厚生労働省の調査によれば、日本の所得格差が過去最高になっているそうです。一見、お金持ちがますますお金持ちになっているように見えますが、必ずしもそうではありません。
10月11日に発表された最新(2011年)の所得再分配調査の結果では、所得格差を示す「ジニ係数」が過去最大となりました。ジニ係数は数字が大きい方が所得格差が大きいことを示しています。しかしここでいうところの所得とは、年金や医療といった社会保障による所得再分配を行う前の数字です。
社会保障含む格差は2005年より縮小
社会保障による所得再分配後のジニ係数はあまり変わっておらず、前々回(2005年)との比較ではむしろ低下しています。つまり、最終的な所得の格差は逆に縮小しており、日本はより平等になっているのです。
では所得再分配前の格差はなぜ拡大したのでしょうか? それは世帯収入が50万円未満という低所得者層の割合が大幅に増えたからです。前回の調査(2008年)では、世帯年収50万円未満の層の割合は23.2%でしたが、最新(2011年)の調査では24.9%に拡大しています。所得が少ない人が増えているのは事実なのですが、お金持ちの人がますますお金持ちになっているわけでもありません。世帯年収1000万円以上という高額所得の世帯数は逆に減っているのです。
お金持ちの人が減れば、所得格差は縮小するはずですが、それ以上に、年収50万円未満という世帯が増えたことで、全体としては格差が拡大する形となりました。総合的に考えれば、全体的に所得が下がり、まったく稼げないという人の割合が増加したことで、格差が拡大したというわけです。
格差拡大の原因は「高齢者の増加」
全体の所得が下がった最大の原因は高齢者の増加です。日本が高齢化していくことはあらかじめ分かっていたことですから、本来であれば、より少ない労働人口で高い生産を実現するよう工夫しなければなりません。しかし日本は国際競争力の低下もあって、思うように生産性を向上させることができませんでした。このため所得のない高齢者が増加する影響をモロに受ける形で全体の所得が低下したわけです。
一方、社会保障による再分配後の所得格差は逆に縮小しています。それは不景気が続いていたことが大きく関係しています。実は歴史的に見ても不景気が続いているときほど、最終的な所得格差が小さくなるという現象が見られます。景気がよくなるとお金持ちの人がますますお金持ちになり、逆に所得の格差は拡大するのです。
日本でもっとも所得格差が縮小したのは、世界恐慌から太平洋戦争にかけてという最悪の時期でした。逆に所得格差が急激に拡大したのは、列島改造ブームからバブル景気にかけての好景気の時代なのです。ここ10年はデフレで不況が続いていましたから、再分配後の所得格差は縮小しより平等になっていました。アベノミクスがうまく機能して景気が回復すると、逆に所得の格差は拡大することになるかもしれません。