日テレ土屋氏 テレビ離れでも「視聴率30%」取る方法

テレビ史に燦然(さんぜん)と輝く名バラエティー『進め!電波少年』(92~03年、日本テレビ系 ※1)のプロデューサーであり、数々の無名芸人を大スターへ押し上げた“T部長”こと土屋敏男氏。20年前、代表企画になった猿岩石の「ユーラシア大陸横断ヒッチハイク」で番組は全盛期を迎え、最高視聴率30.4%を記録した。企画や演出面において影響を受けた作り手は数知れず。テレビの潮流を変えた土屋氏に映ったこの20年の変化とは。

「『電波少年』は、松本明子と松村邦洋という、当時まだ二線級だったタレントを起用したアポなし企画から、ヒッチハイク企画でドキュメント系へと移行しました。96年頃は、“スターがテレビを作る”時代から、猿岩石のブレイクを機に“テレビがスターを作る”という大胆な仮説が証明された転換期だったと思います。

一方で、視聴者が“タレント”と“企画”を一緒くたに考えるようになった節目でもあると感じていて。猿岩石のヒッチハイクは、猿岩石が面白かったわけではなく、普通の若者である彼らが異国を旅することがウケた。でも世の中は『猿岩石が面白い』ということになる。帰国後、彼らは引っ張りだこになったわけですが、しばらくすると案の定『猿岩石ってつまらない』と気が付く。ヒッチハイクをしている姿が面白かったんですから当たり前ですよ!(笑)

その逆もしかりで、例えば今なら『フルタチさん』(フジ系)の視聴率が振るわないと、『古舘さんはつまらない』と世は解釈するんです。それは間違いなのに、テレビ業界の人間ですらそう認識している。”タレント”と”企画・演出”は別物であり、双方がきちんと掛け算になってないと見てもらえないと分かっているはずなのに。テレビはこの20年間、不可思議なロジックから抜け出せていないんですよ」

■黒船到来でテレビが変わる

 そんな歳月の中で土屋氏は05年、インターネット動画配信サービス「第2日本テレビ」の責任者に。国内外でHuluやNetflixなどの映像ストリーミング配信会社が勢いを増す現在の状況はどう見ているのだろうか。

「第2日本テレビでインターネットとテレビの融合を考えたものの、制作費が地上波の10分の1以下という状況もあり、赤字が続きました。新しいコンテンツの見せ方を模索しましたが、結局は地上波の廉価版にしかならない。ところがHuluやNetflixは資本力を見た時に、『黒船が来た!』って思いましたね(笑)。ユーチューバーがテレビ局と同じ土俵で戦えないように、HuluやNetflix、Amazonは今までの相手と全く違うんです。Jリーグと10年間の巨額の放映権契約を締結したDAZNなんかは分かりやすい例です」

※1…『進ぬ!電波少年』『電波少年に毛が生えた 最後の聖戦』含む。

その上で、Huluの日本事業を譲り受ける日本テレビには「大きなチャンスがある」と語る。

「オリジナルコンテンツを作る工場を持つことはもちろん、200カ国以上に発信して、各国の特性を踏まえて値段やコンテンツを変えて発信したり、テレビと全く異なるビジネスモデルを学ぶいい機会ですからね。国内向けの番組を作る現行のテレビ局の在り方から、プラットフォームとして国内外に映像ストリーミングを配信できるようになった時、初めて日本のテレビ局はパラダイムシフトを迎えるのではと思います」

■『イッテQ』が高視聴率をとれるワケ

 一方で私たちはこの20年の中、「テレビ離れ」という言葉をどれほど耳にしたことだろうか。テレビの存在感は希薄になるばかりだ。

「みんなが見たいものを提供するのがテレビ。でも、今の世の中は、みんなの中にある“みんな感”が薄くなっていると思うんです。SNSやネットは自分の好きなことや興味のあることばかりを選択できるから、どうしてもみんなが分かる共通項がすり減っていく。

そういった意識にテレビも追従して、F1層、M2層…という具合に区切って番組を作る。『テレビがつまらなくなった』という人は、テレビが想定している“みんな”の中に含まれていないだけなんですよ。僕なんかは民放が想定している“みんな”の中にほとんど入らないから、見るものがないですもん(笑)。

でも『イッテQ』の古立(善之、総合演出 ※2)が作る番組を見ていると、“みんな感”を感じる瞬間はある。だから、世の中にはみんなが面白がれるものはもうないのかって言われると、決してそんなこともないんですよ。

