新型コロナ対策 持ちこたえるアジア、感染爆発を防げなかった欧米――何が明暗を分けたのか?

「私はこの戦争に勝つ。見えない敵を打ち負かす」(トランプ米大統領)
「第2次世界大戦以来の最大の挑戦だ」(メルケル独首相)
「私たちは戦争状態にある」(マクロン仏大統領)
「防疫は戦争と同じ。政府と民間は心を一つにしよう」(台湾の蔡英文総統)

【画像】新型コロナの感染者を医師が取り囲み……“医療崩壊”したイタリアの病院

 人類は今、地球規模で猛威をふるう新型コロナウイルスとの“戦争”の真っ只中にいる。各国のリーダーの発言がそれを如実に示している。はたして新型コロナが勝つか、人類が勝つか――。


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 そこで本稿では、水際対策を中心に「新型コロナ対策で成功した国・失敗した国」を見てみたい(いずれも現時点での分析であり、今後の感染の展開次第では評価が変化する可能性もある点は、どうかご了承願いたい)。

感染者を11人にとどめているモンゴルの対策

 欧米諸国と違い、東アジア諸国の中には、中国からの感染を防ぐ水際撃退作戦で成功した国が多い。モンゴルや台湾、シンガポール、香港、ベトナムが特にそうだ。これらの国々は、2002年から2003年にかけて流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)や、2012年の中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルス、2009年の新型インフルエンザなど、過去にさまざまな疫病に襲われて多数の犠牲者を出した教訓を生かしている。

 中でも、中国と5000キロ近い国境を接するモンゴルは、3月26日時点で、感染者が11人にとどまる。死者数はゼロだ。

 モンゴルは当初から大胆かつ迅速な新型コロナ対策を実施してきた。

 春節(旧正月)の折、中国湖北省武漢市が1月23日に都市封鎖したなか、モンゴルは1月27日に中国との国境の道路を封鎖して車や人を通行止めにした。また、同日には幼稚園から大学まで全教育機関を休校にしたほか、多数の人が集まる芸術・文化・スポーツイベントや会議の開催を禁止した。

日本の対応はモンゴルより1カ月以上遅かった

 ちなみに、日本が中国と韓国からの入国制限の強化(中韓両国に発給済みの査証の効力停止と両国からの入国者に対する14日間の待機要請)を始めたのは3月9日。そして、安倍首相が小中高校の休校を要請したのは2月27日。大規模なスポーツ・文化イベントを中止もしくは延期、または規模を縮小するよう要請したのは2月26日だ。モンゴルに比べ、何もかも1カ月以上遅い。

 さらに、モンゴルは2月1日の時点で、モンゴル国民の中国・香港への渡航を禁止したほか、中国人と中国に滞在経歴がある外国人の入国を全面禁止にした。そして2月末には、なんと中国訪問後のモンゴルのバトトルガ大統領と外相、その他の政府高官らを、「予防的措置」として14日間の隔離下に置いた。

 モンゴルは中国と経済的な結びつきが強く、友好関係にある。しかし、何よりも自国の防疫を最優先し、果敢な措置に打って出たのだった。

SARSでの“痛い経験”を生かした台湾

 台湾の蔡英文(ツァイインウェン)政権も防疫優先を掲げ、水際対策と国内の感染連鎖阻止で成功してきた。台湾は中国本土と物理的に近く、経済的にも関係が深いにもかかわらず、国内感染者は252人、死者は2人にとどまっている。

 台湾では、国内感染者が出る前の1月15日、先手を打って新型コロナを「法定感染症」に指定した。最初の国内感染者が確認されて10日以上経った1月28日に「指定感染症」をようやく閣議決定した日本政府の対応と比べると、その迅速さが際立つ。また、台湾の教育部(教育省)は2月2日、小中高校の春節の冬休みを2週間延長し、24日まで休校にした。台湾はさらに、2月7日から中国大陸在住の中国人の入国を全面的に禁止した。

