日本の相続税は本当に高いのか?世界相続税ランキング

ネットビジネスが普及し、物理的拠点を持たない国際企業へのデジタル課税について、OECD(経済協力開発機構)で議論が交わされてきた。2021年7月、ようやく大枠で合意。課税の国際デジタル化はいずれ事業所得以外にも及ぶのだろうか。(税理士、岡野雄志税理士事務所所長 岡野雄志)

相続税が高い国ランキング! 日本は何位?

 日本の相続税は世界に比して高いといわれる。果たして、本当に事実その通りなのだろうか。そこで、世界各国の相続税率を改めて調べてみた。日本のほか、英国、フランス、ドイツ、米国という主要国の相続税率を比較してみよう。

◎3億円の財産を配偶者と子2人が相続した場合

※( )内は税負担率

1位:英国(14.06%)

2位:日本(9.53%)

3位:フランス(8.21%)

4位:ドイツ(1.89%)

5位:米国(0%)

 この場合、日本より英国のほうが税負担率は高い。しかし、相続財産額が11億円を超えるあたりから、英国と日本の負担率が逆転する。

 さらに、最高税率だけを単純比較すると、下記のようになる。こちらは2020年11月、韓国経済研究院発表の報告書によるもので、OECD加盟国の相続税最高税率が高い上位16カ国である。

◎OECD加盟国で相続税・遺産税の最高税率が高い順トップ15

1位:日本(55%)

2位:韓国(50%)

3位:フランス(45%)

4位:英国、米国(40%)

6位:スペイン(34%)

7位:アイルランド(33%)

8位:ベルギー、ドイツ(30%)

10位:チリ(25%)

11位:ギリシャ、オランダ(20%)

13位:フィンランド(19%)

14位:デンマーク(15%)

15位:アイスランド、トルコ(10%)

「やはり日本は高い」ということになるが、実際には、基礎控除なども各国異なるので、単純に最高税率だけでは比べられない。

 例えば、英国は相続財産に家の持ち分が含まれ、遺産総額200万ポンド(2.74億円程度)超の場合、直系子孫がそれを相続すると、基礎控除額が17.5万ポンド(2398万円程度)加算される。米国の遺産税は、課税価格が約25.2億円までは負担率が0%なので、よほどの富裕層でないと課税されない。

 海外には、相続税や遺産税がない国もある。中国、シンガポール、マレーシア、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、スウェーデンなどがそうである。なかには、富裕層を自国へ呼び込むために相続税を廃止した国もある。

 かといって、相続税回避のため、こうした国へ急ぎ資産移転をと考えるのは早計である。平成29年度税制改正で、富裕層の海外移住による相続税逃れ防止が強化された。相続税を免れる条件は、被相続人と相続人が相続発生の10年以上前からその国に居住していること。資産のみならず、家族総出で海外転居も辞さないというなら可能だ。

 ところが、海外資産で節税しようという富裕層は、依然多いようである。国税庁によると、令和元年事務年度の相続税務調査で、海外資産の申告漏れなどの非違件数が過去最高となった。

 日本人が海外の金融機関に保有する口座は、今や約55万に及ぶといわれている。しかし、国税当局も海外資産に関する調査に注力している。外国税務当局から情報提供を受けるCRS(Common Reporting Standard/共通報告基準)が、一定の成果を上げていると見ていいだろう。

日本の相続税はなぜ高い? その理由と背景を徹底検証!

 日本の課税方式に基づく現行相続税は、第2次大戦後の1949年に米国の経済学者・シャウプ教授による報告書、いわゆる「シャウプ勧告」に従い1958年に導入された。恒久的な租税制度の確立を目的とし、相続税は実質的財産税(税源が財産自体にあるもの)とすることを主眼としている。

 シャウプ税制は公平な税体系を一貫して目指し、税制の根幹に所得税を据え、基礎控除額を引き上げて負担軽減を図った。その減収分は富裕税として高額所得者への課税で補うものとした。しかし、戦後復興期である当時の日本の実情に合わず、執行が困難な富裕税は1953年に廃止された。

