旅行業界ガリバーJTBの窮地 「Go To」では“戦犯”扱い、東京五輪も逆風に

就活人気ランキング1位、全国店舗数約900店……。かつて日本の観光業を牽引した旅行会社最大手のJTBがコロナ禍で苦境に立たされている。

 2021年3月期の連結決算は、売上高が1兆2886億円だった前年から71.1%減の3721億円に激減し、最終損益は過去最大となる1051億円の赤字に。部門別に見ると、国内旅行が前年比66.4%減、海外旅行にいたっては前年比94.9%減という惨憺たる数字だった。借入金も過去最多の1076億円にのぼっている。

 コロナ禍にあっては政治の動きにも翻弄された。昨年7月に菅義偉・官房長官(当時)と二階俊博・幹事長の肝煎り政策としてスタートしたのが国内旅行代金の最大50%が補助される「Go Toトラベル」だったが、その恩恵も、ごく一時的なものだった。

「観光庁から旅行会社に割り当てられた給付金枠は2019年の国内旅行取扱額をベースに配分されたため、JTBへの配分枠が一番多かった。瞬間的ではありましたが、追い風になったことは間違いありません」(航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏)

 しかし、「Go Toトラベル」が感染の再拡大につながるなどの批判を受け、政府の方針は二転三転。昨年12月には一時停止に追い込まれた。むしろ、「旅行業界」そのものが感染拡大の“戦犯”扱いをされる結果となった印象も強い。

「コロナに打ち勝った証」(当時の安倍晋三首相)となるはずだった今夏の東京五輪も、直前になって無観客に決定。旅行業界にとってはチャンスどころか大きな逆風になった。

「JTBは業界最大手かつ東京五輪・パラリンピックのオフィシャルパートナーとして、大きな特需、利益を見込んでいた。ところが無観客となったため、チケット付きツアー代金は払い戻しを余儀なくされた。そのうえキャンセル料や事務経費などが、旅行会社の負担になるケースもある。総額は不明ですが、相当額の損失が発生した可能性が高い」(前出・鳥海氏)

 元社長の舩山龍二氏(社長在任期間:1996~2002年)は、政府の対応を複雑な思いで見つめているようだ。

「僕が現職の社長だったら政府に対して少し何かを言うでしょうね」と苦い表情を浮かべ、コロナ対策についてはこう述べた。

「日本政府は経済を動かすための具体的な政策は何もやっていないわけですよね。アメリカなんかはワクチンを打った後は経済をなんとかしようとやっていますけど、日本の場合は非常に慎重。もちろんその理由も分からないわけではないですが、それにしても非常に論理的じゃないと感じています」

 苦境に立たされるなかでトラブルにも直面している。

 JTBは五輪観戦と高級料理などの提供がパッケージになった「東京2020オリンピック公式ホスピタリティ パッケージ」という高額な“高付加価値チケット”を販売していたが、このチケットの払い戻しを巡って、購入者からは批判の声があがっている。

 66万円のチケットを購入したという会社経営者が憤る。

「個人向けの一般チケットは全部キャンセル料なしで払い戻されているのに、このチケットについては“コンサルティングフィー”の10%分は払い戻しできないというんです。でも、同じJTBの支店で同じチケットを買った友人2人に聞くと、全額返金されたと。なぜ相手によって対応が違うのか」

 この問題についてJTB広報室は「お客様との個々の契約になるため、回答は差し控える」と答えるのみだった。

※週刊ポスト2021年10月8日号

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