日本のスーパーやコンビニが置き去りにしてきた「致命的欠点」

日本のコンビニやスーパーは、米国から「チェーンストア理論」を導入することによって成長してきた。その一方、生業的な青果店や鮮魚店など旧来の小売業で行われていた、消費者への親身な情報提供などが疎かにされてきた。現状のままでは、流通業界は発展が期待できない。(流通ジャーナリスト 森山真二)

「あなたは商品を買う際に、蚊帳の外に置かれてはいないだろうか」――。

日頃、私たちはスーパーやコンビニで買い物する際、商品をほとんど無意識に選択し購入している。購入時に判断材料にするのは、生鮮食品ならばせいぜい「色がいいか」、「痛んでいないか」という“見た目”の良し悪しくらいだろう。

というのも、店舗にはそれしか情報がないからである。

実際にはスーパーやコンビニに置かれる商品にはそれぞれ、出所来歴がある。「産地はどこか」、「いつどのくらい、どういう状況で生産されたのか」など。たとえば果物なら、「本当に甘いのか」「酸っぱいのか」ということもある程度はわかるはずだが、店舗にこうした情報はない。

しかし、もはや小売業で「由らしむべし知らしむべからず」という“傲慢な商法”は通用しなくなっている。

オーケーが店頭で掲げている「オネスト(正直)カード」

『只今販売しておりますグレープフルーツは、南アフリカ産で酸味が強い品種です。フロリダ産の美味しいグレープフルーツは12月に入荷予定です』

『6月21日から発泡酒が値下げになります。お急ぎでなければ6月21日までお待ちください』

これは首都圏を地盤にディスカウント型の食品スーパーを展開するオーケーが店頭、商品に掲げている「オネスト(正直)カード」に書かれている内容だ。

オーケーの店舗には、至るところにこうしたオネストカードが掲げられている。それも一目で分かるような形でだ。

正直に産地の情報や収穫した際の情報を、はたまた商品の値上げ時期など店舗側にとってネガティブな情報を、あえて提供することで消費者に安心感を与え、信頼を勝ち取るマーケティング手法といえる。

企業があえてネガディブな情報を包み隠さず開示して、「悪材料出尽くし」で株式の買いを誘う広報IR手法にも似ているが、消費者にとってはこのスーパーに行くことの意義、付加価値を見出せる効果がある。

かつて商店街にあった生業的な青果店や鮮魚店では、日常的にこうした情報を提供していた。

「奥さん、このレタスは日照不足の影響を受け生育状況がよくない。レタスは料理に使わず、ほかのものにした方がいい」という具合に、店主しか知り得ない仕入れの際の情報を消費者に提供していた。

しかし、生業的な青果店や鮮魚店、食肉店が減少している今、その役割はスーパーやコンビニなど組織的な流通業に求められているといっていい。

だが、現在、大手流通業から中堅中小に至るまで、これがまったくといっていいほどできていない。

スーバーやコンビニが守る教科書通りのチェーンストア理論

なぜ、スーパーやコンビニが消費者に対する情報提供を疎かにしてしまったのかというと、米国からチェーンストア理論が持ち込まれて以来、十年一日のごとく教科書通りのチェーンストア理論が守られているからである。

もちろん、チェーンストア理論を否定しているわけではない。仕入れ量を最大化して、仕入れのメリットを引き出し売価に反映させる。ローコストオペレ―ショーンを徹底して運営コストを削減し、それを売価に反映させる。この基本的な考え方は間違っていないし、まったくもって正しい理論だろう。

しかし、チェーンストア理論には、欠けているものもある。それがローコストという大義名分の下、犠牲にしてきた消費者への情報提供である。チェーンストア理論に則った情報提供といえば商品名と売価、ポジティブ情報しかない。

私たちも今まではその論理に慣らされてきたきらいがある。スーパーやコンビニの商品、とくに生鮮食品は、どこが産地で、生育状況はどうだったのか。はたまた、どういう肥料、飼料を与えて育てたものか。甘味はどうか。苦味はないか。

そんなことは知らされず、ひたすら店舗側が用意したポジティブ情報のみに踊らされ、買い物をしてきたといっても過言ではないだろう。

オーケーのことばかりで恐縮だが、同社はかつて、ビールメーカーが原料高騰などを理由にして値上げに踏み切った際に、特売の原資となるリベートを削減された。

このため、「継続して安売りができなくなった」として大手メーカーから減らされたリベート分に見合う一定期間、商品を定番売り場から撤去。その大手メーカーとの交渉の経緯まで売り場に告知して、消費者に理解を求めたほどだ。

そこまではやりすぎかもしれないが、これからの流通業は情報を持たない消費者に対し、商品や価格にかかわる情報を積極的に出していくべきではないか。商品だけでなく、情報も一緒に販売すべきなのだ。

消費者の情報は取られる一方だが流通業界から得られる情報は旧態依然

「いやーオーケーのようなことをしていたらコストがかかってしまって…」という声も大手流通業から聞く。

しかし、今やほとんどの人がスマートフォンを持っている時代である。店頭が難しいならスマホに対応した形でいいから、情報を提供するのが、義務になってくると思う。

実際、オーケーは店舗運営コストをかけずに安売りをするディスカウント業態だ。にもかかわらず、オネストカードを展開し、消費者にネガティブな情報を提供してきたのである。

かつて食品偽装の問題が相次いだのを受け、一時期、牛肉などの産地情報や飼料など育成状況などの情報を開示し、トレーサビリティー情報を閲覧できるようにしたスーパーもある。しかし、それはあくまで消費者が「能動的に知りたい情報」ではない。

こうした情報は、万が一事故があった際にすぐに調べることができ、「私の買ってきたものは対象の商品ではなかった」と安心できる材料として、整備しておくことは必要だろう。

しかし、消費者が知りたいのは、この果物は本当に甘いのか、まだ酸っぱいのか、あるいは発泡酒の値上げ時期が近いのか否かという、日常の買い物にあたって「自らの利益に直結する情報」なのである。これらの情報は、売り手側にとっては時に「多少デメリットになるような情報」だが、消費者はこうした情報を望んでいるのだ。

しかし、日本の流通業の取り組みはまったくといっていいほど遅い。

そうした情報の提供をしていないところがほとんどだし、いまだに、店舗での撮影を禁止しているスーパーやコンビニは少なくない。スマホで値札などを撮影していたら、警備員が血相を変えて飛んでくることもある。これでは売り場でスマホ対応ができるわけもない。

現在、流通業界には新しい波が押し寄せている。アマゾン・ゴーなど無人コンビニや、ICタグによる流通改革である。

しかし流通業界が消費者から取得する情報は増える一方だが、消費者が流通業界からは与えられる情報は旧態依然だ。それでは需要側はいつまでたっても弱者のままである。

現在、日本の流通では官民でICタグの普及に取り組んでいる。今後、消費者に提供できる情報は増えるはずだ。ここらで流通業は意識改革を進めて、消費者にもっと情報提供すべきではないだろうか。そうしなければ、将来的に「生き残り」が厳しくなるのは明らかだろう。

タイトルとURLをコピーしました