 現在、日本では、所得税、相続税、贈与税に「超過累進課税」が用いられている。課税標準が一定額を超えると、超過金額に対し、高い税率が適用される。これは「税の再分配」の仕組みに基づく。すなわち、所得や資産の多い人からより多くの税を徴収し、社会保障給付等として再分配して、持たざる人も平等に暮らせるようにする考え方だ。

 OECDに言わせれば、「相続税、遺産税、贈与税は、不平等対策と公財政の改善により強力な役割を果たすことができる」そうだ。特にコロナ禍で財源の圧縮に悩む国の政府は、不平等対策の重要な手段として、相続税や遺産税にもっと注目し、制度設計を見直すべきだと提言している。

 税収のうち相続税の占める割合が多い国順は、韓国、ベルギー、フランス、日本、フィンランド……となっている。しかし、トップの韓国でさえ1.59%。日本は1.33%。OECDは、コロナ禍で国の財源確保が苦しい時にこそ、相続税を収入源としてもっと重視してはどうかというのである。

 何をもって財産とするかは、国によって価値観が異なる。財産を得る方法も異なるし、相続ともなれば文化や宗教観も関わってくる。相続税に関して、そうそう世界各国共通の基準ができるとも思えない。しかし、資産形成の手段が一層デジタル化・国際化すれば共通基準も必要となるだろう。

 令和3年度税制改正大綱の前文に「相続税と贈与税の一体化」について記され、波紋を呼んでいる。「今後、こうした諸外国の制度を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する」との文言もあり、海外とどのように足並みをそろえていくのかも注目したいところだ。

※相続税と贈与税の一体化については、『富裕層の節税対策を封じ込める!?「相続税と贈与税の一体化」』参照。

相続税の徴収決定済額 トップは東京都

 相続税には「税の再分配」のほかに、もうひとつ役目がある。それは、「所得還元」だ。「所得還元」とは、本来、被相続人が払うべきだった所得税の代わりに、財産を引き継いだ相続人が相続税として支払うというものだ。

 相続人にしてみれば、降って湧いたような課税なので、割り切れない気持ちもあるかもしれない。しかし、相続財産は不労所得の一種。働かずに得た財産の一部を税金として納め、社会に還元されるのは致し方なしと考えるべきだろう。

 とはいえ、納税額は抑えられるなら抑えるに越したことはない。節税対策ができるならしたほうが良いし、むろん、相続税の払い過ぎはしないほうが良い。そして、税務調査対策もしたほうが良い。万が一、税務調査で申告漏れなどが見つかれば、多額の追徴課税を伴ってしまう。

 なお、国税庁は毎年、国税徴収状況をホームページで公表している。『令和2年度 国税徴収 (3)都道府県別の徴収状況』によると、相続税の徴収決定済額(納税義務の確定した国税のうち徴収決定した額)トップ10、収納未済額(期間内に納入されなかった額)トップ10は以下の通り。

●相続税の徴収決定済額・都道府県別トップ10

1位:東京都(7634億5200万円)

2位:神奈川県(2384億1400万円)

3位:愛知県(2070億890万円)

4位:大阪府(1873億3700万円)

5位:埼玉県(1575億3500万円)

6位:兵庫県(1098億9200万円)

7位:千葉県(989億6300万円)

8位:京都府(589億700万円)

9位:静岡県(582億9000万円)

10位:福岡県(516億9400万円)

●相続税の収納未済額・都道府県別トップ10

1位:東京都(649億5000万円)

2位:神奈川県(130億250万円)

3位:愛知県(102億7400万円)

4位:大阪府(95億8100万円)

5位:埼玉県(76億300万円)

6位:千葉県(71億6800万円)

7位:兵庫県(41億6500万円)

8位:北海道(28億2700万円)

9位:鹿児島県(26億6600万円)

10位:広島県(25億9900万円)

 相続税は控除や特例の適用条件が複雑で、特に遺産に不動産が含まれる場合は専門知識を要することもある。相続税の税務調査は自分で申告した人が対象になりやすい。税務署には相談窓口があり、専門士業も最初の問い合わせは無料の事務所も多い。期日を過ぎるよりは早めのご相談を。

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