日本を「イノベーション大国」に

(ブルームバーグ): 日本が国の再起動を目指している。

  安倍晋三首相は世界3位の経済大国である日本の再活性化を 図っているが、この一環で2020年の東京五輪開催を前にイノベーション (技術革新)を加速させようとしている。

   自動運転車の路上導入やロボット技術をベースとする最新の テクノロジー利用に向けた公的・民間セクターの共同プロジェクトを国 が支援し、首相は今年度末までに研究開発投資を国内総生産(GDP) の4%まで高めようとしている。この比率は2年前は3.75%だった。18 年の早い時期までに日本をイノベーションでトップクラスの国にするこ とが政府の目標だ。

  航空部門では ここ数カ月に進展が既にあった。約半世紀ぶり の開発となった国産旅客機が初飛行に成功したほか、国産ステルス機の テスト飛行にも近づいている。これに成功した国はこれまで3カ国の み。また、ホンダは小型ビジネ ス航空機「ホンダジェット」の型式証 明を米連邦航空局(FAA)から取り付けた。

  ヘルスケアでも進歩が見られる。政府は14年、薬事法を改 正。これで再生医療に使う細胞や組織の早期承認が可能となり、富士フ イルムホールディングスは組織や臓器の再生を促す幹細胞利用に野心的 だ。また、15年のノーベル物理学賞受賞者を陰で支えていたのは浜松ホ トニクスの光センサー技術だった。

   最盛期の日本からは「ウォークマン」や新幹線といった世界 のイノベーションをけん引するような製品や技術が登場したが、近年は かつての輝きを失っている。1990年代初頭のバブル崩壊後の経済成長停 滞とデフレが企業の信頼感や事業計画に重しとなってきたほか、隣国で ある中国や韓国が研究開発投資を急増。現在のスマートフォンやインタ ーネット産業を率いるのは米グーグルやアップル、韓国のサムスン電子 などだ。

   一方、日本は自動車業界では世界のリーダーの地位を保って いる。日産自動車は昨年11月、ハンドルを格納してドライバーを運転か ら解放するモードを設定したコンセプトモデルを自動車ショーに出展。 ホンダやトヨタ自動車もドライバーの操作なしに車線を変更したり衝突 を回避したりする完全自動運転の最新技術を披露した。

  ベンチャー投資を行うスクラムベンチャーズ(本社 サンフラ ンシスコ)の創業者、宮田拓弥氏は、トヨタや他の自動車メーカーは市 場シェア、技術、データから見て、同業界の中で引き続き非常に有利な 立場を維持していると説明、スマホでの失敗とは異なり、十分に迅速に 動けば日本はこの分野では勝者となりイノベーションを率いることがで きると話した。

  とはいえ、競争相手も取り組みを加速させている。経済協力 開発機構(OECD)によれば、中国も韓国も近年は研究開発投資を日 本よりも速いペースで増やしてきた。中国の研究開発投資は対GDP比 で13年に2.08%と、2000年の0.9%を大きく上回った。韓国は4.15% と、2000年の2.18%から大幅に引き上げた。日本は3.47%(2000年は 3%)だった。さらには中国の企業は韓国企業の買収をかつてないペー スで進めており、これも日本にはリスクとなる。

  最近のデータは日本企業が設備投資を増やしている状況を示 すが、それでも多くが自国市場への重点投資には後ろ向きで支出は07年 につけたピークを大きく下回っている。

  みずほ総合研究所の徳田秀信主任エコノミストは、最大の課 題は生産性を押し上げ経済上の結果をもたらす適切なプログラム向けの 資金を確保することだと指摘。さらに、研究開発費を増やすというよ り、その質を改善することが重要だと強調した。

   これに対し、マッキンゼーのシニアパートナーでイノベーシ ョンが専門のエリック・ロス氏は、日本は現在のポジションを維持する だけでも多大な投資が必要だと説く。競争が激化している現状では「速 く進んでいるつもりでも足踏み状態に終わる。加速させたいのなら、一 段の投資が必要だ」と述べた。

原題:Planes, Trains and Automobiles Showcase Japan Innovation Push(抜粋)

 

–取材協力:Natasha Khan、Craig Trudell、Ailing Tan.

 

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