ネット、とくにSNSの影響力が強まったと言われるが、まだまだテレビが人々に及ぼす影響は大きい。新型コロナウイルスの流行に伴う混乱のなかで、テレビ報道によって出現した現象について、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏が読み解く。
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有事の際、報道はいかにあるべきかが新型コロナ禍の中、ネットではしきりと議論されるようになった。その筆頭は2月末に発生した「トイレットペーパー買い占め騒動」だが、4月末になってもトイレットペーパー及びティッシュペーパーの品薄状態は収まっていない。
この件の発端は、ツイッターで発せられた「紙製品を作っている中国の工場がストップしたからトイレットペーパーがなくなる」といった説とされている。だが、東京女子大学現代教養学部教授で社会心理学者の橋元良明氏は『女性セブン』の取材に「今回の買いだめ行動は、SNSよりも圧倒的にテレビの影響が大きいと見ています」と述べている(4月23日号)。
つまり、「棚から消えています!」という報道をテレビが一度でもしてしまうとドラッグストアに開店前から列ができる状態になってしまう、ということだ。コロナ報道で物議を醸したのがこの「棚からなくなってます!」報道に加え「若者がこんなにたくさん江ノ島を訪れています!」「高齢者がこんなにたくさん巣鴨の縁日に来ています!」といった「混んでます!」報道だ。
こうした報道により「な~んだ、大丈夫じゃん。今度の週末は江ノ島行こうっと♪」といった状況になり、4月19日、快晴の江ノ島近くは大渋滞になった。この件だが、前週末の大混雑を受けて各自治体は県営・市営の駐車場の多くを閉鎖するという措置を取った。この事実を知らない人々が車で江ノ島近くに殺到し大渋滞を起こし、地元住民から総スカンとなったということだ。
そもそも江ノ島がある神奈川県も「自粛」が要請されているんだから、遊びに来るってどーなのよ? なんてことを思う。ネットには「これからコロナに感染するのは自粛しなかった人達だからもう検査しないでいいだろw病院も満員だし保健所で断ればいい」という極端な書き込みがあったが、結局強権発動できない日本の政府と各自治体の弱さが今回のような有事で明らかになったということだろう。
トイレットペーパー不足の時は「マスゴミは空っぽの棚を映すのではなく、倉庫に在庫がたくさんある様子を映せ!」「混雑している様子ではなく、ガラガラの様子を映せ!」といった批判がネットではあった。2次被害を減らすためには至極真っ当な意見である。
だからこそ、フェイスブックで、「空っぽの棚を映して公開するのやめませんか? そういう方と“ともだち”でいたくない」といった批判をする人も出てきた。あとはネットのスピードの速さも感じたのが「新型コロナは26~27度で死滅するから白湯を飲め」という説が突然登場した時のことだ。すぐに「体温より低いだろ!」とツッコミが入り、以後「36~37度」「56~57度」という形でウイルスの如くこのデマも変容を遂げながら「ンなワケねぇ!」と適宜ツッコミを食らい続け、この珍説は消えた。
一方、テレビが何を言おうが、その場ではツッコミ役はあまりいない。出演者も「割って入るのはどうかと思う……」的な大人の対応をする。それが結果的に純粋バカの暴走に繋がってしまうのである。
●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など