日本の洋画離れが加速、23年興収初速に見る深刻 正月興行から長年の課題が浮き彫りになった

 興収100億円超え作品が4本を数え、年間興収(2131億円)は歴代最高(2019年)の8割まで戻した2022年。景気のいい話題に沸いた昨年の映画界だったが、今年は正月興行から長年の課題が浮き彫りになる出足になった。 【ランキング表】2022年洋画興収TOP10/意外に多い?興収20億円以上は7位まで  昨年12月からの2023年正月興行では、昨年に引き続き「好調な邦画アニメ」と「低迷する洋画」という対照的な構図になった。  『THE FIRST SLAM DUNK』はすでに興収110億円を突破し、最終120億円超えさえ見込まれる勢いを見せているのに対して、100億円が期待された『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は、前作『アバター』(156億円/2009年)の3分の1以下となる42億円にとどまり、ブラッド・ピット主演の大作『バビロン』も大コケの様相を呈している。

 この20年来続く日本映画市場の課題であった洋画人気の低迷と洋画ファン人口の減少が、コロナでより拍車がかかっていることが鮮明に浮かび上がった。  2000年から現在までの日本の洋画興行を新著『アメリカ映画に明日はあるか』で考察する映画ジャーナリストの大高宏雄氏は、「映画館で洋画を観る観客は年々確実に減っている。このままでは下降傾向から逃れられない」と警鐘を鳴らし、映画館で洋画を観る文化の存続に危機感を募らせる。

■2006年が分岐点になった洋画衰退  昨年は『トップガン マーヴェリック』(136億円)の大ヒットと、コロナによって公開が延期されていた大作シリーズ続編が一気に公開されたことで盛り上がりを見せたかに見える洋画シーンだが、邦画と洋画の年間興収シェアは68.8%と31.2%。  コロナ禍の2020年(邦画76.3%)、2021年(邦画79.3%)からは持ち直しているものの、邦高洋低の近年の傾向は変わらず、むしろより深刻になっている。

 また、2022年洋画興収ランキングトップ10をみると、洋画興収全体も昔の勢いと比べると冴えない(外部配信先では図表、グラフなどの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。  振り返ると1990年代は洋画が7割で邦画が3割の「ななさん」と言われた洋画全盛の時代だった。トム・クルーズ、ブラッド・ピット、レオナルド・ディカプリオ、キアヌ・リーブスらハリウッドスターが出演する大作の多くが大ヒットし、日本映画市場を牽引。洋画が強い時代が続いていた。

 2000年代初頭もその流れが続くが、分岐点になったのが2006年。邦画が大ヒット作を連発し、シェアを53.1%と逆転すると、以降は、大ヒット作のあった年は若干盛り返すものの、「洋画シェア下降傾向」=「洋画の衰退」は長年にわたって続き、2020年のコロナ禍で公開本数もシェアも激減。作品本数は盛り返した2022年もコロナ以前の長年の傾向は変わらず、その流れをコロナ禍がより悪化させる結果になった。

■洋画興行を下支えしていた中級ヒットが激減

 洋画興行は、2つの層の動員からなる。1つはシリーズ続編など名の知れたハリウッド大作の話題性で動く不特定多数の一般層。もう1つは、中級ヒット(10億円クラスのヒット)を支えるウェルメイド(出来や構成がよい)なアメリカ映画好きの洋画ファン層。  前者は毎年数本はあるハリウッド大作の当たり外れによって動員の上下はあるものの、話題作には動く。一方、後者の洋画ファンは近年じわじわと減少しており、洋画興行を下支えしていた中級クラスのヒット減に歯止めがかからない。それが2006年以降の洋画シェアの縮小傾向に表れている。

 この背景を大高氏は「ハリウッド映画が定番化し、日本人の観客に飽きられてきた」とする。  その要因の1つとなるのが、近年のハリウッド映画で多用され、進化を遂げてきたCG映像だ。かつては壮大なスペクタクル映像が観客に驚きや感動を与えたが、いまやそこに以前のような新鮮さはない。  「2000年代頭までは進化していくCG映像に観客は目を見張った。しかし、次第にスペクタクル映像の見せ場ばかりになると、だんだん慣れが染み渡っていく。その後、3Dという新たな革新があったがその命脈は短かった。その先の技術革新はなかなかできていない。行き着くところまで行き着いてしまい、映像にもはや驚きや新鮮さがなく、観客離れが起きてきた」

 もう1つがストーリー性。日本人の共感や感動を誘うウェルメイドな人間ドラマが減っていることだ。  昨今のハリウッドスタジオ経営者やプロデューサーによるマーケティング主導の製作は、過去の成功を踏襲し、観客のニーズに寄り添い、迎合するものでもある。  大高氏は「ハリウッドスタジオの企画力が脆弱化している。観客をハラハラドキドキさせた、かつての映画製作ノウハウに長けたトップやプロデューサーが減っているのかもしれない」と指摘する。

