日テレ「続きはHuluで」に大失望する視聴者心理 高視聴率、ビジネス成立でもブランドにリスク

9月21日に放送された「ボイス 110緊急指令室」(日本テレビ系)の最終話は、スリリングなシーンの連続で視聴者を引きつけて、12.9%の高視聴率(ビデオリサーチ、関東地区)を記録したほか、「面白かった」「終わってしまって寂しい」などの支持を集めました。

 しかしその後、最終話から1カ月後を描いたオリジナルストーリー「ボイス 110緊急指令室 CALL BLACK」が動画配信サービス・Huluで配信されることがわかると、ムードは一変。「また日テレの“続きはHuluで”か!」という批判がネット上に飛び交う事態となりました。

「あなたの番です」も「続きはHuluで」

 「またか!」と言われてしまったのは、「考察合戦」という新たな楽しみ方で前代未聞の盛り上がりを見せ、9月8日に終了した「あなたの番です」(日本テレビ系)でも同様の「続きはHuluで」があったから。連続殺人事件の黒幕だった黒島沙和(西野七瀬)の過去を描いた「扉の向こう番外編 過去の扉」をHuluで配信することが発表された瞬間、ネット上には「裏切られた」「視聴者をバカにしている」などの批判があふれたのです。

 視聴者にとって根が深いのは、「あなたの番です」の前に放送されていた「3年A組 -今から皆さんは、人質です-」も、最終話の後にHuluオリジナルの「3年A組 –今から皆さんだけの、卒業式です-」が配信されたこと。

 日本テレビの「日曜ドラマ」は2018年にも、「トドメの接吻(キス)」では「トドメのパラレル」、「崖っぷちホテル!」では「崖っぷちホテル!~本日のお客様は、宇海直哉様~」、「ゼロ 一獲千金ゲーム」では「ゼロ エピソードZERO」、「今日から俺は!!」では「今日から俺は!! 未公開シーン復活版」というHuluオリジナルコンテンツを配信しました。

 さらに極めつけは、2017年放送の「愛してたって、秘密はある。」。最終話の終了直後に「本当の解決編はHuluで」と発表して猛批判を浴びてしまったという過去があるのです。

 なぜ日本テレビは何度も批判を受けてなお、「続きはHuluで」を繰り返しているのでしょうか?

 Hulu日本版を運営しているHJホールディングスは、2014年に日本テレビグループの傘下に加わり、以降は同局関連のコンテンツが充実。とくに視聴者の思い入れが強いドラマ関連のコンテンツが主力となっています。

 日本テレビだけでなくテレビ業界全体が、広告収入への不安を抱え、それ以外でどう収益化するかが共通の課題となっていました。地上波の放送による広告収入を大黒柱にしたビジネスモデルでは先細りなのは誰の目にも明白であり、ほとんどのテレビ局が「どうマネタイズしていくか?」を真剣に考えています。

 Huluは、玉山鉄二さんと佐々木希さんらが出演した「雨が降ると君は優しい」、竹内結子さんと貫地谷しほりさんらが出演した「ミス・シャーロック/Miss Sherlock」など、力の入ったオリジナルドラマも配信してきましたが、それだけでは多くの新規顧客を誘引し、有料会員数を増やすことにはつながりません。

 その意味で「日曜ドラマ」を絡めたHuluオリジナルコンテンツは、日本テレビ傘下であるメリットを生かした最大かつ即効性の高い方法。日本テレビが放送しているドラマの中でも、ネットとの接触時間が長い若年層にリーチしている「日曜ドラマ」(日曜22時30分~)の作品は、企画の段階から「Huluでどんなコンテンツを配信するか」を考えているそうです。

「アプリ内課金あり」のような事前告知がない

 つまり、課金アリの無料アプリと似た戦略なのですが、日本テレビとHuluには、インストール画面における「アプリ内課金アリ」という表示に該当する事前告知がないため、「だまされた」と感じる視聴者がいるのでしょう。事実、批判の中には「最初から“続きはHuluで”があると言わないのはずるい」という声が少なくありませんでした。

 しかも数カ月間、無料でドラマに熱中させた揚げ句、最終話の終了直後に「この続きは(有料の)Huluで」という後出しじゃんけんの形になった「ボイス」「あなたの番です」「3年A組」「愛してたって、秘密はある。」への批判がヒートアップしたのは必然であり、確信犯と言っても過言ではないでしょう。

 日本テレビとHuluにしてみれば、「地上波のドラマは完結させた。Huluはあくまで別の物語」であり、「だから見なくても問題ないはずですが、見てもらえたらもっと楽しめますよ」というスタンスであり、ビジネスとしては成立しています。しかし、数カ月間思い入れを持ってドラマを見続けた視聴者の感情を翻弄していることに対して、日本テレビとHuluは鈍感なのかもしれません。

 現在の視聴者、とりわけ若年層は、お金を払うものと払わないものをはっきり分けて自分で選び、逆に「選ぶかどうか迷わせる」ものに嫌悪感を覚える傾向があります。その点、日本テレビとHuluの戦略は、目先の地上波視聴率やHuluの有料会員数を取れても、長い目で見たらマイナスブランディングである可能性が高いでしょう。

