日本の平均年収は「443万円」、国民負担率46.8…もはや罰ゲーム!

岸田文雄首相は「30年ぶりの高い水準の賃上げ」が実施されるなど、日本経済には前向きな動きが生まれていると豪語する。たしかに大企業を中心に今春闘では高水準の賃上げ回答が見られたが、大半の庶民には実感が及ばない。経済アナリストの佐藤健太氏は「日本の平均年収は443万円だが、物価に加えて国民負担率も上昇しており、所得格差、世代間格差が激しくなっている。これから『超弱肉強食時代』が到来するだろう」と警鐘を鳴らす。

30年ぶりの高水準の賃上げをアピールする岸田首相

「政策的対応もあって、足元では全体で3.66%、中小企業でも3.36%という実に30年ぶりの高い水準の賃上げや100兆円を超える国内投資など、企業の高い投資意欲の発揮、そして33年来の高い株価水準など日本経済には前向きな動きが着実に生まれている」。岸田首相は6月21日の記者会見で、このように自らの経済政策の成果を強調した。

企業に繰り返し賃上げを要求してきた首相が舞い上がるのも無理はない。経団連が5月に公表した回答状況によれば、今年の春闘で大企業(従業員500人以上)の賃上げ率は3.91%となり、1992年以来31年ぶりの高水準となった。連合が7月5日公表した傘下労働組合の賃上げ要求に対する企業側回答(最終集計)を見ても、平均賃上げ率は3.58%と30年ぶりの高水準を更新している。

賃上げはほぼ無意味。実質賃金は14ヶ月連続減少、消費支出も前年同月比でマイナス

とはいえ、首相の言葉に共感が集まらず、空しく響いているのはなぜだろう。その理由は賃上げが実施されたものの、それを上回る負担増が国民に襲いかかり、将来不安を抱えているからだ。

厚生労働省が7月7日発表した5月の毎月勤労統計調査(速報)によると、現金給与総額(名目)は28万3868円で、前年同月比2.5%増だった。だが、これに物価変動を反映させた実質賃金を見ると、前年同月比1.2%減となり、14カ月連続で減少している。つまり、物価上昇に賃金の伸びが追いついていない状況が1年以上も続いているということだ。

これでは財布の紐が緩むことは難しい。総務省が7月7日発表した5月の家計調査を見ても、2人以上世帯の実質消費支出は前年同月比4.0%のマイナスになっている。前年比減は3カ月連続で、名目ベースでも前年同月比0.4%減だった。

社会保険負担はいまだ上昇中で「手足を縛られて泳げと言われているようなもの」

加えて、税金や社会保険料といった国民負担は上昇傾向にある。財務省は今年2月、租税負担率と社会保障負担率を合計した国民負担率が2023年度は46.8%に上るとの見通しを示している。言うまでもないことだが、国民負担率とは国民全体の所得に占める税金、社会保険料の負担割合であり、それが半分近くを占める現状においては「手足を縛っておいて『さぁ泳げ』と背中を押されているようなもの」(東京在住の40代男性)と言われても仕方がないだろう。

国民負担率は2003年度に34.1%だったが、2013年度から40%台が続いている。2023年度の租税負担は28.1%、社会保障負担は18.7%になる計算で、これは10年前から4.9ポイント、1.8ポイントそれぞれ上昇。20年前の2003年と比べれば7.6ポイント、5.1ポイントの増加となっている。

租税負担率の上昇は2014年、2019年の消費税率引き上げが大きいのだが、岸田政権においては2022年末に決定した防衛費大幅増に伴う増税プランに加えて、少子化対策のための財源確保策として社会保険料上乗せ論も飛び出している。2015年の相続税実質増税や2018年からの配偶者控除減額なども考えれば、国民の「懐」は寒くなるばかりで、将来不安は尽きない。

年収443万円の平均的な日本国民はどこにいくら使っているのか。年収増えても支出増える地獄

では、我が国の「平均年収443万円」で暮らしはどうなるのか。一概に言うことは難しいものの、ボーナスを含めた収入の手取り平均は月額30万円弱となる。ただ、総務省の「家計調査報告」(2022年)によれば、単身世帯の平均消費支出は月16万1753円であるものの、2人以上世帯は29万865円だ。最近は共働き世帯が増えているとはいえ、1人だけの収入に頼る家計ならば、この時点で厳しい状況であることがわかる。

さらに消費支出を費目別に見ると、「食料」8万1888円、「交通・通信」4万1535円、「教養・娯楽」2万7619円となっているのだが、「住居」は1万8652円、「教育」は1万1439円にとどまっている。仮に自宅が賃貸物件ならば、「住居」は当然ながら大幅に上昇するはずだ。住宅ローンを抱えている家庭も2万円弱で済むことはない。

平均年収を年齢階層別に見ると、「443万円」という数字は30代後半以降にようやく到達するとわかる。「20~24歳」は269万円、「25~29歳」は371万円、「30~34歳」は413万円で、最も平均年収が高い「55~59歳」は529万円となっている。

ただ、「443万円」に達する35歳以上になれば支出も増える。先に「教育」が1万1439円でカウントされていると記したが、子供が成長していけば塾や習い事といった費用がかさむ。配偶者がフルタイムで勤務していれば、世帯の実収入でカバーできるかもしれないが、パートなどの非正規雇用でプラスするだけでは厳しい生活を余儀なくされるだろう。

税収が上がってぬか喜びする岸田首相。一方、国民は給料上がらず負担だけ増え続ける

岸田首相は「貯蓄から投資へ」とうたい、老後破綻を招かないよう運用による資産形成を呼びかける。だが、投資に回す余裕資金がない国民も少なくない。元々、手元に資金がある富裕層や投資による複利効果の恩恵を大きく享受できる20代の単身世帯は良いかもしれないが、それ以外の人々の生活はハードと言える。

物価や税金、社会保険料負担が上昇する一方で、給与は30年間ほぼ横ばい。足りない分は「転職や副業、投資で埋めてね」という国のスタンスを見れば、所得格差や世代間格差が生じ、「超弱肉強食時代」に入ることがわかるだろう。

政府は2022年度の一般会計決算を発表し、税収は71兆1374億円と前年度比6.1%増になったことを明らかにした。3年連続で過去最高を更新し、初めて70兆円台を突破したという。国民負担率が上昇傾向にある中、税収が上がったと喜ぶ岸田首相。厳しい家計の現状を見ていない首相に「聞く力」があるとは思えない。

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