 それにより、大枠で同じような内容の映画ばかりになってしまい、ストーリーの新しさといった新機軸が生まれてこない。アクションやラブストーリーといったジャンルを超えて洋画が定番化しているのだ。

■名前で観客を呼べるハリウッドスター不在  それに加えて、大高氏はハリウッドスターの不在も洋画不振の大きな要因として挙げる。  「1990年代は俳優の名前で観客を呼べるスターが何人もいたが、いまやそんなスター主義は滅び、トム・クルーズだけが王道のスター性をつないでいる。彼1人だけでは興行は伸びない。いろいろな外的要因はあるが、スターを生み出せなくなったことが洋画衰退の根本にある」

 その外的要因の1つには時代性があるだろう。洋画が強かった1990年代とそれ以降では、観客を取り巻く情報量がまったく変わっている。ネット時代にさまざまなエンターテインメントがあふれるなか、洋画の相対的なステータスが日本人の間で下がっていることが考えられる。かつてはハリウッドスターは憧れの的であり、時代の最先端はハリウッド映画が映していた。しかしいまやそういう時代ではない。  一方、情報過多の時代に一過性のスターやブームは生まれている。たとえば、韓流ブームで四天王が人気になり、スポーツではオリンピックのメダリストのほか、W杯などメジャーな世界大会で日本が勝ったときのサッカー選手やラグビー選手、野球やテニスでも世界的に活躍するプロ選手は時の人になる。しかし、その旬の人気はいつまでも続くわけではない。

 そう考えるとハリウッドスターもその系譜になるのかもしれない。かつてのような時代を超えて出演する作品ごとに大ヒットを生み出すスターはなかなか生まれにくい環境になっている。  外国人俳優でいま世界的に人気のティモシー・シャラメは、『ボーンズ アンド オール』のように日本でも女性映画ファンの足を劇場に向かわせているが、それもコアでありマスではない。  趣味嗜好が多様化し、分散するなか、名前で不特定多数の観客を呼べるハリウッドスターの不在はいまの時代のデフォルトになっている。そんな時代性のなか、洋画はファンの減少に対する有効な打開策を打てていないのが現状ではないだろうか。

■洋画人口減少の打開への2つのポイント  この2年間は、コロナ不安と洋画の供給が止まったことにより、年配層が比較的多い洋画ファンの足が劇場から遠のいた。  しかし、昨年は大作を含めて作品が戻り、コロナ不安も和らいだにもかかわらず、思うように観客が戻らなかった。コロナ禍で映像コンテンツのネット配信視聴が一般的になったエンターテインメントを取り巻く環境を鑑みると、「戻りが遅い」のではなく「いなくなった」という仮設も成り立つ。

 そんな状況下で日本映画界は何ができるのか。洋画に振り向かなくなった一般層を再び劇場に呼び戻すにはどうするか。洋画ファンの減少に歯止めをかけ、若い世代を含めたファンをどう育てていくか。  大高氏は2つのポイントを挙げる。まず日本の洋画配給会社がすべきこととして「ハリウッドスタジオが世界市場を見据えるなか、本国の言いなりではなく、日本市場を理解している日本支社が率先して、作品ごとに日本人の心に刺さる宣伝をしていかないといけない」。

 宣伝手法も大枠では似通っていたり、定番化したフォーマットが踏襲されているケースもある。それもすべてリセットして、これまでやってこなかったことに踏み込む発想も必要だろう。  もう1つは、メディアと洋画配給会社が洋画の面白さを伝えていくことだ。  「洋画の面白さを若い世代に伝え、洋画ファンの裾野を広げていく映画の伝道師が何人も必要。昔は淀川長治さんたちがいた。多岐にわたる作品を横断する専門的な知識があり、広い範囲で娯楽と文化、双方の映画の魅力を語れる人。そのような方々をメディアと洋画配給会社が育てていってほしい」

 洋画人口の減少に歯止めがかからない現状を振り返り、大高氏は「ハリウッドスタジオが日本市場を重視しなくなる過程に2023年はある。日本の洋画配給会社はそれをじっくり考えないといけない」と危機感をにじませる。

■洋画のプレゼンスが下がるなかの明るい兆し  一方で、明るい兆しもある。洋画のプレゼンスが下がり続けるなか、昨年は『トップガン』のスーパーヒットが生まれた。いくつかの要素が重なった結果の一点突破だが、条件さえ揃えば洋画は社会現象的ヒットを生み出すポテンシャルをいまも変わらず秘めていることが証明された。

 そして、日本映画界の洋画の雄であるディズニー。2010年代に世界を席巻したディズニー映画の立役者であるロバート・A・アイガー氏が、昨年11月に本国のCEOに復帰した。2019年には100億円超えの大ヒット作を3本送り出していた強いディズニーが来年、再来年には戻ってくるかもしれない。  今年は、昨年の映画界を救ったトム・クルーズ主演の『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』(7月21日公開)、往年のハリウッドスターのハリソン・フォード主演『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(6月30日公開)と夏に注目作がある。この先の洋画の流れを占うひとつの試金石になるだろう。配給会社の奮起に期待したい。

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