パンデミック(世界的大流行)が宣言された新型コロナウイルス感染症(COVID―19)の猛威が止まらない。きのう(22日)正午(日本時間)時点では、世界の感染者数は29万7502人で、そのうち1万2921人が死亡した。
新型コロナウイルスが最初に発生し、8万人以上の感染者が出た中国本土では3261人が死亡。イタリアは死亡4825人(感染5万3578人)、イランは死亡1556人(同2万610人)、スペインは死亡1381人(同2万5496人)と被害が拡大している。
日本は比較的早い段階で新型コロナウイルスの感染が発覚したが、ここまで感染者も死亡者も少ない。きのう時点の感染者は1015人で死亡者は36人、224人が退院している(チャーター便帰国者、クルーズ船の乗員乗客は除く)。712人の感染者を出したクルーズ船の事例を見ても死亡は8人にとどまり、574人が退院し、30人が重症から軽~中等症に改善した。
これまで、日本では新型コロナウイルスに対するPCR検査の対象を絞ってきた。発熱や呼吸器症状があって、渡航歴や濃厚接触がある人、集中治療などが必要だと判断された人に制限していた。今後、保険適用になったPCR検査の実施が増えれば、陽性の人が増えるのは間違いない。とはいえ、検査で潜在的な感染者が明らかになったとしても、ここまで新型肺炎による死亡者数が少ないのは事実だ。
なぜ、日本では少ないのか。順天堂医院前院長で心臓血管外科教授の天野篤氏は言う。
「死亡者が少ないということは、重症化する人が少ないということ。つまり、重症化するリスクがある高齢者や基礎疾患がある人への感染が少ないと考えられます。これは、日本の公衆衛生のレベルが高いからだといえます。子供の頃から手洗いやうがいなどの感染症予防の習慣を教えられ、上下水道がしっかり整備されている環境下で、多くの人が実践している。自身の疾患予防だけでなく、咳やくしゃみで周囲に迷惑をかけないようにほとんどの人がマスクを装着しています。医療者はもちろん、そうした一般人の公衆衛生に対する意識の高さが、症状が出ていない感染者から健常者に感染させる機会を減らしているのです。だから、重症化する患者も少ないのだと思います」
■「人工肺」が有効
全体的な医療水準の高さも、死亡者が少ない理由のひとつといえる。肺炎に対する効果的な治療が行われるため、感染して重症化しても回復するケースが多いのだ。中でも、「ECMO」(エクモ)と呼ばれる体外式膜型人工肺の有効性が報告されている。
「エクモは、主に呼吸器疾患の急性悪化や心臓手術後の肺機能障害などの治療に使われていて、肺炎が重症化して人工呼吸器を使用しても酸素を十分に取り込むことができないケースでも使用されます。機能が衰えてしまった肺の代役として体外に人工肺を設置。静脈につないだ管から血液を人工肺に送り、装置内の膜を通過させる際に血液に酸素を加えてから再び体内に戻します。セットする膜の種類によって、重症化の要因になるような血液中のサイトカインを除去することもできます。悪くなった肺を完全に休ませて、患者自身の免疫による回復を待つのです」(天野篤氏)
肺炎に伴って腎臓の機能が悪化してしまった場合でも、人工透析の装置をエクモの回路に接続して1台で同時に対応するケースもある。肝臓が悪い人でも、黄疸に関わる成分を吸着してから体内に戻すことができるという。
厚労省によると、エクモは全国の感染症指定医療機関で600台以上が設置されていて、使用中の2割を除く8割が対応可能だという。ただ、エクモを使った治療は2週間前後の期間がかかるため、重症患者が急増すると不足する可能性もある。
やはりまずは予防とエチケットの徹底を続け、重症化する感染者を抑えたい。