バイデン氏は「野戦病院」設営を主張
米国内の新型コロナウイルス感染拡大はとどまるところを知らない。
3月15日米西部夏時間午後4時(日本時間16日午前8時)現在、感染者数は3010人、死者61人になった。
元オハイオ州知事のマイク・デワイン氏は15日のテレビのインタビューでこう言い放った。
「これは戦争だ。第2次大戦争同じような状況になってきた。敵は目に見えないウイルスだ。いずれ食料品の配給制を敷くことになるだろう」
ジョー・バイデン前大統領は、15日夜のバーニー・サンダース上院議員とのテレビ討論会の席上、デワイン氏に同調してこうコメントした。
「今の状況は戦争のようなものだ。見えない敵が米本土を攻撃している」
テレビ討論会はもはやバイデン氏、サンダース氏のどちらを選ぶといった雰囲気ではなかった。
独走態勢に入ったバイデン氏が「大統領として」今の現状にどう対処するかを米国民が知りたい、焦点はもはやそちらに移っていた。
バイデン氏はこう具体策を提案した。
「米軍最高司令官である大統領は、軍隊を動員させて感染拡大を阻止すべきだ。州兵を出動させて、感染者を収容できる大規模な野戦病院を設営するべきだ」
米国内で見ていると、もはや米国民はドナルド・トランプ大統領が記者会見で自分のやっていることを自画自賛しているのには辟易しているのが分かる。
身の危険が自分たちに攻め寄せている時、トランプ大統領ではだめだ、と思っているのだ。
政府機関の官僚たち、特に米疾病対策センター(CDC)のアン・シャカット首席局次長(医学博士)や国立アレルギー・感染病研究所(NIAID)*1のアンソニー・ファウチ所長(医学博士)の言っていることは信用するが、大統領は信用しない。そんな感じすらがする。
*1=NIAIDは国立衛生学研究所を構成する27の研究機関の一つ。ウイルス感染などの研究では米政府部内の最高機関。
だからトランプ大統領が国家非常事態宣言を出そうが出すまいが馬の耳に念仏。これまで自画自賛と事実と異なる発言・暴言を繰り返してきた大統領にとってはまさに身から出た錆と言える。
しかし連邦準備制度理事会(FRB)が事実上のゼロ金利政策を打ち出せば、経済界は即、反応を示す。
戦争状態になれば、政治行事も大きく変わる。
予備選たけなわの野党民主党のテレビ公開討論会は聴衆の規模を縮小した。7月13日からミルウォーキーで開催予定の民主党大会の規模縮小を検討し始めている。
(https://www.washingtonpost.com/politics/some-democrats-urge-party-to-weigh-alternatives-for-national-convention-amid-coronavirus-outbreak/2020/03/12/66c6b5fa-6486-11ea-845d-e35b0234b136_story.html)
米国内の基地に駐屯する米軍兵士とその家族はよほどのことがない限り国内での移動を禁止された。
カリフォルニア、ニューヨーク各州などの公立学校はすべて休校。これに各州が追随している。主要大学は休校に伴い、オンラインによる授業を開始している。
卒業式を取りやめる大学も続出している。
銃・酒・マリファナ店に長蛇の列
筆者の住むロサンゼルス近郊でもスーパーや大量量販店コストコには早朝開店前から列ができ、鶏肉やトイレットペーパーは品切れ。
(筆者もアルハンブラのコストコに買い物に行ったが、市民たちは缶詰や冷凍食品を買い占めていた)
また酒類、銃、マリファナ(医薬品使用の)を売る店には終日客が殺到している。
主要紙の一つ、ロサンゼルス・タイムズでも編集者や記者の大半を在宅勤務にした。
こうした動きにダメを押すように米疾病対策センター(CDC)は15日夜、今後8週間(5月3日まで)50人以上集まる会合や集会の自粛を通達した。
「トランプ氏の言うことはウソが多すぎるし、信用していない」(コストコで出会ったラティーノ系の中年女性)のだ。
米市民:「東京五輪? 冗談じゃない」
