旅行会社、急速な「不要化」で存在意義低下

旅行代理店業界は、オンライン系が店舗系を駆逐する勢いで伸びている。観光庁によると2016年度(16年4月~17年3月)の主要49旅行会社の総取扱高は、前年度比2.3%減の5兆5656億円。訪日外国人旅行は14.0%増えたが、国内旅行は熊本地震の影響で3.1%減、海外旅行はテロに対する警戒感から2.4%減となった。

会社別の取扱高では、最大手のJTBが5.9%減と大きく落ち込んだ。反対にエイチ・アイ・エス(HIS)は2.5%増と明暗を分けた。日本発の海外旅行取扱高で17年2月には、HISグループがJTBグループを抜き旅行業界首位に立った。2月はHISが強い学生の海外旅行の季節である。

近年の特徴は、インターネット予約が拡大している点にある。国内オンライン系の楽天トラベルは2.5%増えた。とりわけ国内取扱高は9.7%増で、取扱額はJTBに次いで第2位。DeNAトラベルも取扱高は16.1%増と高い伸び率を示している。

この統計にはカウントされていないが、日本で事業展開している海外オンライン系は、世界大手、米エクスペディアや米プライスライン・グループなどがある。旅行代理店は手数料が主な収入源で、人件費比率が高い店舗型はどうしても利益率が低くなり、オンライン系に押され気味だ。

●JTBは国内旅行、海外旅行、訪日旅行とも減収

JTBグループの国内旅行の取扱シェアは30.2%。2位の楽天(15.4%)が追い上げてきている。JTBの海外旅行の取扱シェアは24.3%で、HIS(17.4%)が迫っている(シェアは「日経業界地図」<日本経済新聞社2018年版>)。旅行業界の王者、JTBの屋台骨が揺らいできた。

非上場を貫いてきたJTBの17年4~9月期の連結決算の売上高は前年同期比0.3%増の6578億円、営業利益が58.7%増の72億円、純利益は77.3%増の66億円。前年同期は個人旅行の不振で大幅な減収減益だったが、2期ぶりに増収増益となった。

しかし、主力の旅行業のうち国内旅行、海外旅行、訪日旅行はいずれも減収。国内旅行は0.5%減の3034億円、海外旅行は3.1%減の2266億円、訪日旅行は1.2%減の369億円だった。この期間における全訪日旅行者数は19.9%増と急増しているのに、JTBの訪日旅行は初めて前年実績を下回った。団体の手配を頼んでくる中国や台湾の旅行会社は低価格の志向が強く、こうした会社から受注が減ったためだ。

好調だったのは、外国人の外国旅行を扱うグローバル旅行。売上高は40.5%増の352億円となり、訪日旅行と肩を並べるまでに急拡大した。ハワイ旅行の商品を強化するため、ハワイの旅行会社MC&A社を買収した効果が表れた。同社はMICEと呼ばれる各種会議・イベントや法人向け報奨旅行に強みを持つ。

この10年あまりの間にネットを介して予約を募るオンライン系旅行会社が台頭してきた。楽天トラベルを運営する楽天や、米エクスペディアなどとの顧客の奪い合いは激しさを増している。

JTBは経営資源をオンライン系に集中することで対抗する。JTB北海道、JTB首都圏、JTB西日本など06年4月に分社化した地域会社のほか、JTBワールドバケーションズ、JTB国内旅行企画など計15社を18年4月、本社に集約する計画だ。統合後は国内個人、国内法人、グローバルの3事業ユニットを置く。オンライン予約を強化するが、訪日旅行、グローバル旅行をどこまで伸ばせるかが成長のカギを握る。

JTBは18年1月、社名をジェイティービーからブランド名のJTBに変更した。女子大生が就職したい企業人気ナンバーワンのJTBは今年、“第2の創業”を迎えるが、その前途は決して平坦ではない。

●HISはロボットホテルを世界に100店展開

HISの17年10月期連結決算は、売上高は前期比15.7%増の6060億円、営業利益は11.5%増の159億円、純利益は49倍の132億円だった。為替差益22億円を計上した。

旅行事業が15.3%増の5368億円、営業利益が9.5%増の99億円。海外で相次いだテロなどの影響で低迷していた主力の海外旅行が回復した。カナダの旅行会社、メリットホールディングスや海外旅行の現地手配を手がける香港のグループ・ミキ・ホールディングスなどを買収した効果が出た。海外旅行は北朝鮮のミサイルの影響などでグアムが弱含みだが、利益率が比較的高いヨーロッパ方面などが伸びた。

レジャー施設を運営する子会社、ハウステンボス(HTB)グループの売上高は15.4%増の367億円、営業利益は2.7%増の76億円。前半に熊本地震の影響が残り、年間入場者数は288万人と横ばいにとどまった。

HTBグループの2ケタ成長の原動力となったのは、ロボットホテル「変なホテル」とエナジー(電気の小売り)事業。「変なホテル」もエナジー事業も、ハウステンボスの広大な土地を利用し、実証実験を繰り返して生まれたものだ。

「変なホテル」は成長の手応えを得た。恐竜型ロボットが受け付けをし、清掃や窓拭きもロボットが行う。100室規模のホテルでも社員2人、パート5人で運営する。営業利益率は50%になるというローコストのホテルだ。

HTBグループの営業利益は、HIS本体の海外事業のそれに匹敵する。HISの売上高営業利益は20.9%。低収益の旅行事業のそれは1.8%。HTBは、いまやHIS本体を支えるまでに成長した。

HISの18年10月期通期の売上高は前期比21.3%増の735億円、営業利益は13.1%増の180億円を見込む。前期に為替差益を計上した反動が出るため、純利益は24.6%減の100億円を予想していた。ところが、子会社が所有するウォーターマークホテル札幌を3月に36億円で売却する計画で特別利益として計上するため純利益は従来予想を18億円上回り118億円に上方修正した。

収益性の高い物件の売却で得た資金を元手に新たな「変なホテル」を開業する。

都内初の「変なホテル」を17年12月15日、江戸川区の地下鉄葛西駅近くに開業した。11階建てで100室あり、7人で運営する。料金は大人1人1泊6000円から。

「変なホテル」はハウステンボスのようにリゾート地に立地し、ロボット大好きな子ども連れのファミリー層に人気を得た。だが、都心のロボットホテルが、出張に利用するビジネスパーソンに支持されるか。葛西が最初の試金石となる。

HTBの澤田秀雄社長は17年12月4日、HTBの決算発表の席上、「(社長を)3年以内にバトンタッチしたい」と、退任時期を明らかにした。今後は、自身が会長兼社長CEO(最高経営責任者)を務めるHISの経営に注力して、連結売上高1兆円を目指すという。

澤田氏は次の成長を新たな起業に託す。「変なホテル」を世界に100軒つくる計画だ。また、変なホテルの新版として球形の移動式ホテルに挑戦する。さらに、東京・渋谷にロボットカフェを開く計画も立てている。

HISの快進撃は今年も止まりそうにない。
(文=編集部)

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