国際競争力の低下と少子高齢化が再三叫ばれる一方、多くの日本人は自国を「大国」であるとなぜか信じている。しかし、数々の統計やランキングは、日本が間違いなく「小国」になることを冷徹に示している。『日本は小国になるが、それは絶望ではない』を上梓した加谷珪一氏が、日本が小国に転じる未来と、「小国・日本」の進む道を論じる。
今後、日本の人口が増加することはない
日本の人口が急激に減りつつあることは多くの国民にとって共通認識だが、真の意味で人口減少がもたらす影響についてはあまり知られていない。
2020年、日本の総人口は約1億2600万人。2008年に1億2800万人を突破したのをピークに、人口は減少している。厚生労働省の調査によると、2019年に生まれた子どもの数は86万4000人で、統計開始以来初めて90万人を割った。このまま出生数の低下が続くと、2100年には4906万人にまで人口が減ってしまう。およそ80年で8000万人も減るのだから、これは100万人都市が毎年1つずつ消滅する計算だ。仙台市(109万人)や千葉市(98万人)などが毎年消えると言われれば、そのインパクトがわかるだろう。
この話を聞いて、多くの人が「少子化対策を充実させるべきだ」と考えるだろう。しかしこれを実現するのは容易ではない。人口動態というものは50年、100年という単位で動くものであり、今からではすでにタイミングが遅すぎるのだ。
今、社会では人口減少と高齢化が同時進行している。総人口が減る一方、高齢者の寿命は年々延びており、日本の人口は、老人が多く若者が少ない逆ピラミッド型にシフトしている。現役世代は、昭和時代と比較して、社会保険料や税金などの経済的負担が極めて重くなっていることは明らかである。
例えば、何らかの手段で人為的に出生率を上げたとすると、老人の数は変わらず子どもの数が増え、人口ピラミッドは中央がくぼんだ形となる。単純に出生率を上げるだけでは、子育て世代の国民に想像を絶する過度な負担がかかってしまうのだ。
こうした人口動態による制約条件を考えると、今後、出生率が高まり人口が増加に転じる可能性はほぼゼロに近いと考えたほうがよいだろう。
「大国の条件」が証明する日本の小国化
全世界には200近くの国家が存在するが、5000万人以上の人口を持つ国は28カ国しかない。人口という点に限って言えば、5000万という数が大国の基準と言えるだろう。
もちろん人口が多ければ豊かとは限らないが、人口の多い国はGDPも大きくなる傾向が見られる。次に示す人口のランキングで上位を占めるのは中国とインドで、中国には約14億人、インドには13.5億人の人が住む。次いで、アメリカ、インドネシア、ブラジルと続き、日本は10位。
一方、2019年時点で全世界のGDPは約87兆ドルで、5000億ドル以上の規模を持つ国はたった25カ国。GDPという観点では、5000億ドル以上の規模を持つことが大国の条件と考えられる。
ドイツやイギリス、フランス、イタリアなどのいわゆる先進主要国は、人口は中国などと比較すると多くないが、それでも6000万人から8000万人の人口があり、人口という面においても大国に分類されている。一方、パキスタンやナイジェリア、バングラデシュのGDPは5000億ドルに迫る勢いで、人口の多寡はGDPの規模に大きく影響していると言える。
日本経済研究センターによると、2060年における日本のGDPは4.6兆ドルでほぼゼロ成長の見通しだが、アメリカは34.7兆ドル、中国は32.2兆ドル、インドは25.5兆ドルと日本の5.5~7.5倍にまで規模を拡大させることが予想されている。5000億ドルのボーダーラインを割るには至らないものの、日本の相対的な規模は著しく小さくなってしまう。
人口減少に加え、産業競争力の低下という問題にも直面している日本は、このままでは人口とGDPの両面で、ほぼ確実に小国化するのである。
小国になることは、不幸なことなのか
ここまでを読むと、もはや日本の未来に明るい材料はないと思ってしまうかもしれないが、これは「日本が何も変わらない」場合のことである。むしろ、小国となっても豊かな社会を実現できるポテンシャルを日本は持っているのだ。
現に、シンガポールやスウェーデンなど、世界には豊かな社会を実現している小国がいくつもあるが、これらの国々に共通するのは「高い生産性」である。人口が少なくても、国民それぞれが大きく稼ぐことで、豊かな社会を実現しているのだ。
日本の場合、まだ1億人以上の大きな人口(市場)という他国にないアドバンテージを持っている。人口減少は避けられないが、本格的な人口減少が現実のものとなる前に企業の生産性を高めれば、日本は豊かになれるのである。
いま、日本に必要なのは、「日本は経済大国」「日本はものづくり大国」といった幻想から脱却し、生産性を高める産業構造へ変革することだ。それは、これまでの常識をリセットする、大変革である。コロナ禍で世界が大きく変わりつつある現在、日本は最大の転換期を迎えているといっても過言ではないのだ。