であるし、株式市場も米国を始めとする海外に比べればはるかに落ち着いている。

しかし、新型肺炎騒動は単なる予兆にしか過ぎないような気もする。2007年のサブプライムショックの後2008年にリーマンショックが起きた事実を忘れてはならない。

サブプライムショックで明らかになった問題は、実は全体のごく一部であったわけだが、新型肺炎も世界中に累積している問題のごく一部を明らかにしただけではないだろうか?

例え新型肺炎の流行が収束したとしても、もろ手を上げて喜べない。今回の騒動が明らかにした問題はあまりにも大きく、その解決には相当な痛みが伴うはずだ。

バフェットは「未来は予想できないから、それに備えることしかできない」と述べる。今回の株式市場暴落で備えをしていた人々は大きなチャンスをつかんだはずだ。

しかし、想定外の危機がやってくるのは1度だけとは限らない。今回の新型コロナウイルスが世界経済に与える影響は、まだ全く見通しが立たない。パニックで騒ぐ時期は終わったと思われるが、「備え」はまだまだ怠るべきではない。

もっとも、2018年10月6日の記事「今後4半世紀の間に日経平均株価は10万円に達することができる」で述べた考えに変わりはないから、もし中国・EU同時崩壊クラスの大事件で市場が再度大暴落すれば「備え」を怠らない投資家には巨大なチャンスになると思う。

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