日本は世界第2位の「政府の隠れ資産」大国

日本はGDP比で世界有数の資産をもっているという事実をご存じだろうか。石油など資源も少ない日本だが、実は多くの知られざる公的資産を持っているという。GDPの倍以上もある公的債務も上回る規模だ。

世界各国で公的資産活用を分析してアドバイスしている著者たちによれば、眠っている公的資産をうまく活用するだけで、債務削減と経済成長の両方が同時に実現できるという。

それでは、世界ではどのように政府資産を活用しているのだろうか。その実態と運用を改善する方法を掘り下げ、「エコノミスト」誌と「フィナンシャル・タイムズ」紙で2015年ベストブックに選ばれたのが『政府の隠れ資産』(ダグ・デッター、ステファン・フォルスター著)だ。今回、本書の日本語版への序文を、一部編集のうえ掲載する。

公的債務を上回る公的資産が眠っている日本

日本の公的債務はGDPの200%を上回り、OECD加盟諸国の平均の2倍以上に達する。しかも高齢化社会、低インフレ、増税への強硬な反対が障害となり、解決への糸口は見えない。

しかしここにひとつ、ほとんど注目されない別の一面が存在している。国民の目から隠されているが、大半の国の政府は驚くほどたくさんの資産を所有しており、それは超債務国も例外ではない。これらの資産を構成するのは国営産業の遺産で、具体的には空港、港、発電所、地方または全国レベルの公共交通システム、たとえば東京メトロなどが含まれる。

ただし、大きな価値のある資産は見えないところに隠されているケースが多い。実のところほとんどの政府、それも特に自治体は、大きな不動産ポートフォリオを所有している。そして、広大な土地と知的所有権を合計した商業的価値はとてつもなく大きい。

実は、公的資産がその国のGDPのなかで占める割合を分析すると、日本は信頼できる統計のある国々の中で、世界第2位に位置している。その額は、問題視されている公的債務を上回り、GDPの2倍以上となっている。GDPの2倍以上の公的資産を持つ国は、日本のほかにノルウェー、ラトビア、チェコの3カ国しかない(IMFの2013年データより筆者ら推計)。

既得権益者がしまいこんでいる公的資産

本書では、その公的資産を活用して、経済成長を押し上げて福祉全体を改善するために、比較的痛みの少ない方法を提言している。

最初の課題は、公的資産がどこにどれだけ存在しており、どれだけの価値があるのか正確に評価して公表することだ。2013年のIMF報告書によれば、政府のバランスシートのなかで非金融資産が占める価値は平均で67%だが、国・地域ごとのバラツキは大きく、日本や韓国は120%、スイスや香港は25%未満となっている。

しかし、これらの数字はほぼ確実に過小評価されている。見えているのは氷山の一角にすぎない。というのも、国の資産の大部分はレベルの異なる場所に隠されているからだ。伝統的に顧みられないケースは多く、時として既得権益者が国民の目の届かない場所にしまいこんでいる。

これらの公共の資産がビジネスに長けた専門家の手に委ねられれば、すべての政府にとって大きな歳入を確保するための新たな道が開かれる。日本郵政公社はIPOを大々的に行い、最近(2016年10月)ではJR九州の上場が話題になったが、民営化だけに頼る必要はないと著者らは考えている。

公共の商業資産を賢明に運用するだけでも、世界では年間2兆7000億ドルの収益が生み出されると試算している。この金額は、インフラ、交通、電力、水、コミュニケーションに現在世界中で費やされている金額を上回る数字だ。日本の潜在能力はこれよりも高い。

ここで肝心なのは、これらの資産の運営を専門家の手に委ねるだけでなく、政治家や政策立案者に干渉されない場所にとどめ、短期的な政治的思惑に左右されない環境を整えることだ。そのためには資産の所有権と管理を、専門家で構成される透明性の高い開発会社、すなわちナショナル・ウェルス・ファンド(NWF)に任せればよい。

NWFは今日の政治家の利益を確保するための組織ではなく、納税者である国民に対して説明責任を持つ。あらゆるオペレーショナルアセットの開発に取り組み、将来売却する可能性を視野に入れて、資産価値の向上に積極的にかかわることを使命とする。

シンガポールやスウェーデンの成功例に学べ

具体的には土地開発の許可を受け、非効率的な商業資産の合理化を進め、基本的なインフラを改善しながら、売却するまでに土地の価値を高める。そうすれば、資産を慌ててたたき売る必要もなくなるだろう。納税者である国民の資産を適切に管理して、価値の最大化を図ることに専念すればよい。たとえ政府が長期にわたって所有し続ける資産でも、正しく運用すれば納税者にとって手堅い収入源になることは可能だ。

このような取り組みは困難な印象を受けるかもしれないが、実際にはシンガポールのテマセクや1990年代のスウェーデンで大きな成功を収めている。そして香港やヨーロッパの都市、ロンドンやコペンハーゲンやハンブルクでも成果を上げている。

日本では「失われた10年」から10年以上が経過したにもかかわらず、国の借金と財政赤字の規模は膨れ上がったままで、低成長に苦しんでいる。このように政府は大きな債務を抱えているが、人口問題が財政的な制約に追い打ちをかけている。

一方、これまで世界貿易発展の牽引役を務めてきた新興国に、もはやその役割は期待できない。これからの日本経済はインフラなどへの投資に本気で取り組むべきだ。

実際、気候変動、貧困と移民、デジタル革命、高齢化社会など、投資の機会には事欠かず、いずれにおいてもインフラの改善が喫緊の課題になっている。厳しい天候に耐え、成長や生産性を育み、デジタルディバイドを解消し、高齢者にやさしい社会づくりを目指さなければいけない。本書は、日本に真の機会を提供する一冊になるだろう。

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