新聞「部数も広告収入も激減」の苦境…税金頼みの危うい実態

部数も広告費も「激減」の末に

 「え!  1300万円の中面全面広告、たったの10分の1で受注したんですか……!?」

新聞部数が222万部減、「本当の危機」がやってきた

 最近、ある全国紙の広告営業部門で交わされた、新聞の「紙面広告ダンピング」についての会話だ。

 日本新聞協会によると、2018年の新聞発行部数(10月時点まで)は3990万1576部と17年から約220万部も減少。14年連続の減少で4000万部を割り込んだ。1世帯当たりに換算すると0.7部しかとっていないことになる。

 読者層の高齢化も深刻で、新聞を主な情報源としてきた60代以上が購読者の大部分を占めるため、50代以下の現役世代となると、いまや購読していない世帯の方が多数派になるとみられる。

 前述した「広告ダンピング」の背景には、この発行部数・購読者数の減少がある。昨年度の新聞広告費は4784億円と、年間1兆円を超えていた2005年と比べて半分以下に。一方インターネット広告費は1兆7589億円に達し、もはやメディアの構造転換は決定的となった。

 かねて、新聞社側が販売店に本来必要な部数よりも多めに売りつける「押し紙」が問題視されてきたが、近年では少しでも発行部数を嵩増ししようと、ファミレスやホテルなどに無料か無料同然の価格で営業をかけるパターンも増えている。

 新聞の紙面広告で、スポンサーに要求できる価格の根拠は、いうまでもなく発行部数である。部数を水増しするための「涙ぐましい努力」に励んでいるにもかかわらず、それでもダンピングしないと、いまや新聞は広告クライアントが付かない状態なのだ。

 ある全国紙社員はこう嘆く。

 「読者の減少には勝てないということです。読者が減れば必然的に発行部数が減る。発行部数が減れば広告価値が下がって、必然的に発注主も減る。負のスパイラルですね。

 全国紙は今や、各社とも不動産収入やグループ会社のテレビ局の収益など、新聞事業以外の収入が経営を支えている状況です。もっとも、事業多角化については各種各様で、『発行部数最多』を誇る読売新聞は、残った紙の読者を囲い込む戦略をとっています。

 日本ABC協会の調べによると、18年11月時点で読売新聞が朝日と毎日の合計部数を抜きました。近年、読売は地方紙のシェアも奪いに行っており、業界内のガリバーとして君臨する気です。新入社員向けの挨拶でも、幹部が『ウチは紙でいく! 』と宣言していたそうですから、当面この方針を踏襲することでしょう。

 一方で朝日は、主な新聞購読者である40代以上をターゲットにした『Meeting Terrace』という『出会い提供ビジネス』を開始し、一部から批判を受けるなど若干迷走気味。毎日新聞は他の新聞と印刷受託契約を結ぶなど、背に腹は替えられないという切実さが窺えます」

選挙広告の原資は「税金」

 新聞と新聞広告を取り巻く現状が厳しいことはよくわかったが、選挙広告が新聞社にとっての「草刈り場」になってきたことは、一般にはあまり知られていない。

 国政選挙の各立候補者は、2段・幅9.6cmの広告を、選挙区内で発行されている任意の新聞に5回掲載できる。東京なら、朝日、読売、毎日、産経、東京の5紙に出すという形だ。比例代表選挙の名簿届け出政党の場合は、候補者が25人以上のならば44段までの広告を全額「公費」で掲載できる。

 この場合の広告費は法律で決められておらず、各新聞社の「定価」で支払われる。定価は各社異なるが、100~250万円程度の幅と言われる。

 例えば、東京選挙区の立候補者が40人いて、候補者広告の1回あたりの料金が250万円だった場合、全員がある新聞社に5回広告を出したとすると、250万円×40人×5回=5億円の税金がその社に支払われることになるのである。

 今回の参院選は全国で370人の立候補者がいるため、単純計算で、支払額は全体でおよそ46億円となるが、地域ごとに広告費用が変わるため、「参院選での新聞広告への総支払額は、例年20億円以下に収まる」(全国紙政治部記者)。

 国政選挙は1回につき総額500億円の費用がかかるため、小さな話のように思えるが、新聞社の側からすれば、選挙のたびに「真水の20億円」が懐に入るのは、貴重な財源には違いない。

 朝日新聞社を例にとると、2019年3月期連結決算は売上高3750億円、本業の儲けを示す営業利益が89億1000万円、経常利益が160億3400万円。新聞事業による利益が全利益の半分程度となる中で、少しでも多くの広告費を取り込みたいのが本音だろう。立候補者の広告掲載権を巡って、公示日前から自社の論調と近い候補者にアプローチをかけ、自社に掲載してもらうように依頼する──そんな争奪戦も繰り広げられるという。新聞が「軽減税率」で捨てたもの

