日本のテレビは「4K・50型以上が中心」 統計から見る今のテレビ市場

テレビという製品はいろいろな見方ができる。社会への浸透度という意味ではいまだ大きな価値を持つが、「若者は見ない」「オワコン」となかなかにひどい言われようである。

そういう自分も、テレビをデバイスとしては毎日使っているものの、「テレビ放送」のリアルタイム視聴量は減っていると感じる。

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では、テレビとはいまどんな状況にあるのか? 特に「機器」の面から、改めてトレンドを捉え直してみたい。

目次

「チューナーレステレビ」から見えるもの

テレビという言葉には2つの意味がある。

1つは「テレビ放送」。主に地上波での放送を指すが、衛星放送やCATV網での視聴もここに含まれる。

もう1つは「機械としてのテレビ」。比較的大きな画面を持ち、リラックスした形で映像を見るための機器だ。放送を見ていることも多いだろうが、ビデオやゲームもあるし、今は映像配信も増えた。

それぞれを意味することはもちろん皆わかっているが、長い間「テレビとは放送を見るもの」だったので、両者を区別せず使ってしまうことも多い。

いわゆる「チューナーレステレビ」は、この矛盾を象徴するような製品と言える。NHK受信料との関係で多少妙な持ち上げられ方をしたりもするが、買う人の多くは単純に「大きな画面は欲しいが放送は見ない」という人だろうと思う。本来はテレビではなく「大型ディスプレイ」的な製品ではあるが、人々の求めているものが「大画面テレビ」であるなら、ディスプレイと呼ぶより「テレビ」と呼んだ方がわかりやすいのは間違いない。

ドン・キホーテのチューナレステレビ43型「TSM-4301U4K」

僚誌・AV Watchのニュースでも、かなりの頻度でチューナーレステレビが取り上げられており、ニーズが増しているのは間違い無いだろう。

だが現状、日本でチューナーレステレビの市場規模を正確に測るのは難しい。チューナーレステレビを手掛けるメーカーは、JEITA(一般社団法人 電子情報技術産業協会)に加盟しておらず、統計に出てきづらいからだ。

チューナーレステレビの多くは、他国など向けに開発されたテレビからチューナー部分を抜いたような設計であり、EMS(製造受託企業)がラインナップとして用意したものを買い付けてくる……という形で市場に出てくる。その性質上JEITAの統計に入りづらいわけだ。

ただ、ニュースの本数ほどたくさん売れている訳ではないのは事実であるようだ。そもそもEMSや海外企業経由で売られるテレビは「少量を売り切る」ような形でビジネスが行なわれており、大手メーカーのように大量生産して店舗に並べている訳ではない。全部合わせても国内数万台規模だろう。

日本国内では、JEITA統計の範囲内だけで年間480万台規模のテレビが売れており、意外とまだまだ「売れている家電」だ。

個室テレビ市場が弱体化 テレビは「リビング」で手堅い需要

ではどんな売れ方をしているのか? JEITAの「民生用電子機器国内出荷統計」を、2011年度から今年6月まで(8月20日現在の公表分)で集計してみよう。

グラフは以下のようになる。何回か記事などでも使ってきたデータだが、今回完全に集計し直している。

JEITAの統計から「薄型テレビ」の項を抜粋し、集計。2016年にサイズ統計区分の変更があったため、その点留意した上で見ていただきたい

オレンジは29型以下で、比較的小型の製品。青はそれ以上のサイズでかなりざっくりした枠組みである。

なぜサイズで分けたかというと、リビング向けと個室向けを意識して欲しいからだ。小型の製品は基本的に個室向けで、大型の製品はリビング向け。その用途は当然異なる。

2011年に地上デジタル放送への移行が行なわれた訳だが、それに伴い大量の「需要の先食い」が生まれた。グッとテレビの販売数量は落ち、以降大幅には回復していない。

しかし「小型」「大型」での需要にフォーカスすると、話は少し変わってくる。小型テレビの需要がどんどん落ち込んでいく一方で、大型は緩やかに増え始め、堅調さを維持している。

これはどういうことなのか?

