自国以外はすべて潜在的な敵、もしくはライバルである。これが世界の常識だが、日本は軍事力を現在の「同盟国」アメリカに頼り切っている。「同盟」というものは便宜的で、一時的な絆でしかないことを認識すべきだ。 【写真】中国で「若い中毒患者」激増のヤバすぎる実態 米国の大統領が来日するときは羽田空港ではなく日本の主権の及ばない厚木基地に降り立つ。つまり米軍の日本占領はいまだ続いているのである。政治というのは非情であり、命がけの仕事なのだ。国家百年の大計を立案し、その理想に一歩一歩邁進していくのが本物の政治家であるべきなのだが、いまの日本政府にはそんな気骨のある政治家は見当たらないと、日本を代表する中国ウォッチャーである国際政治評論家・宮崎正弘氏は嘆く。 ※本記事は、『悪のススメ―国際政治、普遍の論理』より一部を抜粋編集したものです。
ロシアを中国に異常接近させたバイデン
世界の常識とは自国以外はすべて潜在的な敵、もしくはライバルである。「同盟」なるものは便宜的な、一時的な絆でしかない。 冷静にバランスオブパワー理論に基づくなら、日米の主要敵は中国なのだから、その背後にあるロシアを味方にするのが「上策」、少なくとも中立化させるのが「中策」。 ところがロシアをして中国に異常接近させてしまったのだからバイデン政権は「下策」を自ら選択したほど愚昧(ぐまい)なのである。 トランプ前大統領がバイデン大統領を「稀な間抜け」と言ったのはそういう戦略的判定からである。トランプも『孫子』の愛読者ではないかと思われる理由は、プーチンを尊敬し、ロシアとは仲直りをすべきだと唱えているからだ。中国を孤立させる外交戦略を考慮しているのだ。 トランプは直近の『タイム』(2024年5月27日号)でも、NATOが防衛分担を増やさないなら、アメリカは欧州を守らないと脅しをかけた。西側同盟に根源的な疑義を呈した。 「台湾を守るかどうかは最後まで曖昧にする」とも言った。それも交渉ごとでは基本のルールだろう。であれば、アメリカは日本を守るのか、どうか? 日本は軍事力を持たないのに(自衛隊は制約が夥(おびただ)しく手足を自由に使えない。世界の常識で言うところの軍事力ではない)、「主権国家」だと言い張っている。国内に外国の軍隊が駐留しているのに「独立国家」だと主張している。国際政治の基礎がねじ曲がっている現実を正面から見ようとしない。
米軍の日本占領は続いている
憲法改正が難しい状況なら安保条約の改定という目標がある。不平等きわまりない「法律」や「協約」「協定」「条約」にがんじがらめになっている。日本は平和憲法という名の占領基本法をまだ墨守している。押しつけたアメリカの当事者が「まだあんなのを使っているのか?」と驚いたという。 学生たちが騒いだ「60年アンポ」とは岸信介が政治生命をかけて不平等きわまりない日米安保条約の内容を、一歩、二歩と独立国家にするために、平等な内容に近づけた。それでも日本国内に米軍基地があり、たとえば米大統領が来日するときは羽田空港ではなく厚木基地に降り立つ。米軍基地に日本の主権は及ばない。つまり米軍の日本占領は続いているのである。この安保条約の改定を唱えてきたが自民党内ですら議論されないのである。
遅まきながら漸く認識し始めた「中国の軍事的脅威」
グローバル戦闘航空プログラム(日本の防衛省が公開したイメージ図)
日米両国は次期戦闘機に搭載するAI(人工知能)、ならびに次世代ドローン技術の研究開発で共同研究の開始に合意した。 憲法に抵触するが、そのことには触れないし、メディアの一部をのぞいて、野党も左翼団体も騒がなくなった。多少は世界の現実が理解できるようになったからか。日米の「AI共同研究」の目的は「最先端の人工知能と機械学習を高度な無人航空機と融合させることで空挺戦闘に革命を起こす」と米空軍はプレスリリースで明言している。 「共同研究で開発されるAIは、日本の次期戦闘機と並行して運用される無人航空機への応用が期待される。日米同盟の「技術的優位性」の維持に有益である」と日本政府は言う。 また日本は2035年までに英国、イタリアと次世代戦闘機を共同開発すると発表した。このニュースは米国を怒らせるはずだが、取り立てての抗議もなかった。ということは裏で何らかの密約があるに違いない。日本政府は新型戦闘機の開発で米国の防衛企業との協力を模索していた。米国の情報機密保持に関する厳しい規則のため、他のパートナーを探すことにした。F2戦闘機の後継機開発を英国とイタリアとで行い、後者はユーロファイターの後継機を目指す。この日欧の戦闘機開発計画は、日本と米国以外の国との初の共同防衛装備開発協定となる。 日本国憲法に照らせば堂々たる憲法違反、超法規的措置だが誰も異論を唱えない。それだけ中国の軍事的脅威への対応を日本政府および日本国民の多くが必要と認識し始めたからである。 政治というのは非情であり、情緒が這入り込むとまともな政治にはなりにくい。政治とはそもそも命がけの仕事なのだ。国家百年の大計を立案し、その理想に一歩一歩邁進していくのが本物の政治家である。そして政治家は暗殺を懼れない。決して怯懦にはならない。 政敵の排除には暗殺、謀略による失脚や、フェイクに基づく裁判で有罪とすることなど多彩だ。その典型例をずらり並べて見せてくれるのがロシア。 まさに悪の論理を地で行く鏡のような存在である。
宮崎 正弘