日本でマスクが普及したのはいつから? マスクの歴史

マスクは例年冬から春にかけての時季、インフルエンザや花粉症に悩む人たちにとっての必需品でした。ところが今年は新型コロナウイルス感染の拡大によってマスクの需要が増大し、メーカー各社も増産に努めています。海外のニュース映像などを見ると、今やマスクをする習慣がないとされる国の人たちもマスクを着用しています。日本におけるマスクの歴史、現在の性能基準についてまとめてみました。

スペインかぜの大流行をきっかけに注目

日本でのマスクの歴史は、明治初期に始まりました。当時のマスクは真鍮(しんちゅう)製の金網を芯にして、布地をフィルターとして取り付けたものだったといいます。炭鉱などで働く人たちの粉塵(ふんじん)除けが、おもな用途でした。ところが、1918(大正7)年に始まったインフルエンザ(スペインかぜ)の大流行により、予防品として注目を集めるようになったのです。

スペインかぜは、世界保健機関(WHO)によると、当時約20億人だった世界人口の25~30%が感染したと推定され、日本でも1918~1920年の3期で計約2400万人が感染、40万人が死亡したといわれています。当時、国が配布したポスターには「マスクをかけぬ命知らず!」と書かれ、黒いマスクを着用した紳士と婦人が描かれています。

1918〜1919年に流行したスペイン風邪のときのポスター(資料提供/北多摩薬剤師会)

その後、マスクは国内に普及し、1923(大正12)年に内山武商店が発売した「壽(ことぶき)マスク」が、商標登録品第1号に認定されました。改良も徐々にすすみ、芯の金網をセルロイドに変えたものや、フィルター部分に別珍(木綿のビロード)や皮革類を用いたマスクも製造されました。

インフルエンザが再び猛威をふるった1934(昭和9)年、マスクは大流行します。以後、インフルエンザが流行するたびに、マスクの出荷量も増加していきました。時代を経るにつれてマスクのスタイルも変化し、枠のない布地だけのものも登場しています。布に代わるガーゼマスクが生まれたのは、1950(昭和25)年のことでした。

1973(昭和48)年、現在のマスクの主流となっている「不織布(ふしょくふ)製プリーツ型」の原型となる製品が、日本で生産・販売されるようになりました。それまでの流行性感冒(かぜ)やインフルエンザ予防に加え、1980年代からの花粉症の流行も、一般家庭へのマスク普及を促進させる要因となりました。2000(平成12)年以降に登場した立体マスクは、「圧迫感がなく、口紅なども付着しにくい」と、人気になっています。

消費者保護へ表示・広告に自主基準

工場や建設現場で有害物質対策に用いられる「産業用マスク」には、国による検定規格などが定められています。しかし「医療用マスク」と「家庭用マスク」は、薬事法に該当しない「雑貨品」とされ、検定規格などがありませんでした。そこでマスクメーカーなどで作る日本衛生材料工業連合会は2006(平成18)年、消費者保護の立場から、マスクに「表示・広告自主基準」を定めました。

それによると、「マスクの定義」は、天然繊維・化学繊維の織編物または不織布をおもな本体材料とする。口と鼻を覆う形状で、花粉やほこりなどの粒子が体内に侵入するのを防ぐ、かぜなどによる、せきやくしゃみの飛沫(ひまつ)の飛散を抑制することを目的に使われる、薬事法に該当しない衛生用製品としています。

そのほか、「医薬品的な効能・効果の標榜(ひょうぼう)をしてはならない」などの表示・広告に対する規制や、素材名・抗菌剤名などの表示の仕様を統一するなどの基準が、自主的に定められています。

マスク普及の歴史は感染症大流行の歴史と重なります。今回の新型コロナウイルス感染拡大でも、マスクが品薄になるなど、世界中でマスク需要が一気に増大しました。例年以上に手洗いなどの対策が徹底して行われていますが、コロナウイルスだけでなく、感染症への予防意識が今後さらに高まることを期待したいですね。

参考資料など

取材協力/(一社)日本衛生材料工業連合会【20-0012】

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