簡単に言えば「地デジ以降で個室からテレビが姿を消したが、リビングにはある」ということだ。

家にテレビが不要かというとそうではない。家族の団欒も含め、落ち着いて見たい時のため、リビングに「テレビは必要」と考える人が多いのだ。

2000年代前半まで、テレビは「一家に一台」ではなく「一部屋一台」の時代があった。レンタルビデオも家庭用ゲーム機も、そして若者向けのCMも、そうした市場をベースに存在していた部分がある。

しかし現在、テレビの位置付けは明確に変わっており、失われた部分をスマホが埋めていると考えられる。

特にテレビ「放送」と広告の関係を考えたとき、「若者による個室でのつけっぱなし」ニーズが落ちたことは大きなインパクトがある。ネット広告・インフルエンサーマーケティングとテレビCMの関係を考えると、いろいろ思い当たる節もあるのではないだろうか。

近年はPC用ディスプレイもECサイトを中心に販売数量を伸ばしており、これが「個室のテレビ」の市場を代替している部分があるだろう。ただ、その数量と浸透度はリサーチしきれていないところがあり、もう少し分析と情報収集を進めたいと考えている。

50型以上のテレビが販売の半分

もう一つ、JEITAの統計からはっきりわかることがある。

緑の線で「50型以上」のものを独立して描いてみた。JEITAの統計で50型が登場するのは2014年から(それ以前は37型以上でまとめられていた)なので、それ以降をプロットしている。

もちろん最初は高価なので数も伸びていなかったが、2018年には小型テレビの需要を超え、2023年6月現在は、出荷されるテレビの実に45%が50型以上になった。

さらに言えば、現在の50型以上のテレビはほぼすべてが4Kなので、4Kでコンテンツを楽しめる家庭は急速に増えていて、主流派に近づきつつある、と言える。

なぜ大型テレビは売れるのか? これはシンプルな話で、テレビは「故障や生活スタイルの変化で、一定数が売れる製品」になっているからだ。

先ほど、テレビの年間出荷量は480万台規模と書いた。

実は、国内での冷蔵庫の年間出荷台数は450万台程度である。複数の冷蔵庫を持つ家庭はそこまで多くない。家庭に一台は必須だが、それ以上持っているところは多数派でない。その数が450万台だとすると、テレビもその領域に近づいていることがわかる。

冷蔵庫も、販売の機会は「故障や生活スタイルの変化」。だから、多くの家庭はこまめに買い替えることはせず、一定の期間を置いて買い替える形になっている。

テレビも同様だ。

だとするならば、「長く使うからそれなりに良い製品を」選ぶ人が多く、付加価値の高い50型以上が売れる……という流れになってくる。

各社は大型化と高画質化を競っているが、その傾向はAV Watchの特集をお読みいただくのがいいだろう。

日本の地デジ規格自体は、もう20年以上前に策定されたものだ。2K以下の解像度であり、今の4Kテレビではなかなか厳しい。だからテレビメーカーは、ずっと高画質化技術を競ってきた。

一方、今は映像配信が簡単に使えるようになり、4Kでの映像も放送に頼らず見られる。販売の現場でも「配信」がキーワードになっていることは、以下のインタビューでもお分かりいただけると思う。ただし、そこでいう「配信」は、Amazon Prime VideoやNetflixなどの有料配信だけではなく、YouTubeが大きな役割を果たしている。

テレビがリビングにあるものであり、大きく良いものから売れる、というトレンドはそう変わらないだろう。今年は需要が「屋外」に向いていることもあり、テレビの販売数量自体は厳しい傾向だ。

また、部材価格の上昇や為替の影響もあって、テレビ自体の価格上昇も考えられる。

その中で、ハイエンドのテレビを売るのは厳しくはなっていく。大きさについてはまだ伸びるだろうが、どこまでも大きくなれる訳でもない。

そうすると「今年はまだいいが5年後どうなるか」ということを考える必要は出てくる。

低価格でサイズだけは大きいチューナーレステレビなどが海外からやってくる訳だが、そことどう戦うのか、明確なビジョンが必要になってくる。世界的にもテレビの収益性は厳しくなっており、日本メーカーも「海外勢との価格競争からいかに逃げるか」が問われるサイクルにある。

レコーダー市場はコロナ以降急速に落ち込む

最後にもう一つ、JEITAからの統計を見ていただきたい。

こちらは、レコーダーの販売数量をまとめたものである。統計は年単位で、2023年分は、6月までの統計を使い、対前年比からの類推である点をご留意いただきたい。

録画という市場はほぼ日本にしかない。非常に重要でなくなっては困るものだが、録画機自体の出荷は右肩下がりで、特にコロナ禍以降の下がり方が著しい。

JEITA統計資料より筆者作成。レコーダーの出荷台数は地デジ移行で伸びたものの、以降右肩下がり。特にコロナ禍以降は下げ幅が大きくなった

レコーダーはテレビと一緒に購入されることが多い。その中で販売数が減っているのは、「テレビを買い替えた際に、レコーダーまでは買い替えない層が増えている」ということだろう。

特にコロナ禍で下がったのは、映像配信が本格的に普及し、「見逃し」についても、TVerなどのサービスが定着し、録画に頼る必然性が減ってきたからと考えられる。

すぐにレコーダー市場がなくなることはないと思うが、「マニア向けのニッチな市場」となり、比較的ハイエンドな製品だけが残る可能性は考えておいた方がいいだろう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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