 中央官庁や自治体などの各種イベントによる広告も、新聞社にとっては重要な収入源となる。各地のお祭りの広告などのほか、例えば毎日新聞は警察庁と警視庁の協力により、各国の主要都市で世界の警察音楽隊を集めてパレードやコンサートを行う「世界のお巡りさんコンサート」を主催するなどして、「税金による収入」を確保している。

 こうした現状について、毎日新聞のあるベテラン記者はこう話す。

 「新聞社には国や地域の発展に寄与するという役割もありますから、中央官庁との合同イベントを開くこと自体は悪いことではないと思います。ただ、国家権力そのものといっていい警察主催のイベントで収入を得ることが常態化してしまうことには、不安もぬぐえません。

 かつて、ある地方紙が警察の不祥事を大々的に報じた際には、警察だけでなく、同紙の営業サイドから記者や編集側に圧力がかかったと聞いています。タテマエ上は『編集と営業は別』と言いますが、各紙経営状態が悪化する中でどこまで突っ張れるか。

 バリバリの反権力志向の記者より、権力に近い政治部出身か、営業的なセンスがある人を幹部にする傾向も出ている。最近、安倍総理と会食して喜ぶような新聞社の幹部が増えているのもその証拠でしょう。

 軽減税率の対象に新聞が『文化事業』であるという理由で入りましたが、いざという時、官邸から『軽減税率の貸しを返せ』とでも言われたら……部数減少に歯止めがかからない中で、営業利益に占める税金の割合が高まれば、政治からの圧力は一層効くようになるでしょう」

特ダネはもういらない

 新聞社内部では、記者は営業系の社員から「世間知らず」と揶揄され嫌われてきた面がある。営業が苦労してとってきた広告契約を、一本の記事でつぶされたらたまったものではないからだ。かつてのように紙の新聞が会社を支えているなら、「新聞社は記者のもの」と堂々と言えるが、今はむしろ「特ダネ記者よりも企画力のある営業社員が欲しい」(全国紙幹部)時代になった。

 つまるところ、「報道」や「ジャーナリズム」は所詮、余裕の産物であるということだ。いくら「権力の監視」と息巻いても、安定した収益基盤がなければ、取材もままならない。基盤を失った新聞社は、なりふり構わぬ営利の追求と生き残りに走るようになる。全国紙社会部記者はこう話す。

 「今の新聞社の体力だと、情報公開請求などで独自にファクトを集めて記事にする仕事を継続できているのは、事実上、朝日と読売くらいです。50万円分も請求を出して、政治家の領収書や公文書を隅から隅まで読んで、それでも何の不正も見つからない、ということが当たり前の世界ですから、マンパワーと資金が必要になる。時たま優秀な記者はいても、個人でやれることには限界もあります。

 週刊誌がスキャンダルの発信源になり、新聞やテレビはそれを追っかければいいという安易な流れが定着しつつある。まして、地方では社会面を埋めるのはほとんど警察発表ですから、警察批判でもしようものなら、紙面組みに支障が生じることもありえます。取材先との関係を潰してでもネタを取ろうという記者は、もう多くはないでしょう」

 7月初めには、毎日新聞が200人規模の早期退職を募集すると報じられた。ほぼ同時に、損保ジャパンは4000人規模の配置転換を発表し波紋を呼んだが、これらの事例から言えるのは、昭和に確立された「会社員」というシステムが本格的に消滅し始めたということだ。

 いずれも大手とはいえ、業界トップではない。体力の乏しい順に、「能力の低い社員も、一生養うのがあるべき企業」という理念に基づく仕組みが維持できなくなってきた。この流れは、倒産に追い込まれる大手が出るまで止まらない。

既得権益化する新聞社

 新聞業界について言うなら、筆者は新聞社や通信社がつぶれようが一向にかまわないと思う。読者にとって重要なのはニュースそのものであり、つまらないものしか出せない組織は退場すべきだからだ。

 部数減少の根本的理由は、「権力を監視する」とうそぶく新聞社自身が、経営努力も読者を楽しませる努力もせず、既得権益の上にふんぞり返っているだけだと見透かされていることだろう。

 当局の発表を他社より早く報じることが「至上命題」であった昭和の新聞社のやり方では、横並びの平凡な記事が量産されるだけである。そのような仕事を繰り返してきただけの記者が、長じてこれまた平凡な論説を書いたところで、読者の支持など得られようはずがない。

 まだ玉石混淆ではあるが、報道の舞台は確実にネットメディアなどへと移り始めている。アメリカのように、記者が個人の名前で写真や映像も駆使して自由に闘う時代が日本に訪れるのは、まだ先のことかもしれない。しかし、時代に適応できない者から淘汰されるのだ。大新聞で燻る優秀な記者こそ、座して死を待つべきではない。

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