日本でこれから「銀行トラブル」が続出する「シンプルな理由」

国立社会保障・人口問題研究所が最新の将来推計人口を発表し、大きな話題になった。50年後の2070年には総人口が約8700万人、100年後の2120年には5000万人を割るという。 【写真】日本人は「絶滅」するのか…2030年に百貨店や銀行が消える「未来」 ただ、多くの人が「人口減少日本で何が起こるのか」を本当の意味では理解していない。そして、どう変わればいいのか、明確な答えを持っていない。 ベストセラー『未来の年表 業界大変化』は、製造・金融・自動車・物流・医療などの各業界で起きることを可視化し、人口減少を克服するための方策を明確に示した1冊だ。 ※本記事は河合雅司『未来の年表 業界大変化』から抜粋・編集したものです。

「信用力」を支えるIT技術が全然足りない

既存のビジネススタイルからデジタルを活用したビジネススタイルに大転換中の金融業界だが、少子高齢化が「大きな壁」となって立ちはだかりそうである。 金融機関の最大の資産は「信用力」である。しかしながら、金融各社にはデジタル化に後れを取っているところが少なくない。 メガバンクでさえ、いまだに通信障害が発生してATMが何時間も利用できないといったトラブルを頻繁に起こしている。今後、「信用力」を勝ち取りながら多様なサービスをインターネットサービスとして展開していくならば、より強固で安定的なデジタル基盤の整備が必須となる。 それには、先端IT人材が必要となるためメガバンクのみならず、地方銀行や証券会社生命保険会社、損害保険会社といった金融業界全体でこうした人材の争奪戦がすでに激化している。 だが、先端IT技術を扱える人材がそんなに簡単に育つはずがない。しかも少子化で若い世代は急速に減ってきているので、金融各社が求める人数を計画通りに確保できるとは考え難い。 経産省などの「IT人材需給に関する調査」(2019年)が厳しい将来像を示している。 IT人材は2018年の103万1538人から2030年には113万3049人にまで増えるものの、この年に想定される需要を満たすには44万8596人足りないと見積もっているのだ。もしIT需要が想定される中で最も大きくなれば、最大約78万7000人不足するとしている。 同調査は、IT技術者のニーズは大きいため、「情報処理・通信技術者」として就職する新規学卒者は少子化にかかわらず、緩やかな伸びではあるが増え続けるとも予想している。だが、若者の絶対数が減っていく中でIT分野に就職する新規学卒者が多少増えたぐらいでは、伸びる需要に追い付かないということである。 IT技術の進歩は速いため、次々と誕生してくる先端技術を扱える人材は常に不足しがちだ。しかも、日本企業には構築から20年以上が経過した老朽化システムを抱えているところが多く、そのメンテナンスや運用に追われている実情もある。既存のIT人材には先端技術を身に付けている余裕のある人が少ないのだ。「IT人材需給に関する調査」が2030年に供給できると見込むIT人材もすべてが「先端IT人材」とはいかない。 調査はいくつかの前提をおいてシミュレーションしているが、どのケースも「従来型IT人材」が相当数を占める結果となっている。金融各社が「先端IT人材」のみ採用したいと考えるのであれば、2030年の不足人数はさらに大きな数字となる。

IT人材が銀行に就職する理由はない

もっとも金融業界が「先端IT人材」をどんなに求めようとも、各業種から引く手あまたのIT技術者にすれば、「なぜ銀行や証券会社に就職するのか」という疑問がついて回るだろう。 優秀な人材であれば、GAFAなど外国の巨大企業に就職したり、起業したりと選択肢はいくつもある。IT人材に対する日本企業の処遇は世界各国と比べて高くない。日本の金融機関をあえて選ぶという人はそう多くないだろう。 既存技術者のリスキリングによる育成も求められるところだが、十分なIT人材の獲得に失敗し、これまで築き上げてきた「信用力」という資産を失うようなことにでもなれば、日本の金融機関は弱体化する。それは日本経済の衰退と同義である。 つづく「日本人はこのまま絶滅するのか…2030年に地方から百貨店や銀行が消える「衝撃の未来」」では、「ポツンと5軒家はやめるべき」「ショッピングモールの閉店ラッシュ」などこれから日本を襲う大変化を掘り下げて解説する。

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