新型コロナウイルスの感染拡大に伴うイベント自粛要請で、全国のライブハウス、音楽バーなどが苦境にあえいでいる。大阪のライブハウスを訪れた人の感染が確認され、小規模な感染者集団「クラスター」が発生していたことが判明して以降はイベントの中止も相次ぐ。「音楽イベント」への逆風も強まる中、ライブハウスの経営者らは先行きに不安を抱きながらも、「音楽を愛する者たちのため」と歯を食いしばる日が続いている。(織田淳嗣)
常連客の来訪
「ゼロと1とでは全然違う。1人来てくれたことが本当にうれしかった」
大阪・北浜の「ライオン橋」を渡った先にあるライブハウス「バンケットハウス」の店長、河合知記さん(33)は3月5日の1日をこう振り返る。
同店はライブのない日は大音量のカラオケや楽器演奏をステージでできるバーとして営業。だが、新型コロナウイルスの感染拡大で2月下旬以降は客足が減少。これまでも化粧室にマウスウオッシュを常備するなど衛生・環境には配慮してきたが、さらに店の入り口に除菌液を設置するなど対策を強化。だが、3月に入ると状況は悪化。1回あたり10万円弱の売り上げのあるライブやパーティーが5件キャンセルとなった。それだけに3月5日も来客0人を覚悟していたが、1人の常連客が訪問してくれたという。深夜になり、さらに1組の客が来たが、それまではほぼ貸し切り状態だった。
とはいえ苦境に変わりはない。河合さんは「3月の売り上げは半分近く減った。このまま長引けば払うものも払えなくなるかもしれない」とこぼす。アルバイトは全員休みとし、河合さん1人で切り盛りする日々が続く。
同店ではイベントも多く開催してきた。バレンタインデーにはチョコレートファウンテンを設置。七夕の流しそうめん大会を催したり、ハロウィーンで仮装パーティーを実施したり。店で知り合った客同士が結婚したケースも複数ある。河合さんは「うちは歌や楽器で遊びたい人同士の結婚相談所みたいなもの。みんなの遊び場を守りたい」と営業を続ける。
「音楽をやる雰囲気がない」
家族連れらが集うコンサートも中止の憂き目に遭っている。
岡山市・表町商店街にある「服部管楽器」の服部悟社長(38)は「打ちのめされそう。ここまで客足が遠くなるとは思っていなかった」と打ち明ける。
同店では楽器販売とは別に、土日を中心に店内でコンサートを実施していた。だが、こちらも2月下旬からはイベントが軒並み中止に。同商店街は昨年10月、服部さんが中心となり、周辺の楽器店とともに表町を「音楽の街」として盛り上げるイベントも行ったばかり。服部さんは「もはや今は『音楽をやる』ような雰囲気ではなくなっている」と嘆く。
「音楽人口の裾野を広げるには、プレーヤー同士の交流を深めること。楽器屋自身が動かなくてはいけない」として、一昨年10月から、夜間に店内を「バー」として開放している。しかし、客足や情勢をみながら休止も検討しているという。
さびない弦
大阪・梅田にあるライブハウス「ロックバー セブンス」店長、山本章史さん(46)は最近、意外な発見をしたという。
「ギターの弦はさびないんですね」
店には客が演奏できるギターやドラムといった楽器を備えているため、ドアノブやテーブルだけでなく、楽器にも除菌スプレーをかける対策をとっている。普段は開けない窓も換気のため開けるようになった。
同店も厳しい状況に追い込まれており、3月の売り上げは半分近くに減った。山本さんはライブハウスが置かれた苦しい状況に「集団ができる場所はほかにも多数ある」と訴える。
サラリーマンを経て平成29年7月に開店。「仕事ばかりしてきた人が、音楽に触れやすい場所を作りたい」との思いからの起業だった。
「苦しいけれど、営業を続けることで音楽活動に携わる人を応援したい」。当面は店を開け、音楽好きな客らを待っている。