米国はいよいよ「戦場」になってきた。新型ウイルス感染の状況は日本も戦場のようだと思うが、大きく違う点が一つある。
7月14日から始まる東京五輪をまだ開催すると意気込んでいる安倍晋三首相に対し、トランプ大統領は現状では「開催中止」を決め込んでいる点だ。
トランプ大統領のすることなすことにことごとく反対している野党・民主党もこの点については意見が一致している。
ワシントンの共和党幹部の一人に電話で「東京五輪」の話をすると、同氏は語気を強めてこう言い切った。
「東京五輪だって? それどころじゃないよ。予定通り開催するなんて、問題外だよ。You’re kidding me(冗談だろ)」
筆者はロサンゼルス近郊に住む何人かの人に東京五輪の可能性について聞いてみた。10人中10人が「東京五輪などあり得ない」と明快に答えた。
その一人、カリフォルニア州政府に働く男性公務員B(42)は筆者にこう指摘した。
「安倍首相は東京五輪実現に向けて万全の準備をすると言っているんだって? それを日本国民は皆信じてるのか」
「『裸の王様』に『王様、あなたは裸ですよ』という者はいないのかね」
日本の報道によれば、トランプ大統領は3月13日の安倍首相との電話会談で「日本の透明性ある努力を評価する」と答えたという。
しかし、ホワイトハウスは電話会談の内容を一切明らかにしていない。
トランプ大統領はその前日の12日、アイルランドのレオ・バラッカー首相との会談の際のホワイトハウス詰め記者とのやりとりでこう述べた。
「私の考えにすぎないが、東京五輪は1年間延期すればいいのではないか」
この発言で13日の東京株式市場の日経平均株価は一時1800円超の下落となった。
延期あるいは中止になれば、国際オリンピック委員会(IOC)、組織委員会、東京都は大きな損失を出す。安倍首相にも政治的インパクトを与えかねない。
安倍首相はトランプ大統領との会談では東京五輪延期などについては一切出なかったと、間接的な形でトランプ氏の「1年延期説」を否定した、と日本メディアは「解説」している。
米メディアはこれについて報道はしていない。主要紙のスポーツ担当記者はこう述べている。
「東京五輪の延期は米国メディアではほぼ既定の事実。はっきりと公表されるまで報道する必要もない」
「強行すれば選手団派遣を拒否」
前述のスポーツ担当記者はさらに続ける。
「トランプ大統領周辺は、米オリンピック委員会の幹部に『今の状況では7月に東京で五輪を開催するのは物理的に言っても無理だ』と仄めかしている」
「米国からは東京五輪に選手620人、役員1200人の総勢1820人が派遣される。彼らに万一のことがあったら誰が責任をとるのか」
「開会式には行くと言っていたトランプ大統領にとっても選手団を行かせるかどうかの判断は重要な政治決断になる」
「選手たちも7月に合わせた準備態勢の総仕上げ時期に入ってきた。やるかやらないか、安倍首相やIOCはできるだけ早期に発表すべきだ」
トランプ大統領の「東京五輪1年延期」説は単なる思いつきではなさそうだ。
新型ウイルス感染を受けて米主要スポーツ界は次々と今シーズンの延期や中止を決めている。
以下米スポーツ界の動きだ。
●XFL(プロフットボール)、ゴルフ(プレヤーズチャンピオンシップ)が年内試合をキャンセル。テニスのマイアミオープン、ボルボ・カー・オープン、スキーのワールド・カップなどもキャンセル。NCAA(全米大学フットボール)は残り試合キャンセル。冬季、春季試合全面キャンセル。
●MLB(メージャーリーグ)、NBA(全米バスケットボール)、NHL(全米アイスホッケー)が2週間から1か月試合延期。ボストンマラソン(4月20日)は9月14日に延期。
予定通りやると15日現在で言っているのはストックカーのNASCARとインディ・カーと競馬、プロボウリングだけだ。
米スポーツ界が新型ウイルス感染のため高い代償を払ってキャンセルしている中で、トランプ大統領が東京五輪を予定通りやれ、という方がむしろ不自然だ。
そんなごり押しをすれば、それでなくとも危なくなっている大統領選などは夢のまた夢になってしまう。