新築住宅の着工数は今後も減少していく 人口減少と世帯構成の変化がもたらす住宅市場の未来

 2020年国勢調査によれば、人口減少にもかかわらず、世帯総数は増加傾向にある。「一人暮らし世帯」が大きく膨らんでいるためだ。逆に、「夫婦と子ども世帯」や「3世代世帯」はますます減少していく。その結果、進行しているのが「新築住宅」の減少だ。こうした変化は日本社会にどんな影響を及ぼすのか? 人口減少問題の第一人者で、最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』が話題のジャーナリスト・河合雅司氏が解説する【前後編の前編。後編を読む】 【グラフ解説】「持ち家」住宅は2年連続で1割超も減少

 * * *  新設住宅の着工戸数が減少を続けている。  国土交通省の「建築着工統計調査報告」によれば、2023年は前年比4.6%減の81万9623戸だ。2001年以降の最多だった2006年(129万391戸)と比べて36.5%少なくなった。  中でも落ち込みが目立つのが「持ち家」だ。2023年は前年より2万8935戸少ない22万4352戸だった。2022年、2023年と2年連続での前年比11%台の落ち込みである。 「持ち家」と「分譲住宅」を合計した「広義の持ち家」で見ても、2023年は「分譲住宅」が前年比3.6%減の24万6299戸なので、合計47万651戸だ。2006年の73万7700戸と比べると36.2%少ない。  一方、「賃貸」も減少はしているが、減り方は小さい。2023年は前年比0.3%減の34万3894戸だ。2022年は7.4%増となっており、新築の着工件数だけで見れば「賃貸」需要が大きくなっている。  なぜ、住宅の新規着工数は長期下落傾向をたどっているのか。背景の1つに住宅性能の向上がある。国土交通省によれば2000年代前半以降、解体された住宅の平均築後年数が伸びている。建物としての寿命が延びたとことで、持ち家の建て替えや、老朽化した賃貸住宅に住む人が新しい物件へと引っ越すニーズが縮小しているのである。  だが、住宅性能の向上よりもさらに深刻な要因がある。少子高齢化を伴いながら進む人口減少の影響だ。世帯構成の変化が新設住宅の着工戸数を押し下げているのである。

増加する「一人暮らし世帯」は以前より持ち家率が低下

 2020年国勢調査によれば、人口減少にもかかわらず、世帯総数は増加傾向にある。だが、その要因は「一人暮らし世帯」の増加だ。2005年には全世帯に占める割合は29.5%(1446万世帯)だったが、2020年は38.1%(2115万世帯)にまで膨らんだ。  反対に、「夫婦と子ども世帯」は29.8%(1463万世帯)から25.1%(1395万世帯)へと減ってしまっているのである。実数にすると、この間68万2269世帯減少した。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)によれば、「3世代世帯」も1995年の524万世帯から2020年には234万世帯へと半数以下となっている。  過去の住宅購入の傾向を分析すると、持ち家住宅への志向が強いのは「夫婦と子ども世帯」や「3世代世帯」だ。  内閣府が、1990年代のバブル経済崩壊後の25年間(1993 年~2018年)の総世帯における世帯主の年齢別持ち家率をまとめているが、30代は7.1ポイント、40 代は9.5ポイント低下している。  この年代の世帯構成別持ち家率を見ると、「二人以上世帯」はほぼ横ばい傾向にあるが、一人暮らし世帯は30代、40 代ともそもそも低調ではあるが、2003年以降はさらに低下傾向をたどっている。要するに、「二人以上世帯」と比べて持ち家率が低い一人暮らし世帯が増大しているだけでなく、一人暮らし世帯は以前よりも持ち家を取得しなくなっているということだ。  一般的に40代までの年齢層は結婚や出産・子育てをきっかけとして、50代以上では老後の備えとして、それぞれ持ち家を取得する人が多いが、婚姻件数は長期下落を続け、全体としての持ち家率の低下につながっているのである。

世帯数の減少だけにとどまらない人口減少の影響

 今後の世帯構成を展望すると、新設住宅の着工戸数はさらに減り続けそうだ。  社人研の推計によれば、世帯総数は2030年の5773万世帯でピークを迎えるが、一人暮らし世帯は2050年には44.3%にまで増える。一方で「夫婦と子ども世帯」は21.5%に減ると予測している。  これを世帯数に置き換えると、2020年よりも増加するのは一人暮らし世帯だけである。2020年の2115万世帯から2036年には338万多い2453万世帯にまで増加する。その後は減少に転じ、2050年は2330万世帯と見込んでいる。これに対し、「夫婦と子ども世帯」は1401万世帯から1130万世帯に減少する見通しだ。  人口減少の影響はこれにとどまらない。  住宅を購入する場合、ローンを借りる人が大半だ。月々の返済額を考慮してできる限り手持ち金で頭金を多く支払い、借入額を少なくしようとするのが一般的である。年功序列型賃金が根強く残っている日本において、30~40代で十分な住宅資金を蓄えることはかなり難しい。  そうでなくとも、国民負担率は上昇を続けている。最近は急激な物価上昇もあって賃金が上昇しても生活が苦しくなっている人が少なくない。建築材料費や建築作業員の賃金上昇、大都市のマンションなどへの投機マネーの流入の余波で住宅費が全体的に高騰しやすい状況ともなっている。  こうした状況下で、頼りにしたいのが親からの金銭支援だが、それもままならないのが現実だろう。 (後編に続く) 【プロフィール】 河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)など著書多数。最新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)では、「今後100年で日本人人口が8割減少する」という“不都合な現実”を指摘した上で、人口減少を前提とした社会への作り替えを提言している。

タイトルとURLをコピーしました