■国民は世界3位に違和感…
米・時事解説誌『USニューズ&ワールド・リポート』によると、2020年の「世界最高の国ランキング」で日本が3位にランクインしていたことが分かりました。昨年の結果では、日本はスイスに次ぐ2位でしたので、1つランクを落としたことになります。しかし、依然として日本は「世界最高の国トップ3入り」したことになるのです。
米国の調査でこのような華々しい結果になっても、私たち日本人からするとしっくりこないかもしれません。実際、この発表に対する反応をみると、「世界男女平等ランキング、報道自由ランキングが低いのになぜ?」「労働生産性が低く、一人あたりのGDPはどんどん下がっているのに?」など「喜々としてこの結果を受け入れる」というより、「違和感を覚えた人」が多い印象です。
■評価には「重み付け」がなされている
順位だけではなく、この調査のスコアについて詳細を見ていきます。本調査は9つの項目から評価され、さらに項目ごとに「重み付け」がなされています。つまり、評価の重い項目で高スコアがつけられればランキング上位に入り、軽い項目で低スコアがつけられても大きくランクを落とすことがないという評価モデルとなっています。
2020年における日本の総合スコアは「97.9」と非常に高い数値です。個別スコアでは「Entrepreneurship」がドイツに次ぐ2位であり、そして同項目はこの調査において最も重み付けがされている項目です。日本は「Entrepreneurship」で大きくスコアを稼いでいることになります。また、高スコアがつけられている他の項目には「Movers(5位)」「Cultural Influence(6位)」「Power(7位)」が挙げられ、いずれも世界トップ10入りしています。
一方で評価が低かったスコアもあります。それは「Adventure(34位)」「Open for Business(25位)」です。これらはいずれも高いスコアを獲得できていません。「Adventure」は日本に付けられたスコアの中で最も低くなりましたが、スコアの重み付けが最も小さい項目であるため、失点の影響が小さかったと捉えることができます。
■日本は「起業家精神」が本当に旺盛なのか
さて、日本が高スコアを取得した「Entrepreneurship」について考えてみます。この項目は「起業家精神」などと訳されることが多い単語です。オックスフォード辞典をひくと、「the activity of making money by starting or running businesses, especially when this involves taking financial risks(企業を運営することでお金を稼ぐ活動、財政的リスクを伴う)」と定義されています。
起業と言われて多くの人の脳裏に浮かぶのは、米国のシリコンバレーではないでしょうか。シリコンバレーは、起業家を多く輩出しており、優れたアイデアや才能に対しての積極投資が行われる土壌があります。ビジネスの立ち上げ失敗への寛容さがあり、世界トップ企業郡であるGAFAも「多死多産」の結果として生まれたと言えます。つまり、シリコンバレーのビジネスエコシステムにより生み出されたのです。一方で、日本はリスク忌避志向が強く、起業家へのセーフティーネットはないというイメージがあります。実際、日本における起業家の数は多くありません。中小企業白書によると、日本では毎年12万社ほどの法人が新設されています。他方、米国では毎月55万社程が設立されていますから、人口比で比較をしても日本人はアメリカ人ほど起業しないのは数字でも明らかなのです。
■起業の「結果」ではなく「土壌」が評価されている
そのような印象をもとに考えると、この項目において米国が3位、日本が2位という順番に違和感を覚える人もいるかもしれません。どうやらこの調査においての「Entrepreneurship」とは一般的に思い浮かぶ意味合いとは少々異なるようです。詳しい内容について、同サイト内で次のような説明がなされています。
“educated population, entrepreneurial, innovative, provides easy access to capital, skilled labor force, technological expertise, transparent business practices, well-developed infrastructure and well-developed legal framework”
教育レベル、ビジネス慣行の透明性、インフラ、法的枠組みを評価する内容となっているのです。つまり、実際に起業家が多く輩出されて、経済が活性化している「結果」ではなく、その土壌を評価しようというアプローチと言えるのではないでしょうか。
確かに日本人の教育レベルは世界的に高く、ビジネスの法整備、インフラ、透明性も高いでしょう。もちろん改善余地はあるでしょうし、賛否もあるかもしれません。しかし、ハード面は比較的高く評価されているようです。しかし、「起業しよう」というソフトウエアとしての日本人のメンタリティは、決して高いと言えないでしょう。
この点にこそ、評価とわれわれ日本人の意識との間に乖離(かいり)があるのかもしれません。
■ランキングから明らかになること
また、同調査のトップ10は、「先進国と欧州、オーストラリア」が名を連ねています。これらの国は、GDP、1人あたりのGDPを確認するといずれも世界上位につけていることが分かります。
経済的に比較的裕福で、それ故に社会的秩序やインフラが整っています。また、歴史的、文化的な豊かさ、古代から文化を維持できている点についても国力があったと見ることができると思えます。つまりこのランキングは、総合的な国力の高さを表していると言えるのではないでしょうか。
■社会システムの充実に必要なこと
このランキングを見て感じたこと。それは人類の豊かさや社会システムの充実には、国力そのものが基盤として必須なのだということです。端的に言えば、国力があるということは経済的に豊かであるということであり、経済力によってこそ文化維持や社会インフラの充実、高い教育レベルの達成を実現できるということです。
ただし、このランキングは米国の評価モデルによる項目でスコアリングしたものにすぎないため、絶対的な指標ではないことに留意する必要はあるでしょう。そもそも「どの国がベストか」などの評価モデルは存在しないと言えるのかもしれません。しかし、他国から日本がこのように分析されているという1つの意見としては参考にする価値があると言えるのではないでしょうか。