日本の潜水艦技術は「王冠の宝石」、下請けにならない交渉力も

 今月11日、都内で日本とオーストラリアの外務・防衛閣僚協議(2プラス2)が開かれ、防衛装備品の共同開発に関する政府間協定の締結に向け、協議を加速化することで一致した。オーストラリア側の関心は潜水艦にある。
 「日本の潜水艦技術は『クラウンジュエル(王冠の宝石)』だ」。防衛に詳しい専門家は指摘する。
 クラウンジュエル-。企業買収で買収者が狙う、対象企業の重要な事業や資産を指す。防衛の世界でも敵のレーダー網に見つかりにくい米国のステルス技術など、他国にまねできない技術や製品がそう呼ばれる。
 明治37(1904)年に日本初の潜水艦の建造を始めた川崎重工業と三菱重工業。日本が原子力潜水艦を保有しない中、ディーゼル式潜水艦の性能向上に取り組んできた。水の抵抗を減らす技術や静粛性、ステルス性能、空気を使わず発電し、長期間の潜水を可能にするシステムなど、各国の防衛関係者が一目置く。
 中国が南シナ海などへの進出を強めており、オーストラリアも防衛力強化を迫られている。ジョンストン国防相は「非原子力の潜水艦で、日本製は大変質が高い」と持ち上げる。
 共同開発は世界の潮流だ。最先端兵器の開発には莫大(ばくだい)な投資や技術が必要になる一方、歳出削減は各国共通のテーマだからだ。ただ、日本は武器輸出三原則がネックになっていた。
 米英などが進める次世代ステルス戦闘機「F35」のプロジェクトで日本は開発段階からは参加できす、生産で三菱重工やIHIが参画する。技術の情報開示は限定的とされ、下請けになる懸念もくすぶる。
 新たな防衛装備移転三原則は国内企業の共同開発に道を開く。三菱重工の宮永俊一社長は「共同開発をしていくことで、われわれも技術者を維持していくことができる」と話す。共同開発では日本の先端技術が流出する懸念もあり、主導権を握る交渉力も不可欠だ。
 防衛装備品の売り先が政府しかない状況で、国内メーカーが得意としてきたのが民生品への転用だ。
 三菱電機は戦闘機用で世界初の「アクティブ・フェーズド・アレイ・レーダー」を開発するなど、高性能のレーダーや無線を得意とする。そこで培った技術は自動車の衝突防止に使われる車載用ミリ波レーダーや自動料金収受システム(ETC)に活用する。
 富士通の窒化ガリウムという半導体材料を使った技術は情報をより遠くに送信することができ、レーダーのほか、携帯電話の基地局などにも使用される。
 1つの技術を防衛と民生の両市場で活用することを「デュアルユース」(二重利用)と呼ぶ。インターネットや衛星利用測位システム(GPS)、電子レンジなど、軍事技術に由来する民生品は多く、両者の境界はあいまいだ。
 米アイロボットは家庭用のロボット掃除機「ルンバ」のほか、軍事用ロボットも手がける。ロボット事業を強化する米インターネット検索大手のグーグルは、軍事用ロボットを開発する企業を買収した。
 富士通の山本正已社長は「肝心なのは技術力、先進性でリードできるものを持っているかどうかだ」と話す。日本の教育機関は軍事アレルギーが強いが、欧米では産学軍が連携して研究開発を行うケースも少なくない。民間転用もにらみながら、官民が協力して先端技術の開発を進める工夫が求められる。

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