日本の国力減退は「人口問題」のせいじゃない!政治家や役人が口にしない本当の原因

日本人の賃金はなぜ上がらないのか。それは、人口減少よりも一人当たりのGDPが上がらないことに本質があるという。経済低迷にあえぐ日本の問題点を、アジア諸国と比較して分析する。本稿は、原田泰著『日本人の賃金を上げる唯一の方法』(PHP研究所)を一部抜粋・編集したものです。

台湾、韓国に追い抜かれ日本の所得はアジアの中でも低迷

 人口減少が大問題になって、政府は2023年1月4日、「異次元の少子化対策」という、これまでとあまり代わり映えのしない政策を打ち出した。しかし、問題は人口よりも1人当たりの所得が伸びていないことではないか。

 図1-5-1は、日本の1人当たり実質購買力平価国内総生産(GDP)(2017年国際ドル)の推移を、アジアの主要国とともに示したものである。

図1-5-1:アジア主要国の1人当たり実質購買力平価GDP(シンガポールを除く)
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 ここでアジアの主要国としているのは、中国、インド、韓国、台湾、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国(インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオス)である。シンガポールはもちろんASEAN加盟国だが、所得が高すぎて他の国のグラフが見にくくなるので、図からは省略している。

 国の数が多くて分かりにくいが、アジアはどの国でも、初期のレベルから順調に上昇していることを見ていただきたい。

 一方、日本の1人当たりGDPは1990年以降、ほとんど伸びていない。ところが、シンガポールは驚異的な伸びを示して2023年で10.9万ドルである(日本は4.3万ドル)。ブルネイ(右目盛り)は1985年で8.3万ドルという高いレベルから徐々に減少する、という特異な動きをしている。天然ガスの富をわずかな人口(2023年で43万人)で分け合って豊かなのだが、人口が増えれば1人当たりGDPは縮小する。日本が停滞している間に、台湾、韓国が日本を追い越している。

 マレーシアもかなりの勢いで日本に近づいている。タイは日本ほどではないが停滞しており、日本に追いつくのはかなり時間がかかりそうである。その下では、中国が急速に伸びている。

人口減でもGDPが増えれば国力は維持他国はそうなっているが……

 人口が大問題だとされているのだが、国力という観点でも、国力の基本は1人当たりGDP×人口ではないか。人口が増えなくても1人当たりGDPが増えれば国力は維持できる。年金も維持できる。

 国防の観点からも、ドローン兵器の活躍を見れば、かなりの部分を人口ではなく技術力でカバーできるのではないか。技術の基礎は経済力である。

 台湾が日本を追い越したのは2009年である。09年から、日本が台湾と同じだけの成長をしていれば、日本の22年の1人当たりGDPは5.9万ドルとなっている。現実の4.5万ドルの1.3倍だ。税収も1.3倍以上になることになる。

 もちろん、民間の給与も1.3倍になっているのだから、公務員賃金も上げないといけない。GDPが増えれば増やさないといけない支出もあるので、全部が財政赤字の減少には使えないが、財政も大きく改善するだろう。

 次に、人口を見てみよう。図1-5-2は、2028年までの予測を含めた人口を示している。国際通貨基金(IMF)は1人当たりGDPでも28年までの予測をしているが、こちらはあまり当てにならないと考えて23年までとした。人口の場合は、ある程度は当てになると考えられる。

図1-5-2:アジア主要国の人口(2028年まで予測)
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 アジアの中ではインドと中国の人口が圧倒的なので、両者は右目盛りにしている。ここで中国も人口が減少し、2023年ではインドが世界一の人口を有している。

 両者を除くと、インドネシアが人口大国なのが分かる。ここでも日本の人口が減少し、フィリピン、ベトナムの人口が増加していることが分かる。

 人口が相対的に少ない国の動きが分かりにくいので、2028年で人口6000万以上の国、インド、中国、インドネシア、日本、フィリピン、ベトナム、タイを除いたのが図1-5-3である。図を見ると、韓国も台湾も人口が減少することが分かる。韓国や台湾の人口が減少していくことを考えると、人口が減っても1人当たりGDPが減るわけではないことがよく分かる。

図1-5-3:アジア主要国の人口(2028年までの予測)2028年で人口6000万以上の国を除く
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人口増加率が低いほど1人当たりGDPの成長率が高い

 そもそも、人口と1人当たりGDPとの関係はどうなっているだろうか。それを見たのが図1-5-4である。

図は縦軸に1人当たりGDPの年平均成長率、横軸に人口の年平均増加率を示したものである(1980年から2023年までの増加率)。図に見るように、日本とブルネイを例外として、人口増加率が低いほど1人当たりGDPの成長率が高いことが分かる。決定係数は図中に示されているように0.383と、相関関係がある(回帰式と決定係数は日本とブルネイを除いたもの)。

図1-5-4:人口増加率と1人当たり実質購買力平価GDP増加率の関係
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 これを見ると、日本は明らかな外れ値である。人口が増加しないほうが1人当たりGDPを増やすためには有利であるのに、その利点を使えなかった国ということになる。

 多くの人は、人口減少が日本のもっとも重大な問題と考えているようである。しかし、1人当たりGDPが伸びなかったことのほうがさらに大きな問題ではないか。

『日本人の賃金を上げる唯一の方法』(PHP研究所)
原田泰 著

 なぜ政治家や役人が人口に夢中になるかというと、人口が増えないのは、誰のせいとも特定できないからだろう。1人当たりGDPが伸びないのは、私に言わせれば金融政策の誤りで景気回復を度々遅らし、構造改革ができなかったからだ。金融政策の誤り説には賛同しない人が多いことを承知しているが、ほとんどの人が構造改革をできなかったことには同意する。

 しかし、どういう構造改革をすべきだったかについては多くの人が答えられない。私は、これまで述べたように、あらゆる分野で生産性の上昇を邪魔するような政策が行われているからだと答えたい。多くの人々が、人口減少が問題だという。

 たしかに問題だが、1人当たりのGDPが増加しないことのほうが、より大きな問題ではないか。国際比較をすると、人口が減少している国ほど1人当たりのGDPが増加する傾向があるのに、日本は外れ値である。

 日本がこのような外れ値になるのは、生産性を上げようとすると、あらゆるところで邪魔が入るからだ。異次元の少子化対策よりも、まずこのような邪魔を除去することが大事である。

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