◇与野党協力進めよ◇被災者救済こそ急務
〈提言のポイント〉
◆ポスト菅で迅速な政策決定◆行政組織を活用せよ
◆消費税率上げで財源確保◆増収分を被災地に集中投下
◆暮らしの再建が最優先だ◆特区で雇用作り出せ
◆放射能に苦しむ福島を救え◆計画的な除染で人々に安心を
◆電力危機を直視すべきだ◆国の責任で原発再開せよ
東日本大震災の発生から11日で5か月がたった。危機への即応力を欠く政治に、国民のいらだちは頂点に達している。復旧・復興はままならず、暮らしの先行きが見えない被災地には不安と無力感が漂う。深刻さを増す電力危機は日本経済を揺さぶり、円高と世界同時株安が追い打ちをかける。求心力を失いながら思いつきの言動を重ねる菅首相の居座りが、政治の停滞を長引かせてきた。読売新聞社は、危機打開の実行力を政治が取り戻すため、菅首相の早期退陣で人心一新を断行し、与野党協調の新体制を構築することなど、5項目の提言をまとめた。
菅首相が月内にも退陣する方向が固まり、日本政治にようやく変化の局面が訪れる。ただ、大震災後の日本の再生を滞らせてきた大きな要因が、菅首相の誤った政治手法にあることを忘れるわけにはいかない。
6月に「退陣表明」しながらその後も居座りを続け、与野党間の信頼関係を損ねたことが、特例公債法案などの成立に向けた与野党歩み寄りの障害となった。国会審議の大幅な遅れで、政府は本格的な復旧・復興に向けた第3次補正予算案の準備にも入れないままだ。
国の貴重な知恵袋である官僚を敵視し、閣僚や与党幹部との議論もないまま、個人的な思いつきによる指示を乱発したことも、国政を大きく混乱させた。海江田経済産業相が尽力していた原子力発電所の再稼働に突然ストップをかけ、政府内調整なしに「脱原発」方針を記者会見で訴えたことで、電力危機を増幅させた罪はひときわ重い。
8月の本紙世論調査(5~7日実施)で内閣支持率が発足以来最低の18%に急落したのは、国民が首相の危うい政治手法に懸念を強めたからにほかならない。
首相退陣後の新政権は、復旧・復興策を中心に与野党が政策をすりあわせたうえでスタートを切る必要がある。党利党略を超えた新たな体制で、官僚の知恵も活用しながら復旧・復興を迅速に進める法律を整え、必要な政策を着実に進めるべきだ。情緒的で耳当たりのいい「脱原発」「反増税」を唱えるだけでは日本は沈没する。選挙目当てのポピュリズムに陥らずに目前の懸案を解決するため、民主、自民両党を中核とする超党派の「救国内閣」的連携が求められる。
◆街づくり国が支援を
政府は7月29日に復興基本方針を決定した。2015年度末までに最低19兆円が必要としながら、肝心の財源を明示しなかった。復興資金を当面、国債発行で賄うことはやむを得ず、無利子非課税国債も選択肢になり得る。将来世代につけを回さないために償還財源を明確にすべきだ。復興を国民全体で支えるには人々が広く負担する消費税率を3%前後引き上げ、財源の柱にすることが望ましい。法人税や所得税だけで賄おうとすれば黒字企業やサラリーマンに負担が偏り、経済の活力を弱める。
消費税は本来、社会保障の重要財源である。だが、今は被災の深刻さを考慮し、社会保障財源に予定される税収の増加分を復興につぎ込むべきではないか。
最優先課題は被災地再建だ。東北は部品産業の集積地である。その強みを生かすため、被災地への進出企業には税制などで優遇する復興特区を設け、民間資金導入で新たな雇用創出の道筋をつける必要がある。農漁業も特区による新たな再生を試みたらどうか。
仮設住宅での孤独死が災害後の5年間で200人を超えた阪神大震災の教訓も生かさなければならない。高齢者の見守り活動や医師の長期派遣など、震災前から弱かった被災地の医療・介護体制を強化する必要がある。全半壊が25万戸を超えた住まいの再建のためには、国の全面支援で街づくり計画を早めるべきだ。
放射能に苦しむ福島の救済も重要だ。汚染された土壌とがれきの処理の先送りは許されない。国は法整備と技術開発を急ぐ必要がある。子供を被曝(ひばく)から守る措置と農産物の安全基準確立も急がなければならない。
他方で、電力危機が深刻さを増している。国内54基の原発がすべて停止すれば日本は震災前の電力の30%を失う。企業の経営環境はますます厳しくなり、海外への流出が加速しかねない。ストレステスト(耐性検査)などで安全が確認できた原発は、政府が責任をもって再稼働させるべきだ。
提言は編集局、論説委員会、調査研究本部の専門記者が検討を重ね、有識者との討議も踏まえ策定した。
(2011年8月11日03時04分 読売新聞)