日本と大違い…アメリカ「食えない仕事ランキング」トップ10

情報通信技術の進化により、住む場所に関係なく仕事ができるようになりました。ビジネスパーソンにとっては「仕事の未来」を予測して行動するのも重要な生存戦略になるでしょう。ここでは今後「生き残れない仕事」について、アメリカの分析を見ていきます。※本記事は、谷本真由美氏の著書『日本人が知らない世界標準の働き方』(PHP研究所)より一部を抜粋・再編集したものです。

日本における「人気職業」は、欧米だと「最悪の仕事」

図表1はアメリカの求人サイトであるCareerCastがアメリカ政府の雇用データをもとにまとめた「最悪の仕事」のランキングです。このランキングは、「酷い報酬」「ストレス」「ジョブセキュリティ」などをもとにまとめられていますが、日本の「人気企業ランキング」とは随分内容が違います。

[図表1]最悪の仕事ランキング 出所 https://eu.usatoday.com/story/money/2019/04/20/the-worst-jobs-in-america/39364439/

まず、日本ではエリートの仕事であり、憧れの仕事の一つである新聞記者は、低い報酬、仕事の不安定性、ストレス、成長性などの観点から見て、現在アメリカで最悪とされる仕事の一つです。『The Jobs Rated Almanac: The Best Jobs and How to Get Them』(iFocus Books)で取り上げられている200の仕事の中でも最下位です。

この傾向は、アメリカだけではなく、カナダ、イギリス、オーストラリアなどの英語圏でもまったく同じです。英文メディアの世界では、新聞社の倒産、合併、縮小に伴って、記者のレイオフが増えています。英語圏は大胆なので、一気に記者を数百名単位でクビにしたり、写真報道部署の仕事をすべて海外に外注したりしてしまいます。

例えば、アメリカの主要大衆紙である「USA Today」の親会社であるGannettは、2013年には同社が所有する新聞社の中から合計で200名あまりを解雇し、翌年は「USA Today」のベテラン記者や編集者約70名を解雇しています(※1)

2013年にはイギリスの経済高級紙であるFT「Financial Times」が35名の編集スタッフを解雇し、デジタル編集者に置き換えることを発表しています(※2)

イギリスの保守系新聞である「Daily Telegraph」も、2014年にデジタル部門の編集者約50名を解雇しています(※3)

※1 http://www.huffingtonpost.com/2014/09/03/usa-today-layoffs-job-cuts-gannett_n_5760196.html

※2 http://www.pressgazette.co.uk/ft-avoids-compulsory-redundancies-30-journalists-leave

※3 http://www.theguardian.com/media/greenslade/2014/oct/21/telegraphmediagroup-national-newspapers

インターネットの発達がもたらした出版業界の「悲惨」

さらに、新聞記者と同じく、なんと日本では皆のあこがれであるニュースキャスターやDJも危険職種とされていますが、これも新聞記者と同じく、インターネットの発達によりメディアの消費方法が変化していることが原因です。

アメリカの調査会社であるPew Research Centerの調査によれば、2000年と2012年を比較すると、アメリカのメディアにおける写真記者やビデオ記者の仕事は43%減少し、編集者やコーディネーターやレイアウト担当者は27%、記者や編集者は32%も減少しています(※4)

記者の多くは、運が良ければデジタルメディアに転職したり、企業の広報に転職したりしますが、廃業後に失業してしまう人もいます。このような悲惨な状況は、新聞だけではなく、書籍や雑誌を出版する出版社も同様で、紙の媒体の需要が激減しているので、デジタルメディアに転職する人が増えています。

私はロンドンで開催される、出版業界の大規模展示会である「The London Book Fair」を毎年取材していますが、15年近く前からデジタルで出版するのが当たり前、という雰囲気であり、もはや展示ブースには紙の本を置いていない出版社も珍しくありません。

大盛況で立ち見が出るセミナーは、電子書籍を売る方法、小規模出版社がデジタルメディアで生き残る方法、Kindleで売れている本のトレンド、映画製作とのコラボレーションなど、そのほとんどが、デジタルメディアに関するものです。

業界を代表する書評家としてセミナーで話をするのは、今や、有名な作家や書評家などではなく、Booktuber(動画サイトYouTubeで書評動画を発表している人)やブロガーです。デジタルメディアを制する「素人」の方が、年配の業界人よりも影響が強いのです。

※4 http://www.pewresearch.org/fact-tank/2013/11/11/at-newspapers-photographers-feel-the-brunt-ofjob-cuts/

なぜタクシー運転手が「最悪の仕事」第1位なのか?

前出のランキングの2位の「木こり」は意外ですが、通信技術の発達や、グローバル化が、意外なところに影響を及ぼしています。

木材の需要は、出版や建設業界の先行きに左右されますが、通信技術の発達により、出版業界の景気が悪くなっており、紙の需要が減っているので、「木こり」の雇用が減っているのです。

さらに、技術革新により、建築業界で木材以外の材料を使うようになっています。技術革新は業務の効率を進めているので、以前よりも人が必要ではないのです。また技術革新も進んでいますが、事故のリスクが高くその割には収入が低いのです。

「風が吹けば桶屋(おけや)が儲かる」のたとえでは、風が吹くと砂埃(すなぼこり)のために目を病む人が多くなる…最終的に桶屋が儲かる、というふうになっていますが、グローバル時代においても、紙の本が売れなくなると、木こりが儲からなくなる、という連鎖が発生しているのです。

技術革新は、タクシー運転手の需要にも影響を及ぼしています。例えば、一般の人が、自家用車を使用して、他の消費者にタクシーサービスを提供することができるUberはその代表格です。サービスが合法な国であれば、自家用車と、スマートフォンのアプリさえあれば、見知らぬ人を車に乗せてお金を稼ぐことが可能です。値段も安いので、消費者はわざわざタクシーを頼もうと思わなくなってしまいます。

また、配達人はここ10年以内に、その求人数が激減する仕事だと考えられています。現在よりもさらに多くの郵便物がデジタル化されるので、手紙の配達需要は減ります。さらに、配達人の強敵はドローンです。受取人の住所さえ入力すれば、自動的に荷物を配送してくれるので、わざわざ人が届ける必要がありません。

ドローンによる配達は、すでに実用化されています。例えば2021年にはカリフォルニアのスタートアップであるZiplineがナイジェリアやルワンダの僻地(へきち)にコロナウイルスのワクチンをドローンで配送しています(※5)

※5 https://www.cnbc.com/2021/02/04/role-of-medicaldrones-in-global-covid-vaccine-campaign-is-growing.html

[図表2]これからの成長と収入が期待できる仕事① 「CareerCast」のジョブ評価レポート 最高の仕事ランキング 2015

[図表3]これからの成長と収入が期待できる仕事② 数値 米国労働統計局出所 http://www.careercast.com/sites/default/files/best-jobs-infograph.jpg

谷本 真由美

公認情報システム監査人(CISA)

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