 ちなみに、地上波のドラマが最終話の後に映画化を発表したときも同様の批判が飛び交いますが、「続きはHuluで」ほどではないのは、映画が「2000円弱ものお金を払い、わざわざ足を運ぶ」という嗜好性の高いものだから。「スマホで課金すればすぐに見られる」Huluは視聴者にすれば悪魔のささやきのようであり、その手軽さがストレスにつながってしまうのです。

 Hulu日本版が日本テレビグループの傘下に入ったときから「日本テレビとHuluの連携ありきのビジネス」であり、戦略を変えづらいところはあるのでしょう。しかし、「『日曜ドラマ』には何度もだまされているから、もう見ないと決めていたが、今回の『ボイス』で『土曜ドラマ』(土曜22時~)もそうしようと思った」という批判コメントが書かれ、多くの「いいね」がついている現状を甘く見ないほうがいいのではないでしょうか。

フジ月9は地上波「特別編」で称賛一色

 日本テレビとHuluが批判を集めた一方、称賛の声を集めたのがフジテレビの月9ドラマ(月曜21時~)。23日の「監察医 朝顔」最終話終了直後、30日に「監察医 朝顔 特別編~夏の終わり、そして~」という2時間スペシャルドラマの放送が発表されたのです。

 これを知った視聴者たちは、「他局だと有料アプリに誘導するものもあるから、地上波で放送してくれるフジテレビに感謝」「特別編も見たいし、その先の続編も見たいという気持ちにさせてくれる」などと喜びの声をあげていました。

 視聴者にしてみれば、「楽しみにしていたドラマが終わってしまう……」というロスを覚悟していたところに、これまでの延長線上に思わぬ楽しみを追加してくれたフジテレビに「ありがとう」と言いたくなるのでしょう。

 さらに見逃せないのは、フジテレビの月9ドラマが1クール前の「ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~」でも、最終話の翌週に2時間スペシャルドラマの「特別編」を放送して視聴者を喜ばせていたこと。最終話の終了直後に「続きは動画配信サービスや映画で」は「聞いていなかった。ずるい」という失望を与えがちですが、視聴者感情に寄り添った「続きは地上波で翌週に」はポジティブなサプライズになるのです。

 視聴者は楽しんで見ていたドラマの最終話を「今まで楽しませてくれてありがとう」という気持ちで見るところがありますが、放送直後にポジティブなサプライズをもらったことで、その気持ちを倍増させました。

 フジテレビにもFOD(フジテレビオンデマンド)という自社が運営する動画配信サービスがあり、やろうと思えば「続きはFODで」ができるはず。少なくとも、「監察医 朝顔」「ラジエーションハウス」の人気があれば、それなりの有料会員数を得ることができたでしょう。

 しかし、フジテレビは月9ドラマの関連ドラマをFODで制作・配信することはありません。「純粋なFODオリジナルドラマを制作・配信し続ける」というストイックな姿勢を貫いているのです。その理由には、制作体制などの社内事情、若手育成などの方針、地上波とFODのマーケットはさほどかぶらないなど、いくつかの理由があるようですが、視聴者の感情を翻弄するようなところは一切ありません。

 「無料のものは無料で完結させる」という一見、普通のことがなかなかできないのがビジネスシーンであり、人気作だからこそ「お金を稼げる」という欲が出るのは当然でしょう。ただ、日本テレビとHuluの戦略は、「局やドラマ枠の信頼を失ってしまう」というブランディングでのマイナス要素のほうがはるかに大きいのではないでしょうか。

放送前から疑念を持たれる「日曜ドラマ」

 「視聴率争いでトップに君臨する日本テレビだから、“今”の結果にこだわりすぎてしまう」「視聴率争いで苦戦が続くフジテレビだから、視聴者ファーストという原点に戻りやすい」という置かれた立場の差こそありますが、今回の批判と称賛は少なからず今後に何らかの影響を及ぼしていくでしょう。

 そこで気になるのが、日本テレビ「日曜ドラマ」の新作。10月スタートの「ニッポンノワール –刑事Yの反乱-」は謎を散りばめたミステリーですが、前述した「3年A組」と同じスタッフで制作されるため、放送前の段階から「また最終話の直後に『続きはHuluで』にされるのではないか」という疑念を持たれているのです。

 これまでの作品を振り返ると、日本テレビの「日曜ドラマ」は他局の他枠と比べると、原作なしのオリジナルが多いなど、制作サイドが面白いものを作るべく努力を重ねていることは間違いありません。しかし、決して少なくない人々が放送前から疑念を持っている現状は明らかに黄色信号であり、皮肉にも「ニッポンノワール」が面白く、盛り上がるほど、「続きはHuluで」が許されないムードが醸成されていくでしょう。

 日本テレビの日曜ドラマと、フジテレビの月9ドラマは、どちらも昨年から今年にかけて良作が多く視聴者の支持を集めてきただけに、それぞれ今後はどのような道をたどっていくのか。ビジネス的な視点で、その行方に注目してみてはいかがでしょうか。

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