「この商品、少なくなっている気がする……」あなたもそんなふうに思ったことはないか? 実は今、我々の周りでは多くの商品が「ステルス値上げ」(値段を変えず容量を減らす実質的な値上げ)されている。食品や日用品などのさまざまなジャンルの商品が、“ひそかに”少なくなっているのだ。 ⇒【写真】外壁をグレードダウン。釘打ちで留めるタイプはコスト減もデメリットあり
一昔前に比べてかなり小さくなった新築マンション
ステルス値上げは食品や日用品だけでなく、なんと住宅でも行われているという。ホームインスペクター(住宅診断士)の田村啓氏が解説する。 「実は新築マンションなどは一昔前に比べてかなり小さくなっているんです。例えば、10年ほど前は3LDKなら70㎡超えが主流だったところが今は60㎡台になったり、10階建てを11階建てにするために天井高を下げたりしている。 地価や資材の価格が上がったぶん、居住空間を少しずつ狭めていくことで、部屋数を増やしているのです」
リーマン・ショック前のほうがクオリティは高い!?
菓子だけでなく家まで小さくなっているとは驚きだが、図面を見ただけでこの事実に気づける人は少ない。 「さらにはキッチンやユニットバス、洗面化粧台といった設備のグレードが落ちていたり、ともすれば、本来あった設備がなくなったりしています。 実は、業界全体がまだ活況だったリーマン・ショック前のほうが、マンションのクオリティは高いのです。中古マンションを買う際の基準にしてもいいかと思います」
一戸建て住宅でも質の低下が…
また、一戸建て住宅でも質の低下が起こっている。 「分譲住宅のデベロッパーや注文住宅は、建設中に資材が高騰しても決められた販売価格を変えづらい。そこで、フローリングを安いシート材に替えたり、外壁の工法をグレードダウンしてコストを調整するのです。 本来、契約後の資材変更は施主や買主の同意のもとに行われますが、なかには知らされていないケースもあります。もちろん、違法な工法ではないのですが、外壁は特に傷みやすい部分。 釘打ちで留める『サイディング材』が使用された場合などは、ひび割れが起きやすくなるので注意が必要です」 釘打ちで留めるタイプのサイディングはコスト減になるが、ひび割れが起きやすくメンテナンスサイクルが早まりやすいデメリットがあるという。
家を売りに出す際に価格低下が大きくなる可能性も!?
弊害はほかにもある。 「設備のグレードダウンによってメンテナンスのサイクルが早まるリスクがあります。また、あらゆる空間を切り詰めて部屋を縮小しているため、リノベーションしたいときに可変性が制限されることも。 将来、家を売りに出す場合に価格低下が大きくなる可能性も否定はできません」
住宅業界が抱える慢性的な人手不足問題
ステルス値上げの背景には、木材や鋼材、原油など資材価格の高騰があるわけだが、田村氏は「建築業界の抱える構造にも原因がある」と話す。 「現在、建築業界は慢性的な人手不足に悩まされており、高齢化が進んでいます。そのようななかで世界的な脱炭素化の流れにより、’25年には建物の建築基準向上が義務化されることになりました。 そうなれば、チェック体制を甘くするという、あってはならない方法でコストダウンを図る企業が出てきてもおかしくはありません」 人手不足による悪影響はすでに顕在化しているという。 「私たちは定期的に第三者として工事の検査を行っていますが、すでに大小含めて8割以上の確率で何かしらの不具合が生じています。 この割合は年々上がっており、今後も上昇が予想されます。現状を改善しない限り、住宅のクオリティ低下に歯止めをかけるのは難しいでしょう」 住宅のステルス値上げの裏には、根深い問題が潜在した。 【ホームインスペクター 田村 啓氏】 さくら事務所に所属。住宅診断士として