やっぱりテレビでしか見られないものを作らないと。『電波少年』は、リアルに怒られたり喜んだりする予定調和ではない姿に視聴者が釘付けになった。『なんだこれ!?』というものを提示すると潜在的に眠っているニーズを掘り起こすことができるんです。もちろん、最初は拒否反応がありますよ。ヒッチハイク企画も最初の1カ月半くらいは、『アポなし企画を復活しろ!』というクレームが多かった。ところが、見方が分かってくるとそれがプラスの反響に変わってきますから」
※2…日本テレビ制作局バラエティ総合演出。97年入社。『スーパーJOCKEY』ADから『進ぬ! 電波少年』でディレクター、現在は『世界の果てまでイッテQ!』『月曜から夜ふかし』などの企画、演出。編集の面白さに定評。

ただ、業界全体を見渡すと、拒否反応やコンプライアンスの比重は大きくなるばかりだ。クリエーティブに関して窮屈な時代になったことは否めない。

「クレームが来て困るんだったら、その番組をやめればいいんです。僕は『だったら今週で『電波少年』やめればいいじゃん』って思ってた。嫌なサラリーマンだったかもしれないけど(笑)、ものを作るってそういうことだから。

でも、裏付けとなる数字があるとやめられない。作りたいものを作って、納得させるだけの数字を取る。そこまでが番組作りのセット。そう考えると、自主規制をするということは、限りなくヒットの可能性が薄くなるということなんです。『数字を取らないと』という保身の気持ちも分かるけど、そもそも視聴率なんて30%取らないと視聴率とは言わない。僕も2回しか取ったことないけど(笑)。

バラエティーでコンスタントに25%を取れたら、テレビは巻き返していけるんじゃないかな。30%を超えるドラマがまだあるんだから、バラエティーもできると思う。

『いつまでも土屋、エラそうに言ってんじゃねぇよ』でいいんですよ。僕は先輩たちから『テレビにもう新しいものはない』とさんざん言われて、『お前たちが見つけてないだけだろ』と思ってたから(笑)。彼らは初めて目にするものに対して、『こんなもんテレビじゃない!』と怒鳴りました。でも結果、それが新しいテレビの形になった。だから現場にいる人たちは、今までのテレビマンが理解できないことをどんどんやってほしい」

■ライバルはスピルバーグ

 そういう土屋氏は現在、着々と進めている作業がある。世界初となるVRドラマの制作だ。

「まだ社内発表もしてないから詳細は明かせませんけど、16年のカンヌ映画祭で(スティーブン)スピルバーグが『VRは画を決められないから危険だ』って言ったんですよ。で、スピルバーグが『ない』って言うんだったら、俺的には『あるな』と。そこで面白いコンテンツができれば、スピルバーグに勝てることにもなるし(笑)。

思えば『電波少年』の時は、ビデオカメラが進化していた時代だったから、ディレクターにハンディカムのHi8を持たせて番組をディレクションさせたんですよね。“下手なカメラマンが撮るよりディレクターが撮ったほうがいい”“大人数で移動しなくて済む”という、それまであったステップを2つくらい飛び越えられたことでヒッチハイク企画にたどり着いたこともあって。でも『こんな画質で放送できるわけないだろう!』ってすごく怒られました(笑)。僕は『写ってるんだから別にいいじゃないですか。泣いているのも、喜んでいるのも分かりますよ?』って反論してましたけど。僕が新しいもの好きというのもあるけど、技術革新によって新しいテレビの形が表現できる可能性ってすごくあると思います。

今度、倉本聰さんが連ドラを書くじゃないですか(※3)。完全に高齢者を意識した内容だけど、『実はティーンを狙ってる』って気概を持ってたりしないかなぁって思うんですよ(笑)。よこしまな思いというか、作り手のエゴってあったほうがいい。そういう人じゃないと作れないものって絶対あるし、面白くなんてならないから」

※3…『やすらぎの郷』往年の俳優やミュージシャン、作家などが集う老人ホームを舞台に、かつてのスターたちの悲喜こもごもが描かれる。主演・石坂浩二(テレビ朝日系で放送中、月~金曜12時30分~12時50分)

(ライター 我妻弘崇)

[日経エンタテインメント! 2017年4月号の記事を再構成]

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