日仏で「日産争奪戦」勃発か! 突然の“ゴーン斬り”背景に両国の確執も? ルノー、日産の完全支配を画策

カリスマ経営者が去った日産自動車をめぐり、日本とフランスの間で「争奪戦」が勃発(ぼっぱつ)するとの見方が浮上している。日産の大株主、仏ルノーに大きな影響力を持つ仏政府は過去にも、日産に対する支配権を強めようとしてきたからだ。金融商品取引法違反容疑で東京地検特捜部に逮捕された日産会長のカルロス・ゴーン容疑者(64)が、日産とルノーの「合併」を画策していたとの報道もある。突然の「ゴーン斬り」の背景には、両社の統合をめぐる日仏の確執があるのか。

《カルロス・ゴーン、逮捕前に日産-ルノーの合併を計画》

英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)は20日、こう報じた。

同紙によると、ゴーン容疑者が検討していた両社の経営統合は、数カ月以内に行われる見通しだった。これに対し、日産の取締役会は反対し、防ぐ方法を模索していたという。

ルノーはフランスを代表する自動車メーカーで、仏政府が約15%を保有する筆頭株主。そのルノーが日産株の約43%を握っているのに対し、日産の持つルノー株は約15%に過ぎない。

1990年代後半に経営危機に陥った日産は、ルノーから派遣されたゴーン容疑者の下で「V字回復」を果たした。2016年には燃費データ不正問題が発覚した三菱自動車を傘下に収め、ルノー、日産、三菱自のアライアンス(3社連合)の17年の販売台数はトヨタ自動車を抜き、世界2位に浮上した。

形式的には親会社のルノーだが、会社の規模も利益も日産が圧倒的に大きい「ねじれ現象」が起きていた。このため、仏政府は日産への支配権を強めようとしてきた。

その旗振り役の一人が、現在大統領を務めるエマニュエル・マクロン氏だった。15年に当時経済相だったマクロン氏は新法を適用し、ルノーを通じた日産への経営干渉を狙った。

仏政府としては自国産業の振興や雇用増が目的だったが、ゴーン容疑者は日産とともに抵抗。日産の企業統治や運営には介入しないことで合意した。マクロン氏は経済相当時、ゴーン容疑者の報酬を「高額過ぎる」と批判したこともあった。

確執のあった両氏の関係は今年、「和解局面」に転じた。6月のルノーの株主総会で、最高経営責任者(CEO)続投を認めた際、ゴーン容疑者は報酬の3割減に応じた。今月8日には、ゴーン容疑者の案内で、マクロン氏が仏北部のルノー工場を視察し、「友好ムード」を演出した。

経済ジャーナリストの片山修氏は「仏政府には、ルノーの筆頭株主として日産の支配権をもっと持ちたいという狙いがあるが、日産サイドは反対していた。ゴーン容疑者は、ルノーCEOの任期を迎える22年までに、3社の関係をどうするかについて結論を出すということで、仏政府と話がついていたといわれている」と解説する。

フィナンシャル・タイムズの報道が事実なら、ゴーン氏は仏政府の意向を受け、日産とルノーの統合を進めようとしていた可能性もある。ルノーを通じた「日産支配強化」は、マクロン氏にとっても決して悪い話ではないからだ。

外交舞台では存在感を高めているマクロン氏だが、国内では深刻な人気低迷に苦しんでいる。今月の世論調査で、マクロン氏の支持率は25%に落ち込んだ。政権運営をめぐって「強権的」との批判もあり、8月以降だけでも3閣僚が辞職した。

求心力が低下するなか、マクロン氏が「事態打開」の材料として、日産に目をつける可能性もありそうだ。

前出の片山氏は「ゴーン容疑者がいなくなったことで、仏政府の意向が強烈に前面に出てくるのではないか。一方、日産は『民間企業の戦略に政府が口を出したら、自由でダイナミックな経済活動ができなくなる』と反対の立場を取るだろう」と語る。

実際、日産の西川(さいかわ)広人社長は5月の決算会見で、「世代を超えて企業連合を維持していける仕組みをつくらなければならない。その検討の中で、資本構成の変更も含めて考える」と述べ、ルノーとの資本関係見直しを検討していることを明らかにした。

ただ、民間企業の日産と、仏政府では、株主としての立場の差もあり、交渉しても収拾がつかなくなる恐れもある。

片山氏は「最終的には、日仏の政府同士の話に持ち込まれ、外交交渉の議題として取り上げられる可能性もあるのではないか」と指摘した。

日産をめぐる日仏の闘いは続きそうだ。

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