 台湾では、2002年から2003年に流行したSARSで37人が亡くなった。これを受け、台湾政府は伝染病予防法を改正して、政府が防疫のために必要と判断した物品や設備などを徴用できるよう、集中的な権限を有する「指揮センター」の設置を可能にした。過去の痛い経験を踏まえ、事前の法整備や危機管理体制を着実に強化してきたのだ。国家の危機には「初動と備え」がいかに大切か、台湾の例は大事な教訓を示している。

スマホアプリで“接触者”を追跡する

 またシンガポール政府は、徹底した接触者の追跡と隔離を実施して、感染者683人、死者2人に封じ込めている。3月20日には感染者に接触した人を追跡するスマートフォン向けアプリの提供を始めた。さらには、隔離命令に従わない住民や、国外移動について偽情報を提供した旅行者を処罰している。

 総じて、東アジア諸国は欧米と比べて、権威的な政権が多く、社会にも調和を優先する文化が強い。このため、不要の接近や接触を控える「社会的距離」の確保やマスク着用の励行など、より厳しい公衆衛生の方策が市民の間でも自然と取られている。

 一方、新型コロナ対策で失敗している国はどこか。筆者は、いわゆるオーバーシュート(爆発的な感染拡大)を防げず、大勢の国民の生命を守れていない国家を失敗国だとみなしている。国家が本来、真っ先にやらなければならない役目は、国民の生命と財産を守ることのはずだからだ。

 その意味で、すでにオーバーシュートが起きた中国やイラン、イタリア、スペイン、そしてアメリカは感染対策で失敗した国といえる。現在は、それらの欧米の国々がホットスポット(多発地点)となり、アジアに感染拡大の第2波をもたらす「逆輸入」が始まっている。欧米の大学で学んだ留学生や旅行者がアジアの本国に帰国して、新型コロナを持ち込んでいるケースが目立ってきている。

オーバーシュートが発生した国の特徴は?

 そもそもの発生地である中国では、初動の遅れや判断ミス、情報公開の不足が感染拡大に拍車を掛けた。習近平国家主席が権力集中を進めた結果、武漢市をはじめとする地方政府が、情報公開などの面でも権限がなく機能不全になったと指摘されている。また、中国は新型コロナの感染者の定義を何度も変更してきた。このため、そもそも中国の感染データには不信感が根強い。

 オーバーシュートが発生したその他の国は、経済や貿易、観光、移民などの観点から、中国との関係の深い国が目立つ。中でもイタリアは、中国が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」の主要拠点であり、何百年も前から経済的に強くつながっている。近年でも中国系住民が増加しており、現在では全土で約40万人に達するとされる。

 失敗国は、イタリアのように水際対策が甘く、感染者を見つけ出せていなかったり、感染者や接触者の追跡と隔離をうまく実施できていなかったり、あるいは医療崩壊を起こしてしまっているケースが目立つ。

 隣国の韓国はどうだろうか。新型コロナのPCR検査体制が整っていなかったため、逆に医療崩壊することなく現在に至っている日本に比べ、検査態勢が整っていた韓国は当初、陽性となった人全員を入院させていた。しかし、途中から治療方針を転換。感染患者の症状を4段階に分け重篤、重症者を優先的に治療するトリアージ(治療の優先度識別)を導入した。このため、大邱での集団感染発生にもかかわらず、医療崩壊を回避できている。

現代社会でうまく生き残るよう進化・変異した?

 新型コロナの急速な感染拡大の背景には、ヒト・モノ・カネ・情報のグローバル化の進展がある。昔と違い、格安航空券で大陸から大陸への移動も簡単にできる。これはウイルスにとっても地球が狭くなったことを意味する。

 また、日本をはじめとする先進国は、かつてない高齢化時代に突入している。お年寄りは若者に比べ、持病などを持ち、感染症から体を守る免疫が働かなくなることが多いだろう。私には、新型コロナはまさにこうした現代社会でうまく生き残るよう進化したり、変異したりして誕生してきたように見えてしょうがない。

 こうした難敵のウイルスと対峙するために、成功国と失敗国の分析から得るものは大きいだろう。

(高橋 浩祐)

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