「iPhone SE」第2世代モデルは4月17日に予約が開始され、4月24日に発売される。価格は4万4800円~(写真:アップル)
アップルがアメリカ時間4月15日に発表した「iPhone SE」第2世代モデルは、さまざまな意味で予想を超えていた。この製品はつねに業界の前進を牽引してきたアップルが、さらにスマートフォンの世界を拡大していくという製品ではない。
しかし、おそらくこの製品はしばらくの間、最も多く販売されるiPhoneになることは間違いないだろう。最先端のiPhoneではなく、日常の道具としてiPhoneを使っている既存ユーザーにとって魅力的な設定が散りばめられているからだ。
第2世代のiPhone SEは、アップルの株価を押し上げる要因となったiPhone 11/11 Proシリーズが持つパワフルな性能、カメラ画質、心地よい使い心地などはそのままに、オリジナルのiPhoneが持っていた使い心地を引き継いだiPhone 8に近いデザインを採用。そして64Gバイトモデルは4万4800円(税抜)と、5万円を割り込む価格設定がされている。
発表前には「iPhone 8と同じデザインの廉価版iPhoneが登場する」と言われていたが、実際に投入された製品は廉価版などではなかった。アップル製の端末は、独自に開発するSoC(統合型システムLSI)に機能の多くを依存しているが、最新のA13 Bionicを搭載することで上位モデルに遜色ない体験レベルを実現している。
日本市場においてiPhone SEが人気の理由
極めて競争力が高い製品であることは間違いないが、日本市場においては、さらにiPhone SEに人気が集中する特別な事情があるからだ。
日本ではスマートフォン市場全体の半分以上という圧倒的なシェアをiPhoneは占めてきた。近年、格安の通信サービスとともに低廉なAndroid端末も伸びつつあるが、それでもスマートフォン利用者の半分以上(2020年1月で57%、ウェブレッジ調べ)がiPhoneを使っている。
こうした圧倒的なiPhoneの優位性が築かれたのは、iPhoneがもっとも使いやすく、製品としての完成度も高い業界のリーダーだったことも理由の1つだが、それ以上に低価格で購入できる端末だったことも大きい。
iPhoneがソフトバンク専売だった時代は、他社から回線契約者を奪うマーケティングツールとして使われ、その競争はKDDIがiPhoneを扱い始めた2011年10月からさらに激化した。
このとき発売されたiPhone 4Sは、もっとも低価格な16GBモデルで6万円前後。月々の通信料金割引と組み合わせることで、実質、無料で購入できる状態だった。その2年後のiPhone 5S、5C発売時にNTTドコモもiPhoneシリーズの取り扱いを始めると、携帯電話キャリア各社はiPhoneをこぞってプロモーションすることで他社への契約者の流出を防ぐとともに、フィーチャーフォンからの乗り換え促進を進めた。
背景にはさまざまな事情も囁かれていたが、使いやすく手離れのよい、またOSのアップデートなどのサポートも安定していたiPhoneは、携帯電話キャリア各社がフィーチャーフォンからスマートフォンへの移行を進めるうえで、うってつけの製品だったことが大きいのだろう。
その後、毎年のようにiPhoneユーザーは増加していき、日本はグローバルでも例を見ないほどiPhoneが強い国になった。
さまざまな進化がなされた現在、単純に機能の面だけを見れば、操作性なども含めて、Android端末とiPhoneに特段の違いがあるわけではない。
しかし一度使い慣れてしまうと、使用しているアプリの再購入、再導入など、さまざまな面を考慮すれば、次に買い換えるときも同じ種類の端末を選びたくなるものなので、ここでもiPhoneはAndroid端末に対して優位性を持っている。
Android端末はメーカーごとのユーザーインターフェースが統一されていない場合もあり、またバックアップと復元もiPhoneほどのスムースさがない。一方、iPhoneは機器同士を近づけるだけで、その設定を移行できる。端末の乗り換えは、面倒で憂鬱な作業だが、そのハードルが低いのだ。
だからこそ、iPhoneユーザーは次もiPhoneを使いたいと思っているが、一方で「人気が高いうえにお買い得な端末」としてiPhoneを入手してきたユーザー層は、iPhoneへの買い替えに二の足を踏む状況が続いてきた。
手頃に入手できるiPhoneが消えてしまった
総務省の方針に従うかたちで、携帯電話キャリア各社は端末料金と通信料金を分離。iPhoneの価格が上昇を続けたこともあり、手頃に入手できるiPhoneが最新モデルのラインナップから消えてしまったのだ。
このためアップルは旧型モデルを購入しやすい価格帯に残すことで、価格レンジを下に広げていた。一昨年末のiPhone XSシリーズ発売時にはiPhone 8シリーズを低価格版として残し、第2世代iPhone SE発売時までカタログに載せ続け、昨年末のiPhone 11/11 Proシリーズ発売時にはiPhone XRの価格を引き下げた。
調査会社GfKによるとiPhone 11/11 Proシリーズが発売される直前、2019年8~9月上旬までは、iPhone全体のおよそ4割がiPhone 8だった。新モデルが発売される直前、最新機種の動向に敏感ではない消費者は、新モデルが発売される直前にiPhone 8を選んでいたということだ。
2017年9月発売の端末としては異例のロングセラーだったこの端末が人気だったのは、5万円台前半から購入できる手軽さがあったことは想像にかたくない。
しかし、そのiPhone 8が搭載するA11 Bionicも、近年アップルが進めている機械学習処理やカメラ機能の大幅な進化には対応できず、端末の使用感、今後の進化ともに心許ない心臓となってしまっている。
価格高騰などから買い替え先を失っていたiPhoneユーザーは、iPhone 6/6Sに留まっていることが多い。この層が低価格かつ高性能なiPhone SEに流れ込めば、再びiPhone市場が活性化するとともに、Androidベースでライバル端末を開発する他メーカーの事業にも少なからず影響を与えるだろう。